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歴史・文化(中南米) 1

「ラテンアメリカ楽器紀行」 山川出版社
山本紀夫 著 

   ラテンアメリカ楽器紀行 (historia)


世界でも類を見ないほど多様な民俗楽器があるラテンアメリカ。歴史と文化の変遷を辿りながら、その中から生まれ、消えていく楽器や音楽について紹介する。

 取り上げられている地域はメキシコ、キューバなど中米からペルー、ボリビア、ブラジルまで広範囲です。もちろんメインは楽器のお話。どんな形で、どんな音がするのか。どこからやってきて、どんな風に変化したのか。こんな風に歴史とからめて読むと、聴きなれた音楽もこれまでとは違う風にきこえるかもと、さっそくCDを取り出してしまいました。

 民俗楽器を扱う本の中では珍しいな、と思ったのが、ヨーロッパの古楽についても触れられている点です。15〜16世紀のスペイン、ポルトガルによる征服時代、音楽もキリスト教の布教に欠かせないものなので(教会音楽の伴奏をしますから)多くの楽器や楽譜がヨーロッパから持ち込まれたそうです。そのためか民俗楽器の範疇からははずされがちなパイプオルガン、ヴィオール類にも話が広がり、ファゴットとモセーニョの構造が似ていることなども語られています。ヨーロッパ古楽も好きなので、関連して語られているのは嬉しかったです。

 ラテンアメリカとキリスト教文化との融合についても触れられています。ヨーロッパ人による15世紀の侵略以来の経緯は複雑ですが、確かに文化は混ざり合い、分かち難いものになって今に受け継がれているのだ、と楽器を見ることで感じることができました。
(2006.3.28)

「アンデス、祭りめぐり」 青弓社
鈴木智子 著 

   アンデス、祭りめぐり (寺子屋ブックス)


アンデスの祭りに魅せられてペルー各地を歩いた著者のフォトエッセイ。「コイヨリッティ(星と雪の祭り)」「インティライミ(新年の祭り)」「聖カルメン祭」他が取り上げられている。

 読みながら、浅草三社祭りで神輿を追っかけて走る町衆姿が思い浮かびました。そんなわくわく感が伝わる旅行記です。墓どろぼうを探したり、祭りの行列を追いかけて装備も足らないまま山を登ってしまったりと体当たりな様子にはらはらしますが、そんな著者を心配してくれるペルー人の温かさが感じられました。
 前に読んだ「リャマとアルパカ」に紹介されたカルゴ(祭りの世話役。食べ物や酒を供する)という習慣も出てきました。学者さんの難しい話だけでなく、こういうエッセイで読めると、どんな存在なのか実感が伝わります。
 著者と同じように、私もコイヨリッティが好きなので行列を追いかけていく文章が嬉しいです。できれば、写真はカラーで見たかったです。
(2006.5.4)

「アンデス奇祭紀行」 青弓社
鈴木智子 著 

   アンデス奇祭紀行


前作「アンデス、祭りめぐり」に続くペルーの祭りの紹介。あまり広く知られていないものや風変わりな踊り、習慣が見られる祭りが取り上げられている。「けんか祭り」、霊魂の行列を模した「トレントンの死者の祭り」など。

 けんか祭りとか、はさみ踊りは数年前TV番組で見たことがありますが、確かに他は初めて知るお祭りでした。キリストの受難劇を行ったり、民族衣装を着て教会で結婚式を挙げる(これも祭り?)など、キリスト教(カトリック)色の強いものもあれば、一方で、コカの葉占いやクイヤーダ(クイという動物を使って病気を治す)など呪術儀式もある。どちらにも真剣な村人たちの姿が印象的でした。
 けんか祭りの章では、「美しいけんかを夢見て、ひそかに練習を積んでいる」という著者のコメントに笑ってしまいました。
 このお祭り、暴力的で野蛮として教会他から非難の目で見られるらしい。しかし、けんかと言ってもルールなしのものではない。弱いもの苛めはしない、倒れた者を攻撃し続けてはいけない、酔っていてはいけない、など決まりがある。一年に一度の程度を弁えた行事を、よそ者があれこれ言うのもどうだかなあ、という気がしました。当事者たちも祭りが終わればすっきり仲直りするらしい。これからも元気に、美しく殴り合って欲しい、と思いました(笑)。
(2006.5.4)

