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木の花染め おしゃべり  

「木の花染め」お読み下さってありがとうございます。
染め物について、ちょっとしたおしゃべりです。

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 昔、染織をやったことがありました。
化学染料しか扱ったことはないのですが、それでも染めの楽しさを味わった一時期でした。

 染めの楽しさ。それは、待つ時間と糸(布)との対話だなあと思います。
糸がよく染まるように洗って下準備、温度計を片手に「宜しいですか。参ります」てな気持ちで糸を染液に浸すのはなかなか快感です。
そして、染め途中で液から糸を引き上げて見るのが好きでした。濃い色の染液に浸っていると充分に染まった気がしますが、引き上げて水分が落ちると白いままの糸であったりします。私は深い色を見ると「汁気たっぷり」と表現したくなるんですが(笑)、その感覚は染めから覚えたような気がします。

 化学染料のぶれの無さをいいことに、染めてる間はぼんやりしたり、大鍋を火にかけたまま食事をしにいったりしました。天然染料ではこんなことできないだろうなあ。志光師匠に殴られそうです。
 やがて染め上がる頃には、染液の色が薄くなっているのにいつも驚きました。色が糸に吸収されているのです。こうなれば糸を引き上げても色は落ちません。濡れた糸をばし、ばし! と捌いて物干しにかけるのは何とも誇らしい気分でした。
 もし天然染料で美しく染まったら、一層幸せな気分だろうと思います。鉄、明礬(みょうばん)、クロムなど媒染(ばいせん。糸に色を定着させる工程)に使うものによって色が変わります。玉葱の皮で鉄媒染くらいなら、鍋をひとつ犠牲にすれば(にやり)家でもできるかも。老後の楽しみにしようかな〜。でも台所でクロムはやめましょう。

 染めは色の変化が目に見えるのが嬉しいですが、織りの楽しみは「なかなか見えない」ところにあると思ってます。
 糸の密度や色の並び、織り模様を想定して糸を織機にかけるのですが、ともかく時間がかかります。手の遅い私は機(はた)に糸をかけるだけで何日もかかりました。あげくに、織りはじめて30分もすると「考えてたのと違う!」と頭を抱えることも。布の表情は織ってみないとわからない。思いがけず良くなることもあれば、まずくなることも(^^;)あるのです。しかし「しまった、やられた」と思っても、「こんなこともあるやね」と思い直して最後まで織り続けることになるのも面白いです。


 桜染め自体は珍しい染めではないのですが、望む色を得ることは難しいことと思います。冬の終わり、蕾もまだつかない桜を見かけたら、志光師匠と一緒に「む、おぬし。いい枝ぶりだな」などなど思って頂けたら嬉しいです。
 今回は染めの話となりましたが、いつか織りの話も書いてみたいものです。

参考資料:
電機大出版局「染色(三訂版)」
月刊「染織α」87、90、130号
文化出版局「ウールの植物染色」
読売新聞社「一竹辻が花・光・風」
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