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実用書 1

「はじめての私の着物」 河出書房新社
河村一子 著

  はじめての私の着物


「着物を着てみたい、でも、どうしたら?」と思っている、すべての超初心者におすすめの着物入門書。きれいな写真とかわいいイラストを満載し、着物の着方、買い方、楽しみ方を手取り足取り紹介します。

 着物微熱が再発しております。着物関係の専門用語の確認とごく気軽な着方をざっくり知りたく、『はじめての』という題名にひかれて手にとりました。イラストや装丁が昔っぽいのですが、これはあえてのブックデザイン。2003年発行の本です。

 まさに手探りで着物を着始めた人の視点なので、着物にも親しみがわくし、お店に入るのも怖くないんだな、と思えて楽しかったです。ただ、本当に著者自身の体験を書いた本なので、説明が十分でなかったり(著者自身が興味がないことには突っ込んでくれない)着付けの実例が少ないのが難点ですが。

 いま、私が興味があるのが着物の色・柄の組み合わせ。洋服とはかなり違いますよね。
 色はともかく柄の組み合わせは洋服では基本的にしないことなので、まだまだつかめません。感覚的につかめたら、実践に踏み込んでみたいなあ。ひとまず、今年の目標のひとつです(おおう、言ってしまった今年の目標)
(2020.1.13)

 

「きものでわくわく」 マガジンハウス
大橋歩 著

  きものでわくわく

  大橋歩コレクション5 きものでわくわく (大橋歩コレクション (5))


着物のおしゃれを楽しむための本です。着物を自分らしく着るためのアドバイスが満載。着物はどうやって手に入れるの、値段は、コーディネートは。それ以外にも柔らかい着物/夏の着物/帯で着る/着物の小物と下着など、役立つ情報がいっぱいです。

 同じタイトルでamazonリンク先が二つあるのですが、私が読んだものと装丁が違う気がします。どちらかわからないので、二つともリンクしておきます。間違っていたらごめんなさい!

 ひとつ前に読んだ「はじめての私の着物」が自由度の高い着こなしだったので、もう少しだけ伝統も意識したい&でも自由意思も捨てたくない――というわがままスタイルを求めて手に取りました。

 うん、私が求めているのにかなり近い着物世界が広がっていて嬉しくなりました。
 季節による素材や柄の決まり事、男物から生まれた羽織の位置づけなど、やはり決まりごとや慣習を無視しては美しさも生まれないのだな。でも、相反するようだけれど、決まりごとの理由を知ったうえで現代に合うようにスタイルをずらしていくことも大事、と感じました。

 そんなことを考えるきっかけになった章が「着物に持つハンドバッグ」。
 着物は懐や帯の間にも物を入れられるけれど、巾着、バッグも必要。女性が自分の財布を持ち歩くことを自立の基本として『現代女性は着物でも物入れ専用のバッグを持っていい。生活力がにおう女性が今はすてき』と語ってくれていることにほっとします。

 ここ、すごくわかるなあ、って思ったのです。確かに、洋服でも着物でも、昔(80〜100年前くらい?)の女性ファッションの身軽さは、荷物も財布も持つ男性に連れられて歩くことを前提としていますよね。
 現代でもフォーマルな場に持っていくバッグには口紅とハンカチしか入らない。その他の荷物を持って会場に入れないことの不便さよ!(禁止ではないけど『不格好』なんですよね)昨今話題の #Ku Too は当然ですよ。「ハイヒール」と「働く」は本来同じシーンにはないものだったのだから。
 そんなわけで、お上品に見える着物でも「バッグを持ってOK」とはっきり言葉にしてくれたことが嬉しかったです。

 著者のこだわりや着物道楽(?)を語る本文は、さらりと読めて楽しい。着こなしやスタイルを言葉にすることで、こまやかな美意識が伝わってくるのです。
 ひとつだけ惜しかったのは、そのすてきな文章と写真が合っていないこと! せっかく言葉で味わった繊細な色の組み合わせを、実際に写真で見たかった! 悔しいばかりです。あいかわらず、マガジンハウスは痒いところに手が届かないなあ。
(2020.2.10)