「雄牛とコンドル
―アンデス社会の儀礼と民話―
岩波書店
友枝啓泰 著 

  雄牛とコンドル―アンデス社会の儀礼と民話


家畜への焼印入れの祭り、コンドルを使った闘牛(コンドルラチ)の様子が細かく記録されている。祭りの決まりごとや歌の言葉を通して、中央アンデス住民の世界観をさぐる。4章では中央アンデスとアマゾンの民話から植物栽培や食習慣の起源などを考える。巻末にはケチュア語他の用語解説あり。

 1〜3章はお祭りの様子を細かく記録したもので、それ自体も面白かったのですが、その中で歌の歌詞や祈りの言葉がそのまま(日本語訳ですが)記されているところがいいと思いました。研究上、言葉の内容を要約する必要がある場合もあると思いますが、そのまま書かれていることで祭りの雰囲気が伝わってくるようです。
1章では牧民と農民の間でおこなわれる交易の交換率、彼らの間にある心情についても触れられています。フリアン・パロミーノという牧民が一人称で語る交易の様子と合わせて読むことができて、面白かったです。4章でとりあげられている民話の数々もそうですが、人々の暮らしに近い目線で書かれている点が魅力的な本でした。
(2006.4.1)

「リャマとアルパカ
―アンデスの先住民社会と牧畜文化―
花伝社
稲村哲也 著 

   リャマとアルパカ―アンデスの先住民社会と牧畜文化


南米では農耕と家畜飼育の文化はあっても牧畜は行われていない、と文化人類学研究者の間では考えられてきた。世界の他の地域の牧畜のかたちと異なっていたためである。しかし、アンデス独特の飼育文化は、牧畜という考え方全体に問題提起をするものではないか。アンデスの西部高原地帯のプイカ地方と東部の斜面に位置するケロ地方を比較。農耕と牧畜の方法の違い、農民と牧民の関わり方の違いなどアンデスの牧畜文化について、フィールドワークをもとに考察する。

 一部はフィールドワークを行った際の思い出を交えてアンデス高地の風景が、二部は調査報告、そして三部では世界の他地域との比較をしながら、牧畜文化研究全体の中でアンデスがどのような位置にあるのかが記されています。
「プフリャイ(精霊)」「アイユ(共同体)」などは断片的に聞き覚えのある言葉だったのですが(←それも妙ですが)、何となく、としかわかっていませんでした。気がついてよかった。

 例にあげられている二つの地域の気候や地形がどのように異なっていて、それがどのように農耕と牧畜に影響するのか、というくだりは、図解や地図がたくさんあって読みやすい。また、農民と牧民の関係、家族構成の違い、タイムテーブル形式で書かれた儀式の記録も、とても興味がわきました。
 三部の牧畜文化全般とからめての話は、まだよくわかりません。門外漢なせいか、どうもいらんあげ足ばかり取りたくなるのです。牧畜の定義「動物の群れを管理し、その増殖を手伝い、その乳や肉を直接・間接に利用する生業」とか、牧畜的家畜の種類「偶蹄目のウシ、ヤク、ヒツジ……、奇蹄目のウマ……」などを読むと、「ひづめが無きゃだめですか?」「労働させるだけではだめですか?」など素朴すぎる疑問ばかり湧いてしまって……。そういう決まりごとってことなのでしょうか。
 あと、内容とはあまり関係ないのですが、アルパカの模様の種類と呼び名の一覧(全てではありませんが)が可愛かったです。
(2006.4.1)
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