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まんが 4

   

「この世界の片隅に 上・中・下」 双葉社
こうの史代 著

  この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

  この世界の片隅に 中 (アクションコミックス)

  この世界の片隅に 下 (アクションコミックス)


戦中の広島県の軍都、呉を舞台にした家族ドラマ。主人公、すずは広島市から呉へ嫁ぎ、新しい家族、新しい街、新しい世界に戸惑う。しかし、一日一日を確かに健気に生きていく…。

 映画がよかったので原作も読みたくなりました。
つい映画と比べての感想になってしまうので、ネタばれされたくない方はご注意ください。。。


 
 
 
 
 
 まんがを見て、映画が構図や絵のタッチ、台詞まで原作に忠実だったことに驚きました。特に冒頭はあまりにそのままなので、「買わなくてもよかったか?!」と思ってしまったほど(笑)。
 でも、読み進めるうちにまんがならではの表現、映像でなければできない描写に気づいて、やはり両方見てみてよかったと思いました。
 すずさんが野草を摘んで節約料理をするエピソードではまんがの方が「足りない、これしか残ってない」感じがよく出ているし、逆に映画ではうさぎの海の色、色とりどりの爆煙が印象的でした。

 読めば読むほどに、戦時下の息苦しい空気、それを笑い飛ばす人の力、そして圧倒的な暴力行為の前に日常がどれほど簡単に吹き飛ばされて無くなってしまうのかが迫ってきました。ページの端に書かれた注釈は当時を知らない世代には必須。これがなければ作品が読めないほど、現代とはかけはなれた世界です。

 映画では、すずさんが大好きな絵を描くことができなくなっていく様子を通して戦争を描いています。手を失くしたこと、生活に余裕がなくなっていくことがその主な原因なのですが、原作はもう少し深く読むこともできる気がします。

 白い鳥はすずさんの絵心なのかな、という気もしました。
 忙しい日々の中、だんだん絵を描かなくなるとうまくつかまえることができず、戦争が激しさを増してくると空へと逃れて自由に遊んで欲しいと願うようになる――。
 映画ではわかりませんでしたが、原作では白い鳥とそれを追うすずさんの姿はタッチが違うのですよね。戦争の中では心の奥にしまっておくしかない夢や感情を表しているのかもしれません。

 また、原作と映画との一番大きな違いは、すずさん&周作さんの夫婦関係。
 映画でこの要素があっさりしていたのは、すずさん個人に焦点を当てたかったからだろうし、当時の女性の立場(子を産む役割、妻の家政婦としての存在意義、男性の遊び相手)が現代からみればあまりにエグいというか、製作者が意図しない心情を観客に抱かせるからだったのでは、と思いました。

 でも、もう少し踏み込んで欲しかった気も。なぜなら、リンさんと出会うことですずさんは大人になり女性になり、家を守る妻という役割を自分の意志で掴んだのだから。


 日常風景も人々のおしゃべりも細やかに描かれていて、きっと何度読み返しても発見がある作品なんだろうな。

 この感想を書いている頃に、TVドラマ化されるという記事を見つけました。私はすず役は能年ちゃんに演じて欲しいけれど、さてどうなるのでしょう。
(2018.3.19)

 

「夕凪の街 桜の国」 双葉社
こうの史代 著

  夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)


昭和30年、灼熱の閃光が放たれた時から10年。ヒロシマを舞台に、一人の女性の小さな魂が大きく揺れる。最もか弱き者たちにとって、戦争とは何だったのか、原爆とは何だったのか。

 「この世界の片隅に」の読了後に手にとりました。
 戦争が終わって10年、さらにその子供世代まで原爆が何を残したのかを描いた短編3部作です。

「夕凪の街」では、戦後の復興途上の広島でまだ生々しい戦争の記憶を抱えながら逞しく暮らしていた女性・皆実が主人公。
 原爆投下直後の風景、自分が見捨てた友、何より生き抜くために自分が捨ててしまったものに気づいた皆実の虚無感と哀しみが伝わってきます。まだ若い皆実の中には「生きたい」という力が強くあったはずなのに、それがみるみるうちに削り取られていく――それが被ばくしたという事実だけでなく、「生きていていいのだろうか」「私が忘れてしまえば済むこと(なのに、忘れられない)」という苦しみによってであったのが悲しい。

ぜんたい、この街の人は不自然だ。誰もあのことを言わない。いまだにわけがわからないのだ。
わかっているのは「死ねばいい」と誰かに思われたということ。思われたのに生き延びているということ。
そしていちばん怖いのは、あれ以来、本当にそう思われても仕方のない人間に自分がなってしまったことに自分で時々気づいてしまうことだ。