 

「着物のえほん」 あすなろ書房
野紀子 著

  着物のえほん


お祝いの席で着る着物、子どもが着物を着るとき、浴衣で、着物入門、着物のTPO、美しく美こなすための所作、着くずれてしまったら、春夏秋冬の装い、季節の柄、おめでたい文様、染めものと織りもの、美しい日本の色、着物の歴史、着物の着方、帯の結び方いろいろ、着物のお手入れとたたみ方…etc.知っておきたい着物豆知識も充実。親子で楽しむ着物入門絵本。

 見開きいっぱいの華やかで優しいイラストで着物の楽しみが描かれています。文様の意味や季節ごとの色の組み合わせ方といった和文化の紹介の中で語られるから、着付け、和装のマナーなどもすんなり理解できます。

私が嬉しかったのは、着物のたたみ方、くずれた時の直し方、階段の登り方、トイレに入る時、など。こういう実際的な知識がないと怖くて着られませんよね。

可愛らしいイラストなので雰囲気よくさらりと読み流してしまいそうですが、どんな動作で袖がどうなるのか、着物のつくり、色や文様はきっちりと描かれています。きっと著者ご本人が詳しく、さらにきちんと監修もされているんだろうなと感じました。
(2020.6.21)

 

「ふだん着物 わくわくアイデア帖」 河出書房新社
きくちいま 著

  ふだん着物わくわくアイデア帖

  増補新版 ふだん着物わくわくアイデア帖


季節のコーディネート、おさえておきたいルール、使って嬉しい小物、きれいに見せる着付けのコツ、お店の選び方まで、ふだん着物を楽しむアイデアを紹介。もっと楽しく、自分らしく着こなすために知りたいことが全部あります!

 増補版も出ているようです。
 著者はイラストレーターさんとして知っていましたが、こんなに着物に詳しい方とは知りませんでした。子どもの頃から着物に親しんだ経験からは、いい具合に力がぬけた楽しみ方を教えてもらえます。
 また、着物の時のメイクのコツや洗濯からしまい方までお役立ち情報ばかり。これは、少し実践してから読み返したら楽しそうでした。

 コーディネートを見られる写真はもっとたくさん見たかったけれど、イラストもかわいいし説明が具体的なので、一人で着るときには参考にできそうだな、と感じました。『襦袢は時計の10時10分、着物は11時5分の角度が好き』なんて説明はありがたいです。
 襟の角度は全体の印象を左右すると思うので、誰かのおすすめ角度がわかれば、そこから調整していくことができそうです。
(2020.3.10)

 

「着物がくれる とびきりの毎日」 二見書房
きくちいま 著

  着物がくれるとびきりの毎日


 着ているだけで、なんでもない日もキラキラしてくる。チープでカンタン・キュート新感覚のきもの入門。

 イラストもほんわり可愛いし、この著者さんの着物の楽しみ方が一番私に近い気がしたので、続けて読んでおります。

 今回の1冊では、着物と小物やもちろん和の暮らしにも話が広がっていて楽しい。野草一輪が部屋の空気を変える、といったそのくらいのささやかな和風が心地よいです。

 一番嬉しかった情報は、「下着はけっこう好きなようにしていい」とわかったことです(笑)
 人には聞きにくいし、意外と本には書いてないし、あっても補正の仕方というきっちりした「着付け」の話ばかり。そうしないと着られないのかしら、と実は心折れそうになっていたのですが。。。
 え、ババシャツOK? スパッツもOKですか?! よ、よかったよう。超絶寒がりなので、そこが一番心配でした。

 着物の下の見えないところはかなり自由にしていいんだな、とわかってありがたかったです。あ、でも靴下はお勧めされてないのね(滑るから)。他にも夏の帯枕にへちまを利用なんて小ネタも嬉しい。

 こんな風にどんどん自由度が明らかになってきて、それでもここはきちんと守って、という章もありました。それは「左前」。着物屋さんで着装(反物を体に巻くように着せる試着)させてもらった時も真っ先に言われました。それだけ多いのでしょうね。
 他にも、ミニ着物とか衣文の抜き過ぎは私も苦手かも。あくまで、着物の範疇で楽しみたいです。

