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まんが 1

「花咲ける青少年 1〜6」 白泉社文庫
樹なつみ 著

  花咲ける青少年 1―愛蔵版 (花とゆめCOMICSスペシャル)


バーンズワース財閥会長の一人娘・花鹿は、父の思惑でカリブ海の小島に匿われて育った。成長して島を出て、ようやく自由を味わう花鹿は、父から「夫探し」のゲームを持ちかけられた。父の謎めいた提案の真意は何か。そして、何故、花鹿は幽閉同然に育てられなければならなかったのか?

 書店で愛蔵版というのが積まれているのを見て、ぱらぱらっとめくったところ――豪華な民族衣装をまとった男の子がいる。
 これは絶対好み、と買ってみたら(軽いので文庫版を)、これは序章。本編は女の子・花鹿ちゃんが主人公でしたorz

 でも、中性的な、さわやかな性格の花鹿は面白い いや、可愛い。タイトルと表紙絵の華やかさそのままに、イケメンの兄さんたちがたくさん出てくる楽しい少女まんがでした。
 上のようなきっかけで読んだので、私はやっぱりルマティが好きですねえ。民族衣装、最高!です。男性は民族衣装を着ると、洋服の時の3割増かっこよく見えると思うの。ま、どうでもいいですね。
 ドラマとしても、ルマティと彼の兄をめぐる人間関係が厚くて面白いと思いました。

 また、設定が結構骨太い感じで面白かった。
 欧米の植民地であったアジアの小国が資源をもとに経済発展、その一方で、王を神と同一視する古来の風習は色濃く残っている。その王位継承権をめぐる内紛、一方では石油メジャーの対立が国の行く末を左右する。また、力を伸ばす華僑の財閥の内幕といった話も渋くていいですね〜。

 花鹿ちゃんが野生児だった、カリブの小島の話も読みたかったです。
(2009.6.10)

 

「ハチミツとクローバー  1〜10」 集英社
羽海野 チカ 著

   ハチミツとクローバー 1 (クイーンズコミックス―ヤングユー)


風呂無し四畳半アパートで、いつも腹ぺこ。お金はないけど、作りたいものと仲間がいる。美術大学に通う若者たちの夢と日常を描いた群像ドラマ。

 久しぶりに読みたくなって、大人買いしてしまいました。
 美大卒の私にはなつかしい雰囲気ですが、今でもこんな貧乏学生っているのかな。そして一方で、今はこんなにおしゃれ〜になったのかしら(汗)。

 少し読むだけで、心が素直にやわらかくなっていく作品。どうして、こんなまんがが描けるのだろうなあ、と不思議に思います。絵もうまいのだけど、言葉が抜群にいいです。言葉に力があるまんがって最近めったに見なくなった気がします。まあ、好きな割にはあまりまんがを読まなくなってしまったので、説得力ないですが。

 登場人物たちは、自分の作品づくりと生き方に悩み、報われない恋や家族との関係に悩み、就活と卒業制作に明け暮れる毎日――と、恥ずかしくてのたうち回りたくなるような(笑)青春物語なんですが、意外と恋愛要素が少ないことに読み返していて気づきました。
 竹本くんは言うに及ばず(あっ、真っ先に除外…)、あゆも。はぐが最後に選んだ人との関係は恋とは言わない気がするし。ちゃんと恋愛になってるのは、真山とりかさんくらいか。可哀想だったのは、森田くん。彼のわけのわからない好意表現が愛になったとたんに、それがきっかけで彼女が去ってしまったから。
 ああ、そうか。恋愛要素が少ないというよりも、まだ「自分探し」をしている登場人物が多いせいで、そう見えるのでしょう。
 あれこれと伏せて書くと、何がなんだかわからなくてすみません。

 心に残る出来事やモノローグが多いです。
 携帯電話に入っていた遠い未来のカレンダー、はぐが田舎の家の中から描いた同じ構図ばかりの絵、りかさんの故郷の風の冷たさ。友人の死を忘れられずに苦しむ修やりかの姿。
 大きなテーマとか主張はないけど、毎日をよく生きることができるように――そんな願いがこもっているような、すばらしい作品です。
(2010.10.25)