 そして、「桜の国」は皆実の弟の、子ども世代のお話。ところも広島から東京へ移り、もう原爆の事は忘れられている――ほとんど忘れられている時代。日々、元気に遊びまわるお転婆な少女・七波が主人公です。

 ですが、その家に母親は居らず、同居の祖母はいまだ原爆の影を恐れて生きている。野球の練習中にボールに当って鼻血を出した七波を、病弱なその弟・凪生のことを、「まさか」という思いで見守っている。いつかまた原爆の影響で子どもが死んでしまうのでは、と。
 そんな日が来てしまうことをいつまでも案じていなければならないとは、辛いことでしょうね。

 では、あの日のことは人々から忘れられたのか。

母さんが38で死んだのが原爆のせいかどうか誰も教えてはくれなかったよ。
おばあちゃんが80で死んだ時は原爆のせいなんて言う人はもういなかったよ。
なのに、凪生もわたしもいつ原爆のせいで死んでもおかしくない人間とか決めつけれらたりしてんだろうか。



 忘れてしまうべきなのか。忘れてはいけないのか。何を覚えていなければいけないのか。
 七波世代の私や、もっと若い世代にも問いかけ続ける力を持つ作品と感じました。

(2018.5.28)

 

「きのう何食べた?」1、2 講談社
よしながふみ 著

  きのう何食べた?(1) (モーニングコミックス)

  きのう何食べた?(2) (モーニング KC)


鮭とごぼうの炊き込みごはん、いわしの梅煮、たけのことがんもとこんにゃくの煮物、栗ごはん、トマトとツナのぶっかけそうめん、鶏肉のオーブン焼き、ナスとトマトと豚肉のピリ辛中華風煮込み、いちごジャム。

 いつも密林の内容紹介文をコピーさせてもらってるのですが、何だこれは(笑)。いや、こういうご本。

 TVドラマが面白かったので、原作も読んでみました。ゲイカップルのほんわか、ゆるやか、時に切なくほろ苦い毎日を家庭料理の並ぶ食卓を通して描いています。
 ひっそりとした2人の生活に、こういう幸せもあるんだな、と思う。

「夫婦って男女でなくちゃいけないの?」
「子どもは居ても居なくてもいいのじゃない?」
「だしをひくのもいいけど、めんつゆの素で手早く料理してもいいじゃない}

 これまでの常識や思い込みからどんどん自由になっていく感じがよかったです。新しいホームドラマという気がしました。

 お気に入りのレシピはぶっかけそうめん。茗荷もきゅうりも多い方が美味しそうです。これから二人の良い季節がやってくるね。
(2019.6.5)

 

「あさきゆめみし 1」 講談社
大和和紀 著

  あさきゆめみし 新装版(1) (KC KISS)


初めて恋い慕ったのは、父の妻。愛を求めて彷徨う光源氏は、ある少女と出会う──千年読み継がれた光源氏の恋を鮮やかに描く、大和和紀による「源氏物語」。

 1979年から連載されたまんがの新装版。私も10代の頃に読んでいて、あの美しい絵が忘れられず新装版を購入してしまいました。新装版1巻は、桐壷帝と桐壷の更衣(光源氏の母)との馴れ初めに始まり、成長した源氏が紫の上を引取り、正妻・葵の上の懐妊等まで。

 やはり絵の繊細さ、流麗さ、華やかさにほれぼれしてしまう。気づいたのですが、ほとんどスクリーントーンを使わずにカリカリと手描きされてたんですね。それでこのあでやかさ。艶やかな豊かな黒髪から、桐壷の更衣など消えてしまいそうに儚い女性のまつげまで、繊細に描き分けていたんですね。すごいなあ。

 また、言葉が美しく、文字を読むだけでも酔うように源氏物語の世界に引き込まれます。わたくし、なんて、今どき却って新鮮。もちろん、実際に話されていた言葉ではないだろうけれど、1980年代の感覚でもっとも雅び、かつ自然な美しい言葉遣いを選んだということですよね。

 お気に入りのキャラクターは、源氏の乳兄弟という大輔の命婦。ちゃきちゃきした姐御肌で、宮仕えして気の利いた恋の駆け引きを楽しむOL……ですよね。基本、悲恋の多い物語の中でほっとする登場人物です。
(2022.1.3)

 

「北欧女子オーサが見つけた日本の不思議 1」 メディアファクトリー
オーサ・イェークストロム 著

  北欧女子オーサが見つけた日本の不思議 (コミックエッセイ)