 裏返せば、そこ以外はけっこう好きにしていいんだな、と勇気が湧きました。しばらくは着付けを習うこともできそうにないので、腹を決めてYou Tube 見様見真似でいこうかしら。
(2020.7.18)

 

「デザインにひそむ<美しさ>の法則」 ソフトバンク新書
木全賢 著 

  デザインにひそむ〈美しさ〉の法則 [ソフトバンク新書]


身近な製品にひそむ美しさの法則とは? 20年来工業デザインに関わってきた著者が、工業製品で使われている「美しさの法則」を軽妙な語り口で紹介してゆく。黄金比/白銀比から、日本的デザインの特徴やユニバーサルデザインまで。一般消費者にも楽しめる目からウロコの法則が満載。

 デザインは芸術ではない……と私は思ってるので、このカテゴリーに。

 最近、ユニバーサルデザインが気になり、基本的なところを押えたくて本を探しました。
 この本は著者が専門のプロダクトデザインを軸にデザイン全般について語ったもので、日常生活のあらゆるものにデザイナーの工夫がこらされていることをわかりやすく楽しく説明してあります。
 私は立体のデザインは苦手で大学でも仕事でもまったく携わらなかったので、プロダクトデザインの基礎の基に触れられて新鮮な気分でした。

 人間工学は戦時下の必要に迫られて生まれたこと、またプロダクトデザインの現場で「原寸」での検討が重要視されている、というところが面白かった。やっぱり、人間の身体、視線、モノの捉え方から離れたところにデザインは無いのだ、とあらためて感じます。

 横道に逸れますが。私はアナログ手仕事デザインの最後の時期に仕事しはじめたせいか、「原寸」ということがとても気になります。ところが、最初からPC使いしていた後輩同僚はどうも「原寸」にあまりこだわらない気がしていまして。
 それはそれで、仕事が手早くてうらやましいなあ、と思いつつ、今も定規を片手にスケール感を捉えてから絵を描いてます。古い世代になっちゃったんだな、私(笑)

 また、世界のさまざまな地域の気候や文化がデザインに大きく影響しているという話も面白かった。
 四季によって光の表情が異なる日本、冬の長いヨーロッパ、国土が広く遠くまで見渡す場面の多いアメリカでは、それぞれに美しく見える車のデザインが違う、とか。
 日本では涼しげな色として好まれる青が、中近東では快晴の暑苦しさを思わせ、むしろオアシスの緑の方が涼しげに受けとめられる、とか。なるほど、なのです。

 そんな世界でどこでも、誰にでも受け入れられるデザイン――それを追及するという考え方がユニバーサルデザイン。気になっていたユニバーサルデザインについてはそれほど多くのページを割かれてはいませんでしたが、とても気になるというか、印象的な説明がありました。

「パレートの法則」、「80対20の法則」とは。

経済学者パレートが、(当時のイタリアの)総人口の約20%が社会全体の所得の20%を占めていることに気づいたのがその始まりだったと言われています。そして、この法則は面白いようにいろいろな分野の経験則に合致しました。



メーカーの製品開発の現場でもこの法則が利用されています。
全顧客の20%、製品の20%、製品の機能の20%に集中するわけです。そして、20%に集中することが効率的な製品開発につながると考えられているのです。



 商品展開とかデザイン作業を通した経験として、かなり納得いきます。数字で考えたわけではないけれど、確かに、こういう感覚はありますね。そして、ユニバーサルデザインとは、そこで切り捨てられていた80%の要望に応えようという考え方なのですよね。

(アメリカのデザイナー、ヴィクター・パパネックは)現状の工業デザイナーは先進国の中産階級以上の人だけを対象に、必要以上の仕事をしている、と指摘しています。……(中略)……しかし、低開発国に住む人々や身体障害者たちは生きのびるためのデザインを必要としている。パパネックは、こういった人々のためにアイデアと才能の一部を役立てることこそが、これからの工業デザイナーが取り組むべき本当の仕事だとしています。