「銀青色(フィアリーブルー)の伝説」 双葉文庫
中山星香 著

   銀青色(フィアリーブルー)の伝説 (双葉文庫―名作シリーズ)


いつの時代か、深い森と空の続く世界に二つの種族、鳥の民と森の民が住んでいた。鳥を駆る、美しく長命な鳥の民と、森の恵みに与って生きる森の民は長年いがみ合ってきたが、やがて来る大寒気を前に力を合わせなければならなくなった。鳥の民の皇女リンと森の若き王は恋におち、二つの民がともに暮らせる日を願うようになる。彼らは仲間を新天地へ導くことができるのか。

 懐かしくて買ってしまいました。中学生の頃、楽しみに読んでました。その後、ファンタジーをあまり読まなくなってしまったのですが。ずいぶん昔の作品ですが、キラキラ、ロマンチックな絵、しかも清潔感があって好きでした。

 それにしても、今見ても、リン皇女の美しいこと! 息をとめて紙面を見つめてしまうような、壮絶な美しさ。また、主人公のエル・ファリドも好青年で(性格良すぎです)色気があって、少女まんが堪能、でした。

 二つの民が積年の恨みや不信を乗り越えていくさまと、エル・ファリドが自分の立場を自覚して成長していく姿がだぶって感じられて読み応えありました。
 読者がエル・ファリドと人々を見守る視線は、もしかしたら長命な鳥の民リンの視線に近いのかもしれないなあ、と思います。

 番外編は、本編その後のお話。本編がまるで伝説のように語られ、しかしエル・ファリドの心はまだかの時代にあるということが感じられて、切ない掌編でした。
(2010.8.18)

「オチビサン 1」 朝日新聞出版
安野モヨコ 著

   オチビサン 1巻


オチビ、ナゼニ、パンくいとご近所さんの四季をつづる、新聞連載のまんが。

 きれいな色とほんわか感、そして時々まざる毒っ気が好きです。英訳がついてるのが面白い。うまいなあ、と思ったり、そう訳すしかないのかなあ、と思ったり。

 好きだったのは、枯葉踏みの頃合をはかる話。梅酒も楽しみだけど今咲く梅もいい、という話。苦笑いしたのは、パンくいにパンを預ける話。

 惜しかったのは版が小さいこと。新聞と同じサイズで見て、ほんわりしたかったです。

 大蛇のせつなさが気になるので、続きを見つけたら読んでみます〜。
(2009.8.10)

 

「オチビサン 2」 朝日新聞出版
安野モヨコ 著

   オチビサン2巻


 内容は1巻とおなじく、ほのぼの穏やかなお話なので、あらすじ説明は不要ですね。
 特に好きだったのは、「君も緑になりに来たの?」(春)、「炭火のうまい熾し方」(冬)。

 英語も楽しいです。

 たとえ忘れてたとしても、こうして久しぶりに会えば一緒に昼寝をする。それが家族ってもんさ。
 Even though I forgot about you, we found each other again, so let's take a nap together.That's what it means to be family.

(2011.4.10)


「オチビサン 4」 朝日新聞出版
安野モヨコ 著

   オチビサン 4巻

 羽黒蜻蛉をみつけたオチビサンとナゼニ。

 「こんなきれいな蜻蛉……いままでどこにいたんだろ?」
 「目の前かな……」

 What a pretty damselfly! Where have you been hinding all this time?
 Umm ... right in front of you?



 嫌われ者のヘビくんとのあらたな関係が生まれつつあるようです。そして、描き下ろしもあるんですね。やっぱり素敵なまんがです。
 ひとつ飛ばしてしまったので(汗)3巻も探してみます。

(2011.4.10)


「青柳の糸」 秋田書店
河村恵利 著

   青柳の糸―戦国落城秘話 (プリンセスコミックス)


大阪冬の陣、夏の陣の戦を豊臣側、徳川側双方から描いた読みきり5話を収録。

青柳の糸
桐の葉
水底
水鳥
霧の籬



 一番胸に残ったのは「青柳の糸」でしょうか。

 豊臣秀頼の乳母子・木村重成と、淀君に仕える娘・青柳の穏やかな恋物語。
 太閤の死後、着々と力をのばす徳川方へ寝返る家臣もいるという不穏な空気の大坂城。豊臣家のためにはどんな策もいとわない重成の言葉は味方をもひやりとさせる。
 当然、青柳も彼を冷徹な人間と考えていたのだけれど、「御家のため」という立場を離れれば、重成が口にするのはもどかしいほど飾らない言葉ばかり。青柳の心もしだいにうちとけていく――。

