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海洋小説    1

「海の狐ドルトンの物語」  1〜3 至誠堂
D・パーキンソン 著  小牧大介 訳 

内容紹介、感想はサイト内の独立コンテンツにあります。→ こちら
(2004.1)

「Sea Road to Camperdown」 Sphere Books Limited
Showell Styles 著

   Sea Road to Camperdown


キャンパーダウンの海戦でイギリスに勝利をもたらしたアダム・ダンカン提督の物語。フランス革命政府はオランダのテキセルに兵を集めていた。彼らを護送しようとするオランダ艦隊に対抗し、アダム・ダンカン提督率いる北海艦隊は長い封鎖任務についていた。1797年10月7日にデ・ウィンテル率いるオランダ艦隊が出撃したという知らせを受けて、ダンカンもヤーマスを後にした。ヴェネラブル号の艦上、ダンカンは自らの51年にわたる長い海軍生活を振り返っていた。

 あらすじを追う程度の読み方しかしてないのですが。他の本に浮気しつつ(笑)三月ほどかけて読みました。このペース、この本にはぴったりでした。
 ひとことで言えば、「粘り強い」物語。10/10にヤーマスを出撃(艦上での日付で話が進みます)、10/12にオランダ艦隊と交戦するまでの海の上。ダンカン提督が思い出す若かりし日と現在が交互に語られる、という構成になっています。提督、長い! 話、長いよ!(笑)。でも、海戦へ向かってじわじわと緊張感を増していく感じがよかったです。大柄でどっしり落ち着いた性格(と、読めたのですが)のダンカン提督、66歳の底力が伝わってきました。

『ヴェネラブル号のどっしりした艦尾の後に生まれる泡は、北海の灰色の波間に散り、そしてしぼんでいく。行き過ぎて、取り戻しようもなく消えていく。まるで人間の一生のようだ。その航跡は永遠の海の水面のひっかき傷だ。生まれたと思ったら、あっという間に消え去ってしまうのだ。……ヤーマスを後にして、この二日の間。ダンカンは自分の過去を振り返り見ていた。そして、その航跡は今、彼の目標であるオランダ艦隊へとまっすぐ続いている。 』
(にっけ超訳)

 タイトルのもとになっているのであろう、この箇所は味わいがありますねえ。下手な訳ですみません(涙)。ただ、私の英語力不足かもしれませんが、前半の候補生〜艦長時代の展開が物足りないです。いきなり階級が進むので、読み飛ばしたか、と驚きました。また、熱病でふらふら状態で行ったモロ砦(Fort Moro)占拠のエピソードは、ダンカンが倒れてる間に勝敗が決まったような気がするのですが、読み間違えか? もしそうなら、何か情けないですが。 

 後半、キャンパーダウンの海戦は細かく描写されてます(尤も、風向きも艦の配置もおぼろにしか把握できませんでしたが)。オランダ艦隊の旗艦との砲撃戦。うずまく煙の向こうに、いつのまにか迫り来る別の艦の姿。音もよく聞こえない状態で戦い続けるヴェネラブル号の男たち。そして、ダンカンはたくさんの部下が怪我を負い、死んでいくさまを目の当たりにしています。淡々とした文章で描かれた甲板の悲惨な状況には、思わず悪寒を覚えました。
 上のモノローグもそうなのですが、時々現れる静かな視点が印象的です。戦いの最中、ダンカンは艦をつくるために伐採される樫の森、自分の子供くらいの若者たちが殺し、殺されていく戦争について考えます。そこに神意はあるのか、と。こんなことを思いながら戦争ができるというのは、どうも非キリスト教圏の人間には理解しがたい。

 それでも、ラストシーンはじんわりとした満足感がありました。恩赦の文書を手に、ダンカンはチャタムの監獄船へ向かいます。ノアの叛乱の際にも、ダンカンは水兵を取り巻く軍艦の現状を憂いています。国民的英雄扱いよりも海戦の勝利よりも、捕らえられた水兵を解放できることにダンカンは満足を覚えている。そのことが嬉しいラストシーンでした。
(2006.4.19)

ラミジ艦長物語 1
「イタリアの海」
至誠堂
D・ポープ 著  山形欣哉/田中航 訳 

  ラミジ艦長物語 1 イタリアの海


イギリス海軍将校ニコラス・ラミジはフランス艦との戦闘中に戦死した上官たちにかわりシベラ号を指揮することになった。シベラ号の任務はイタリアに侵攻したナポレオン軍の手からボルテラ女侯爵をはじめとした亡命者たちを救出することだった。

 額の傷をこすってはすぐに考えにふけっている様子がとても人間くさい。ラミジといっしょになって、任務に向かってあれこれ考えられるところが楽しいです。思わず笑ってしまうようなエピソードもありました。豚だ、牛だと話して敵を面くらわせ時間を稼いだり、「逮捕される人間が逮捕する人間に手続きを説明して」やったりします。あのホーンブロワーが話題にされるという、ちょっとしたおまけも嬉しいです。
 ところで邪魔な人物を告発するのに証言人を他の船に転勤、出港させてしまうというのは他の海洋小説にもありました。昔からの常套手段だったのでしょうか。
(2003.6.18)