 ユニバーサルデザインについては、もう少し他の本も調べてみますが。
 これまで、仕事の中で視界から押し出していた領域をもう一度見てみよう、という気持になりました。
(2018.9.2)

登山技術全書 8
「山岳地形と読図」
山と渓谷社
平塚晶人 著 

   山岳地形と読図 (ヤマケイ・テクニカルブック 登山技術全書)


山岳地形と地図の読み取り方、コンパスと地図を使ったナビゲーション方法の解説書。山を形づくる三つの要素として「山頂」「尾根」「沢」をあげて、そのさまざまな形を紹介、それらを平面の地図に表現する等高線の読み方を説明する。地図とその場所に立った時の風景写真を並列することで、実際の山歩きに近い視点を再現している。

 あらためて見ると等高線ってきれいだなあ。これは好きかもしれないです。
 山の全体像を見渡せる等高線つきの地図と、歩きすすむうちに見えてくるもの(周囲の木の種類や風景の説明)を載せた絵地図。同じ場所が、見方によって違う表され方をする地図は面白いです。
 また、二つの視点を持ちながら山を歩くとは、やったことがある人にしかわからない楽しさがあるのでしょうね。
 山が誕生する過程の説明、その山の歴史による形の違いにも触れられていて、著者の山への理解と愛情が伝わってきます。

 また、距離感覚と地図の読み取りは密接に結びついているんですね。疲れていたり、同行者の登山経験の有無によっても感覚が変わりがちなので注意が必要、なんて話もありました。
 しかし、残念なことに私には山歩きはできそうにありません。地図が間違っている場合もある、などと言われると何を信じていいのだかわかりません。

 本とは関係ないのですけど、きれいな山の写真を見ていたら山の絵を描きたくなりました。以前、雪山のイラストを描いていたのですが、らしく見えなくて放りっぱなしにしてたのですよね。こう、砂糖をふりかけたみたいになってしまって……。この本で、尾根と沢を対比して山の形をとらえる、と書かれているのが面白かったので、それを頭に入れて再挑戦してみようと思います。
(2006.6.16)

 

「遭難のしかた教えます」 山と渓谷社
丸山晴弘 著

   遭難のしかた教えます (ヤマケイ山学選書)


「遭難するのは簡単です。日帰りなら食料もランプも持参せず、登山計画書を出さなければどなたでも遭難できます。」
実例を挙げながら遭難の原因、状況を分析する。山岳保険の組み方の例、装備の選び方についてなど、安全な登山のためのアドバイス。

 救助経験のある著者ならではの辛口な警鐘(この年代の方に多い冗談交じりの文章には苦笑しますが)。
 本音を言えば助けたくない遭難者の章は「そこまで言う?」と呆然としますが、読んでよかったと思う最近の登山の一面でした。山歩きしない私ですらそう思うのだから、登山好きの方には身にしみる警告だろうと思います。
 編成による遭難発生率、季節と地域別の事故発生件数などデータが示されています。遭難しやすい性格(単独行動を好む、他力本願など)、登山に向かない身体(太りすぎ、痩せすぎ)というのも、事実こういうものなのでしょう。またメンバー編成について、人数が少ないと統制は取りやすいが遭難した時に自力脱出が難しい。逆に団体登山の場合には、計画は気楽だが他人任せやパニックになる可能性があるなど、長所短所についての節は興味深いです。

 遭難の原因の多くは転落と滑落。つまづく、滑ると聞くと、「え、そんなこと?」と思うのですが、要は足が上がらないというトレーニング不足と装備の不備と読めば、なるほどと頷いてしまいます。しかも、それ以前の問題であるケースも多く紹介されています。日程と目標とする山、登山時期が実力と見合っていなければ、出発前から遭難は始まっているのだという言葉には重みがあります。
(2006.6.23)

「登山者のための観天望気」 山と渓谷社
城所邦夫 著

   
登山者のための観天望気―ことわざを知って山の天気をズバリ当てる (NEW YAMA BOOKS)