 こんな二人を茶化しつつ見守る、城の人々の視線があたたかいです。行く先に暗い予感がある大坂城で、この二人の恋は若君とともに希望を託すことのできる数少ない出来事だったのかも。

 青柳の素朴な香、そこに重成が見つけた幸せの結末――それが短く書かれた最後の1ページが切ないです。

 そして、大阪商人の大旦那の記憶を明かした「水鳥」。そのお話とひっそりつながることに最後の最後に気づいた「霧の籬」にもしみじみしました。
(2010.7.17)


「ものまね鳥シンフォニー 1、2」 東京三世社
筒井百々子

   ものまね鳥シンフォニー 1 (My comics)

  ものまね鳥シンフォニー 2―「もうひとつのたんぽぽクレーター」より (マイコミックス)


念動力者のキャロラインは軍需工場の事故で夫を亡くし、傷心のまま月面へ渡った。そこで、のちに「たんぽぽクレーター」となるドーム建設を手伝うようになる。また、友人であるファージィやサイボーグのハイ・ファイに支えられて、キャロラインは念動力による楽器演奏をはじめた。最初は養い子ジョイを喜ばせるためだった音楽は、やがて地球にまで届くようになる。

 「たんぽぽクレーター」の前々章にあたる物語。1993〜94年、月面ドームがまだ建築中の頃のことです。「たんぽぽ〜」で早熟なインターンだったジョイが、まだ4つと幼くて可愛い(でも、頑固)。

 PK(念動力)が珍しくはあるけれど、ある程度世間の理解を得られている時代らしい。PKの細やかなコントロールを得意とするキャロラインは内装作業などに関わってたんぽぽクレーターをつくっていく。
 のちに、ここでジョイが子供たちとともに走り回ったり、マック医師の手伝いをするようになるのかと思うと感無量です。

 念動力とともにこの物語世界の鍵になっているのが、サイボーグの存在。
 どうやら、彼らは過酷な条件下で働き、差別もあるらしい。巻末の年表に「2001年 月面各都市にてサイボーグ労働者のスト」「2002年 サイボーグに関する月面労働法改正」などとあるので、「たんぽぽクレーター」の頃には彼らの待遇はましになっているようですが。
 そんな状況下で、ハイ・ファイが語る言葉が切なくも温かいです。

「ものまね鳥も真実の歌を歌うことがあるさ。ごらん、第一ドームを。あの灯はコピーかい? ただのまねかい? サイボーグのわたしに生きる歓びがあるとしたら、あの灯を思う時だよ」

 この言葉がのちのちまでファージィの胸に残っていたことが、また別のお話に書かれています。
 ちなみに、ものまね鳥とはキャロラインが暮らしたオーガスタの「マネシツグミ」。スズメ目マネシツグミ科の鳥で、何十種類もの鳥の鳴き声を真似するそうです!

 また、キャロラインは事故の後遺症で手がうまく動かないので、かわりにPKで楽器を演奏することを覚えます。
 最初はヴァイオリンの、耳を澄まさなければ聞こえないような小さな音。ですが、やがて複数の楽器を同時に「鳴らす」ことで交響曲を演奏するようになります。
 一時は夫・キールの遺族への配慮から事故に関する証言を拒否し、一切黙秘する、と決意した彼女。ですが、無音の月世界から発せられた音はたくさんの人の心に寄り添い、日常の喧騒の中で耳を澄ますことを思い出させてくれるのです。

「チーズのように食べられないし、剣のように守ってもくれない」

 なのに、たくさんの人が大切にする音楽。鳥のさえずりにも似たひそやかな演奏が月光とともに地球に届く――美しいお話でした。
(2010.6.10)

 

「たんぽぽクレーター 1、2」 小学館
筒井百々子

  たんぽぽクレーター 1 (プチフラワーコミックス)
  たんぽぽクレーター 2 (プチフラワーコミックス)