日本のアニメと漫画に感動し、北欧スウェーデンからやってきて3年目。
マンガ好き外国人にとっては天国みたいな東京! コンビニのおにぎりが便利すぎる! 日本の女子が何でも「可愛い」と言うのはなぜ? ホストの髪型はアニメみたいで素敵! 日傘を使うようになったら私も立派な日本人!?ちょっとオタクなスウェーデン人漫画家が自ら描く、日本への愛にあふれた驚き&爆笑のコミックエッセイ。

 新聞連載のまんがが楽しかったので手にしました。セーラームーンで日本愛に目覚め、日本でまんがとデザインの勉強にはげむ毎日をユーモアたっぷりで描いています。

 まんがとアニメをきっかけに日本に興味を持ち……という人は多いしエッセイも見かけますが、まんがは珍しい。また、自ら謎と疑問に体当たりしていくリポートは意外とないので、オーサさんが確立したスタイルかな、と思います。もちろん、イラストも可愛い。

 可笑しかったのは、ドアノブがあるつもりで障子に手をつっこんでしまう癖がぬけないとか、布団を上げることを思いつかずにカビ発生させてしまったとか。
 言葉の壁で可笑しかったのは、YES/NOの見分けがつかない『行ければ行く=行かない』。これは日本人でも人によっては間違えそう。でも、いつも前向きに言葉を覚えていることに尊敬してしまう。

 オーサさんの言語感覚が豊かで鋭いことは、直撃下ネタジョークがまったく受けなかったエピソードで、「日本語の強さや色合いがわからない」とコメントしてるところでわかります。日本人の日本語でも、これが掴めてない人はけっこういる気がするので。

 大好きなアニメとおいしいご飯(時々、冒険ごはん)にあふれた日本暮らしの諸々をもっと読ませてもらいたくなりました。
(2021.11.21)

  

「北欧女子オーサが見つけた日本の不思議 2」 メディアファクトリー
オーサ・イェークストロム 著

  北欧女子オーサが見つけた日本の不思議 2


北欧スウェーデンから日本へやってきて4年目。少しずつ日本での生活にも慣れてきた…つもりだったのに、やっぱり日本は知れば知るほど不思議ばかり! ? スウェーデンからやってきた友達を連れて日本を案内したり、専門学校の卒業式で日本語でスピーチをすることになったり、就職活動の名刺交換で大失敗したり…。13歳の時、スウェーデンで日本の漫画やアニメに出会ってオタク心に火がついた少女時代のエピソードも収録。

 大好きなセーラームーンとの出会いなど、著者とまんがのエピソードが多く書かれています。その中でも、日本のまんが表現についてのコメントが面白かったです。

 怒り表現の静脈マーク?や、赤面のあまり鼻血を出す、という記号の意味は、まんが文化に慣れていないとわからないものなんですねえ。自分では疑問に思ったこともなかったので新鮮。
 また、日本では焦った時に顔に描かれる水滴(汗)が海外のまんがでは頭上にとぶとか、海外と日本の擬音の違いも面白かったです。

 印象的だったのは、オーサさんが来日してから、それまでアニメで親しんでいた蝉の声や横断歩道のメロディ案内を初めて耳にして感動した、というエピソード。アニメとかまんがって視覚的な要素に目が行くけれど、背景のように織り込まれる「音」が伝える雰囲気も大事なのね(^^)
(2022.1.9)

 

「北欧女子オーサが見つけた日本の不思議 3」 メディアファクトリー
オーサ・イェークストロム 著

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北欧女子オーサの「日本の不思議」探しは止まらない! 野宿から心霊スポット巡り、そば打ち、サラリーマン体験まで、ますますディープな日本に飛び込みました。

 オールカラーになって絵の魅力が増した気がします。内容も現代文化チャレンジ、伝統文化チャレンジ、スウェーデン文化と帰省編など、明確に分けられてより読みやすくなりました。

 個人的には帰省編が楽しかったです。夜が長いから(正確にはそういうことでもないのですけどね)寝坊しても罪悪感がないとか、同性婚夫婦が人工授精や養子で子どもを迎えるとか、家族で過ごすクリスマスのごちそうも。
 クリスマスにTV放映されるドナルドダックのアニメを家族で見るのが広く習慣になっている、というエピソードにはびっくりです。それはいったいどこから始まったんだろう??

 日本でのチャレンジ編は茶摘みやそば打ち体験は来日外国人エッセイの定番イベントですが、現代文化チャレンジ編はオーサさんならでは。野宿体験や白塗りメイク体験は日本人でも知らない人が多そうで、こんな趣味の人がいると知って面白かったです。
(2022.1.15)

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