観天望気とは雲や風の観察からこれからの天気を予測すること。山において天気を予測するための基礎知識、各地に伝わる天候にまつわる諺を集めた本。

 一章では温度差や低・高気圧の影響で変わる山の風向きや、雲の形から天候を予測するための知識が書かれており、二章と三章では日本各地の山の天気にまつわる諺を、地方による地形の違いや天候の特徴とともに紹介しています。

 たとえば「朝虹は雨、夕虹は晴れ」の項では、「朝虹は朝日を受ける水蒸気を含んだ空気が(自分の)西にあるためにおきる現象で、西に低気圧など天気が悪くなる要因があることを示す。天気は西から東へ移るので、下り坂になりやすい。夕虹はその逆」

 こんな感じで、わかりやすく覚えやすいです。ひとつかふたつくらいは覚えておけるかもしれません(←それだけかい)。「登山者のための……」ということで、悪天候を予測するための事例が特に多く載っています。
 あとがきに、コンパクトなサイズの本(新書版)なので登山に持っていかれる、とも書かれています。三章の諺は山系ごとに分かれているので、それらしい事柄を見つけたらすぐに調べられそう。面白そうです。しかし、前もって覚えておかないと役に立ちませんか(笑)。
(2006.7.10)

「エベレスト花の道 ヒマラヤ・フラワートレッキング 平凡社
写真・文 藤田弘基

   エベレスト花の道―ヒマラヤ・フラワートレッキング (コロナ・ブックス)


ヒマラヤは雪と氷だけではなく、高山植物の宝庫でもある。ヒマラヤの14座とその足元に咲く138種の花の写真、トレッキングコースが紹介されている。

 山と足元の花、両方が楽しめるコンパクトな写真集です。トレッキングは無理ですが(笑)、眺めるだけでもいいものです。
 標高3000mから5200mで見られる花が、4段階の標高に分けて紹介されています。なんとなく見覚えのある、日本にも咲いていそうな種の花もあれば、「これはキノコ?」とぎょっとするような見た目の花もありました。肉厚で毛羽だったエーデルワイスには驚きました。標高ごとにまとめられているので、背景の風景にも目をひかれます。
 また、エベレストをふくむ14座(7〜8000m級の山々)についての解説文もよかったです。そこに登った登山隊のエピソードや名前の由来、また比較的低い(といっても7000m以上ですが)にもかかわらず形の美しさや眺望のよさから愛される山が紹介されているので、照らし合わせて写真を見るという楽しみもありました。
(2007.9.25)

 

「いい家は無垢の木と漆喰で建てる」 文春文庫
神崎髣m 著

  いい家は無垢の木と漆喰で建てる (文春文庫)


紙とビニールで作られた幅木、中身がボール紙のドア、重くて耐久性のないセメント瓦―住宅メーカーの言いなりでいるとこんなひどい材料の家にされてしまう。無垢の木と漆喰を使った家こそが「いい家」であるという信念で自然素材を使った住宅を造ってきた著者が、理想の家とは何かを豊富な実例を使って明らかにする。

 家を買うつもりも建てる予定もないのですが(爆)、新聞広告ではよく書名を見かけて仕事柄気になっていた本でした。Gさま、ありがとうございます。

 テーマは書名にずばり書かれて(^^;)おり、まさに木と漆喰万歳に尽きる。それはよく理解できましたが、もうちょっと他の話(木と漆喰の欠点とか、建築実例)も読みたかったかな、というのが感想です。あと、文庫なので仕方ないのですが、せっかくの間取り図や写真が見づらくてもったいなあ。

 面白かったのは、構造物として水はけと風通しが家屋にとって大切な事、立地条件によって注意するべき事という話。建築中の家を通りすがりに眺めるのが好きなんですが(笑)、土台の下の隙間の意味がわかりました。そして、家を建てる土地と周囲の状況を大きく見て、土地の水はけに留意しなければならないことも。たぶん、風向きや土地柄、季節による天候の影響も考えるのでしょう。
 あと、間取りとか建具の話もいいですね。動線の作り方はもうちょっとじっくり読みたいです。