2007年、人類は月面にドーム都市を築き、惑星の探査も行われていた。月面の医療都市、通称「たんぽぽクレーター」では地球から多くの小児患者を受け入れ、医療研究も進められている。しかし、2007年10月、衛星事故や宇宙兵器の実験が原因で地球の気候が大変動、「擬似氷河期」を迎える。故郷の星の大異変に月面の人々もパニック状態になり、あらゆる都市機能が麻痺。その中で、たんぽぽクレーターはどうやって患者の命を守っていくのか。1984年出版の近未来SF。

 多少の波乱は含みつつも平和で穏やかな「たんぽぽクレーター」。しかし、地球の異変がすべてを一変させてしまう。食料を奪いあう人々の暴動、電力をはじめドームの生命維持機能が脅かされる。その中で、マックギルベリー院長をはじめとする医師たちは子供たちを守ることができるのか?

 たま〜に思い出すと引っ張り出して読んでみるのですが、やっぱり傑作だよなあ、といつも思います。独特の世界観につい注目してしまいますが、人々の信頼や意地の張り合いといった人間関係、優しい絵柄にも惹かれます。どの登場人物も笑顔がきれいです。

 主人公である医師の卵・ジョイは、病院の地下で、禁止されたコールドスリープ(冷凍睡眠)技術で眠る幼い患者・ダグを見つける。ダグは衛星事故によって被爆したために、眠って治療薬の開発を待っている。その存在は、荒廃する月面で働くジョイの支えになる。
 マックギルベリー院長はときに政治家や医師会と衝突しながら放射線障害の治療薬の完成を急いできた。しかし、擬似氷河期による混乱で研究は頓挫し、そのうちに――

 と、先は伏せておきます。
 新薬「ラベル黒」は、眠って夏を待つダグの希望の灯なのですが、その完成を誰よりも待っていた人の運命が何とも皮肉なもの。くりかえし語られるシェイクスピアの言葉が切ないです。

 咲き急ぐな 散り惜しむな
 夏咲く花は 夏をこそ飾れ



 また、なかなかに厳しいストーリーですが、その中で子供たちの姿がたくましくて嬉しい。
 親の都合で退院後に帰るところがない、などの事情でたんぽぽクレーターに居残り、キャンプ(通称アディロンダック砦)しているらしいのですが。暴動で電気や水が止まっても、彼らは大人よりも先に立ち直って、いつもの「キャンプ」生活を再開するのです。
 ジョイや院長が子供たちを守ろうとしているのと同時に、彼らが大人たちを支えている――このことが、とても胸に染みます。

 著者はアニメ制作の仕事をされていたらしく、巻末に載せられたたんぽぽクレーターの図面や地図などくわしい設定資料の類も楽しい。

「重力は地球と同じです。自動ドアはありません。扉は自分の力で開けてください。植木鉢と子供をけとばすと、10ムーンドルの罰金です。気をつけて静かに歩きましょう」

 たんぽぽクレーターのドーム内での注意、だそうです。シリーズ作品なので、他の本も読み返してみます。
(2010.6.8)


「のだめカンタービレ 1〜23」 講談社
二ノ宮知子 著

   のだめカンタービレ(21) (講談社コミックスキス)


変態で不思議なピアニスト・野田恵と指揮者をめざす千秋ほか友人が集まったクラシック音楽コメディ。

 大人の夏休みなので、一気読み。最新刊まで辿りつきました。写真は最新刊ではないのですが、一番好きな表紙なので。(それにしても、のだめがピアノを弾いている表紙はもしかして一つもない? ピアニストなのに)

 久々に読みましたが、のだめ、大人になったなあ。オーケストラを聞きながら演奏するようになったんだ。パリは偉大だ。
 才能はもとより、技術もあり勢いもあり、いまや怖いものなしのはずののだめですが、たったひとつ大事なことを失くしてしまったのかもしれない。
 そのたったひとつ無しに、音楽家はやっていけるのか。それを取り戻せるか否かがクライマックスになるのかな。

