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野営にて
「いい剣だ」
 そう言って頭目は身を乗り出した。
 それもそうだろう。
 あの世話好きの商人は、どうやらあの時持っていた一番できのいい物を渡してくれたらしい。
 無論いくらかの代金は払ったのだが、そんなはした金で手に入れられる品ではないと気がついたのは随分たってからのことだった。
 まるで宝玉か、それでなければ異国の珍しい鳥でも愛でるように、頭目はラシードの背の剣を惚れ惚れと見つめた。
 やはり風渡りは剣が頼り、商売道具には目が利くようだ。
「つくづく、いい。大して抜いているように見えないのも、惜しい話だ」
「相手に傷を負わせると手当てしてやらねばならんのでな」
 ラシードは剣を下ろして、目を輝かせている相手に見せてやった。
「後始末のいらん相手にしか抜かないようにしているのだ」
「薬師とはめんどうな商売だな」
 頭目は剣の重みをはかって品を見定めながら言った。ラシードはそれを面白そうに眺めていた。
「風渡りとて、やっかいは似たようなものだろう。寄ってくる夜盗を片端から切り伏せていては次の商売に差し支える。ほどほどに生かしておかねばならんのだろう?」
 頭目はくっくっと笑って、しかし否とも応とも答えずに剣を持ち主に返した。





「弧空の下」の冒頭に入る予定だった場面です。冒頭部が長くなるので削りましたが、このしたたかな会話が好きだったので「かけら」として復活しました。
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