 よくぶらぶら散歩しながら家並みを眺めながら考えていたことの答えも見つかりました。最近の家は窓が小さいと思っていたんですが、これは密閉遮断性を重視するからなんですね。壁によって強度を得る工法が多い、ということも関係するのでしょう。私は『家全体に対する窓のサイズや位置が美しくない家が多いな』と感じていたのですが、美観の面ももっと意見を読んでみたかったです。

 総じていうと楽しい読書でしたが、その反面「現実にはそうはいかないよ……」とぼんやり感じてもおりました。
 いや、お金があれば無垢の木でも漆喰でもばんばん使いたいですけどね(笑)。実際問題、こんな注文住宅をつくる収入のある人はどれくらい居るんだろうと思ってしまいます。建具の選択肢が少ないことは、私も雨戸を別注したくなった経験から想像はつくのですが。注文住宅をつくる人がもっと多ければ、また違う変化が出てくるのではないかしら。
 昨今、家を建てること自体が壮大なロシアンルーレットみたいになっているからこそこの本が売れるのかも、というのは皮肉すぎるでしょうか。
(2020.6.20)

 

「庭園の謎を解く」 産調出版 ガイアブックス
ロレイン・ハリソン 著 小坂由佳 訳

  庭園の謎を解く (GAIA BOOKS)


原題「How to read gardens」。大規模な庭園や小規模な庭、歴史的な庭や現代風の庭、公共の庭や個人の庭など、あらゆる庭園めぐりに携えたい、使いやすい個人向けのガイドブック。頻繁に庭園を訪れている人でも、専門家の目を通して造園家の世界を見ることで新鮮な見識や楽しみを得ることができる。庭園のレイアウトから建造物、植栽材料、構成要素に至るまでを、美しいカラー写真や細密イラストとともに解説。

 イスラム式庭園や中国、日本庭園もちょっとだけ取り上げられていますが、9割は西洋式庭園です。ジャポニズムな庭園モチーフ(池や築山)が新鮮に受けとめられた感覚を想像することができました。モネの描く蓮池の橋が渡れない理由も納得。あれは視覚的要素なんですね。

 日本庭園が「自然と馴染む」ことを基本に据えるのにたいして、西洋式の庭園がなにかと「自然にひと工夫加える」ことを考えているのが面白い。生け垣のかたち然り、芝の刈り込み然り。

 また、樹木を装飾的に刈り込んだトピアリーや、枝の方向を定めることでフェンスのように木を育てる手法にも(好きではなけれど)目をひかれました。
そういえば、北欧テキスタイルにも似たモチーフがありました。ずっとあれはデザインだと思っていたのですが、実は剪定した果樹を見た目そのままに描いた柄だったのかも。

 ちょっと面白いのはハハー(The ha-ha)という、水のない堀のような境界線。へこんだ石壁と土手といったものですが、遠くからなんだろうと思って近づいてきた人が感嘆する声からついた名前なのだそうです(笑)
 庭(敷地)と外とを区切るごく目立たない境界線ですが、これがあると遠くの景色が庭の延長のようにも見えて、まるで日本の借景のよう。“自然にひと工夫”の考えをベースにする西洋庭園ですが、中にはこんな手法もあるのですね。

 もうひとつ、発見だったのはグロット(Grottoes)という庭園洞窟。
 古代ギリシャでニンフに捧げものをした場所をイタリア・ルネサンス時代に復興させたのが始まりらしい。自然な岩場を模した石壁や、外側は幾何学的なのに中は洞窟のような状態にした建築物をいう指すそうです。プラハでガイドさんが『グロテスクの語源』と教えてくれた庭がこれだったのね。ようやく腑に落ちました。

 他にも、翻訳小説で見かけた『庭のパゴダ』は別に仏教の仏塔ではなくて、あずまやのように庭の景観のアクセントとして置かれた建築物なのだとわかったり。また、休憩場所やボート乗場、テニスコートのある現代の市民公園は、貴族の庭遊びの延長で生まれたのだとわかったり。
 いや、いろいろ面白かったです。

 翻訳が固かったり、誤字が多いのが少し気になりましたが。欧米文化の、庭にかける情熱が伝わってくる一冊です。

 蛇足。そもそもは小堀遠州を探して本棚を彷徨っていたはずですが、何故こんな水路にはまっちゃってるんでしょうか、私。。。
(2017.7.20)

 

「ダライ・ラマのビジネス入門」 マガジンハウス
ダライ・ラマ14世 L・ムイゼンバーグ 共著

   ダライ・ラマのビジネス入門 「お金」も「こころ」もつかむ智慧!


