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第二部 早雪の底 |
一章 早雪の底 - 1 |
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カバラス山脈はやがて晴れ間よりも雪嵐の日が多くなっていった。 幾夜日の嵐が去ると、山は冴え冴えとした静寂に包まれた。白と黒、そして天の濃紺。景色はすっかり単調になった。岩もガレ場も、水流の下る谷筋もすべてが氷雪に覆いつくされてしまったからだ。 雪つぶてが降る日もあった。氷の粒が叩きつけられると、雪の原には無数のあばたが穿たれた。青い影をやどす穴はあるところではそのまま凍りつき、春まで癒えない傷となった。 また、あるところでは凍った雪の上にさらに雪が降り積み、穴を埋めもどした。ツルギの峰から吹きおろす風はその上をなぶりつけて、磨き上げてしまった。 雪の原にひと筋の線がついていることがあった。 目をさました岩ウサギか、それを目当てに巣を出たキツネの足跡だった。その細い線は岩場を回って続くこともあれば、見通しのよい斜面の中ほどで唐突に途切れていることもあった。おそらくは鷲がその太い足で捕えて運び去ったのだ。 鋭い風を受ける谷間には、天をさす氷の波がどこまでも続いていた。雪のおもては白く光って陽の光をはじき返す。こうして、山の空気はとどまるところを知らず凍てついていった。 ある朝、ツルギの峰の向こうから雪鳩が姿をあらわした。 岩肌と氷が無愛想な縞模様を描く峰を横切って、その名のとおりに白い翼を羽ばたかせる。時折、高く啼声をあげたが、その声は雪に吸い込まれて、どこにも響かずに消えた。 雪鳩は風にのり、すべるように舞い降りると、嘴を雪のくぼみに突っ込みはじめた。こちら、次にはあちらを探って、雪に埋もれた灌木を探しているのだ。枝先に残ったわずかな葉や実、がくをついばむ。 しかし、それも尽きると雪鳩は次の餌場へと移動していった。たまに姿をみせる鷲も、冬の嵐がいっそう激しくなれば南の山へ移っていくだろう。 やがて、山からはあらゆる獣の姿が消える。雪と風が峰を取り巻き、どよめく音を天に響かせる。切り裂くように冷たい空気が山々を覆いつくすことになる。 そして、空はふたたび暗くなった。 風がさらさらと音をたてて雪をさらう。やがて、うなりをあげて削りとり、叩きつけ、荒れ狂う。 その中に、吹き消されそうな小さな明かりが灯っている。 ――それが、レンディアだった。 |
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