 最新刊のミソはのだめのデビュー……のはずですが、私的にはオクレール先生vsシュトレーゼマンの顔合わせでした。こういう力関係とは思わなかったので。

 ギャグは4、5巻あたりが一番面白かった。演奏シーンは千秋の指揮者コンクールから、のだめがパリに溶け込んでいくあたりが一番変で(笑)美しいと思います。

最終巻を読んで追記:
   のだめカンタービレ(23) (講談社コミックスキス)


 とうとう最終巻。連載、お疲れさまです。
 のだめがちゃんとピアノを弾いている表紙で終わってよかった、よかった。

 長く楽しませてもらって満足なのですが、ラスト2巻ほどは随分あっけなかったように思います。
 オクレール先生の計画はどうなんですか? のだめはまだ学生みたいなので、これからが正念場なはずなのですが。
 でも、のだめが自分で決めて、ピアノを弾くために帰ってきたことで、お話は終わったんだなあ、と納得。よく考えたら、のだめのテーマはいつもそれでしたしね(←そんな。端折りすぎか)。

 希望をいえば、ラストはのだめと千秋の共演(楽器でも指揮でもよいので)・オーケストラつきが見たかったなあ。私が一番好きな二人の共演は、千秋のおじさん宅での早朝練習でした。
(2009.12.8)

 

「コランタン号の航海 〜水底の子供〜 1、2」 新書館
作/山田睦月 原作/大木えりか

   コランタン号の航海 1―水底の子供 (WINGS COMICS)


時は1811年。英国海軍士官のルパート・マードックが配属されたのはH.M.S.コランタン――いくつもの不思議な逸話で知られる艦だ。伝説の古都イスを海に沈めた聖人の名を持つこの艦が受けた任務はフランスの王党派貴族の救出だった。

 久々に読み返しましたが、つくづくよく調べて、練られているなあ、と堪能しました。
 フランス革命から20年が過ぎ、英国は産業革命の只中。陸上の進歩と発展の一方で、海の上には迷信と、そうとも言い切れない幻想が生きている。こんな時代の空気が漂う作品です。歴史ものとしても、伝説の都をめぐるファンタジーとしても、もちろん海洋小説味まんがとしても楽しい。

 好きだったのは、現実主義に見えて、そうはなりきれない主人公・マードック海尉と、ざっくりおおらか体育会系にみえて実は不思議な特技を持つ海兵隊員・ウィタード中尉のコンビ。陸上でもお疲れさま。

 私は海洋小説が入り口だったので、二巻後半に収録された「メリーウェザー艦長は猫である」編なんて最高に楽しかったです。
 新しい巻も出ているらしい。入手しなければ。
(2009.10.5)

 

「天顕祭」 サンクチュアリ・パブリッシング
白井弓子 著

   天顕祭 (New COMICS)


「汚い戦争」による汚染地と、竹によって浄化された清浄な地がまだらになっている世界。ヤマタノオロチ伝説が息づく未来ファンタジー。鳶の若頭・真中は身元不明の少女・咲を雇い入れた。どんな高所も怖がらない咲だが、地下での仕事には強い動揺をみせた。やがて、50年に一度の大祭「天顕祭」を前にして、咲は失踪する。真中は咲を探すうちに、この大祭に秘められた儀式を目にすることになった。

 新聞の書評欄に載っていた力強い表紙の絵にひかれて購入しました。
 軽やかだけど、しっかりした絵がすばらしかったです。また、古い日本映画や横溝正史を思い出す暗い絵が多いですが、それだけに陽光や青空、風を感じる場面が心地よく思えました。

 日本の神話を取り入れたファンタジー。神事の持つ幽玄な雰囲気、それを支える神社の役割、市井の暮らし向きがていねいに描かれていて読みごたえあります。和製ファンタジーとか神話に詳しい方ならいっそう面白いのではないかと。

 この作品は、最初は同人誌に発表されたもので文化庁メディア芸術祭で賞を受けて出版されたそうです。
 私のようにあまりまんがを読まない人も手にとっているのか、奥付をみると出版から3ヶ月ですでに6刷を重ねています。たしかに、誰でも気楽に電車でぱらぱら読む、という感じではないですね。いいと思っても、商業誌で世に出すには少し勇気がいる――そんな作品に思えました。
(2009.1.15)

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