原題「The Leader's Way」。チベット仏教指導者ダライ・ラマ法王と経営コンサルタントとの共著。
相互依存する世界において「私の郷土・国家」という観点だけで物事を考えるのは時代遅れになったのです――グローバル化によって縮みゆく世界では企業はどのような役割を持っているのか、その実践的ノウハウを探る。

Part1 自己を律する
 第一章 正しい理解
 第二章 正しい行い
 第三章 心のトレーニング

Part2 組織のリーダーとして 
 第四章 リーダーの目的
 第五章 ビジネスとしあわせ
 第六章 正しいビジネスを行う

Part3 つながりあった世界のリーダーとして 
 第七章 グローバリゼーションの挑戦
 第八章 起業精神とイノベーション
 第九章 責任ある自由市場経済


Part1では仏教の基本的な考え方(無我、縁起、無常)を取り上げ、それに基づく行動について。
Part2では組織のリーダーに求められること、Part1で書かれた価値観の応用について。
Part3では仏教の価値観をグローバル社会にあてはめ、地球規模の問題への対処を考える。

 仏教をちょこっとのぞいてみるのに、少しでも日常と接点のある本がいい、と思って購入。「お金も心もつかむ智慧!」という副題には最初はびっくり。なんか、生臭い感じが……。
 ですが、「お金」はきれいな物でもきたない物でもない、という考え方はわかりました。ビジネスと仏教という、これまで頭の別の場所で考えていたことが一緒に書かれていて興味深かったです。

 冒頭に「実践的な内容のもの、ビジネスマンがよりよい選択をするための助けとなるものにしようと決めた」と書かれているように、具体的な経営方針の例やトレーニング法が紹介されていて面白い。「富の得方、使い方」チェックシート(笑)があるとは思わなかった。
 また、後半では仏教的な考えと、マイクロクレジットやコーポレートガバナンスなどの考え方が併せて挙げられ、ビジネスマンには「なるほど。ああいう事か」と実感がわくのではないかと思いました。

 ただ、「世界の経済格差」という問題については、もっと突っ込んだ話を読みたかった。
 中国や東南アジア、インドの安い労働力抜きに先進国の生活が成立してこなかった、という問題点がすっぽり抜け落ちているのが気になります。素人考えながら、フェアトレードのような言葉も出てきてもよかったのでは、と感じました(どう評価するかは別としても)。  

 私が一番印象的だったのは、「ビジネスの役割は収益をあげることではない」という言葉。
 そんな馬鹿な、と咄嗟に思いました。でも確かに、企業が社会的責任を果たそうとする時に、収益というのは手段ではあるが目的ではないわけで。

「ビジネスの役割は収益をあげることだと言うのは、人間の役割は食事や呼吸をすることだと言うのと同じく無意味です。損失を出す会社と同様、食事をとらない人間は死を迎えます。だからといって人生の目的は食べることだということにはなりません」

 わかりやすい譬えでした。
 また、最終章では従来の経済論にも触れて長所と短所をあげています。

 アダム・スミスやその他の経済学者は富の創出にこだわりましたが、富の分配に関しては考えを述べていません。その一方でカール・マルクスは富の分配に興味を持ち、富の創出には関心がなかったのです。

 昨年来の世界のバブル崩壊を考えると、社会主義、資本主義、どっちもどっちということですかね。その上で、「自由市場経済に『責任』という一面を加えたい」という提案がなされています。

 この本は主に企業や政府など組織のリーダーのために書かれていますが、一仕事人(笑)としても頷かされる言葉が多かったです。不況の中、気持ちがへこみがちな仕事人にもお薦めします。無用に落ち込むことなどないのだ、と思えて穏やかな気持ちになれました。
(2009.1.10)

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