ラミジ艦長物語 2
「岬に吹く風」
至誠堂
D・ポープ 著  出光宏 訳 

   ラミジ艦長物語 2 岬に吹く風


女侯爵をジブラルタルへ送る命を受けたラミジ率いるカスリン号。航海は順調かと思われたが、途中ジアナは他の艦へ移乗し、その後カスリン号はスペイン艦に拿捕されてしまう。アメリカ人水夫と身分を偽ったラミジたちは無事釈放され、スペイン艦隊出撃の情報を探り出す。

 前半の拿捕の場面や秘密文書を盗み読みするくだりもはらはらさせられましたが、セント・ビンセント岬沖の海戦の様子が臨場感あります。私は海戦シーンは様子がわからず読むのが苦手なのですが、艦の位置と進路を示した図解があって助かりました。状況がわかることで、命令に黙って従うべきか、状況に即した自分の判断に従うべきかというラミジの悩みを実感しました。
 登場人物の個性も前の巻よりはっきりしていて面白いです。ラミジに打開策を尋ねられたサウスウィクが「わかりません」とつるっと言ってしまうところは思わず笑ってしまいました。前巻にもまして存在感のあるネルソン司令官の言葉がいいです。「世界中の判断など気にするな。考えた通りにすればよい」
(2003.6.22)

ラミジ艦長物語 3 . 4
「ちぎれ雲」 「カリブの磯波」
至誠堂
D・ポープ 著  田中清太郎 訳 

   ラミジ艦長物語 (3) ちぎれ雲

   ラミジ艦長物語 4 カリブの磯波


原書「Freebooters」が二巻に分けて邦訳されている。
ラミジはスピッドヘッドの反乱の情報を提督たちに届けるという命令を受けた。3巻はそのためにトライトン号を出航させるところからはじまる。当のスピッドヘッドに錨泊している船の水夫たちをどうやって命令に従わせるか。
4巻ではバルバドス島でラミジを待っていた事件が描かれる。当地では荷を積んだ商船が度々行方不明になっていた。

 3巻はトライトン号でのエピソードが中心です。ラミジの機転、ジャクソンの計画も楽しく読みましたが、私の今回のお楽しみは「だめだめな人の活躍」です。まずは調理場担当のどろどろダイソン。彼はあれこれ考えたわりにさっぱり報われず、立ち去り方も「料金不足のため配達不可」みたいな煮え切らない感じで、後が心配になりました。もう一人は飲んだくれ軍医ボーエン。彼を頼りに熱病が蔓延する地に行くのをラミジたちが不安がるのも当然のアル中ぶり。それがラミジと話しているうちに元々ある仕事熱心な一面、緻密な頭脳が甦ってくるところが面白かったです。
 4巻は海洋小説につきものの浮気心。いいのか、ラミジ。あろうことか実家にジアナを預けて単身赴任中なのに。商船の出航情報を誰が漏らしているのか、緻密に推理しながらも、何かとクレールに甘いラミジがおかしかったです。
(2003.7.10)

ラミジ艦長物語 5 . 6
「ハリケーン」 「謎の五行詩」
至誠堂
D・ポープ 著  小牧大介 訳 

 ラミジ艦長物語 5 ハリケーン

   ラミジ艦長物語 6 謎の五行詩


原書「Governor Ramage R.N」が二巻に分けて邦訳されている。
トライトン号は商船団をジャマイカまで護衛するように命ぜられる。船団にはゴダード提督の乗るライオン号、フランス人一家を乗せたトパーズ号、そして不穏な気配のあるピーコック号がいる。このピーコック号は商船を装った私掠船で、サン・ブリュウ一家を狙ってトパーズ号を襲撃する。
この事件を口実にゴダードはラミジを陥れようとするが、ハリケーンによって船団はばらばらになり、トライトン号とトパーズ号は島にようやく辿り着く。そこで捕らえたスペイン人将校からラミジは謎めいた古い詩を聞かされる。

 冒頭から終章の軍法会議までゴダードとラミジの確執が話の大事な骨になっており、後半は緊張感につられてどんどん読み進めてました。今回のお気に入りはヨーク船長。資産持ちで船乗りとしても一流、しかもちょっとお茶目。早弁ならぬ早お宝しようとラミジを起こしにくるところは笑ってしまいました。あと、ラミジは自分の準備に手抜かりがあったのではと考えて、しょっちゅう頭をかきむしるような(多分)思いをしてますが、これが出るたびに読んでるこっちもぎょっとします。
(2003.8.2)

ラミジ艦長物語 7 . 8
「消えた郵便船」「裏切りの証明」
至誠堂
D・ポープ 著  出光宏 訳 

   ラミジ艦長物語 7 消えた郵便船

   ラミジ艦長物語 8 裏切りの証明


原書「Ramage's Prize」が二巻に分けて邦訳されている。
西インド諸島とイギリスを結ぶ郵便船が次々と拿捕されていた。本国と外地の連絡がとれないことで各機関は混乱している。この一連の事件の解明をラミジは命ぜられた。
指揮する艦も与えられていないラミジは友人ヨーク、トライトン号の仲間とともに、ジャマイカを出る郵便船に客として乗り込むことにした。

 まず余談ですが、読み始めて思わず一言「ラミジ、マクシーヌは何処よ?」前の巻の終わりに、かの令嬢とのバカンスを楽しみにしてたようなんですが・・・言及なし、ですか。海洋小説の海軍士官って(涙)
 それはともかく、前の巻とはまた違った楽しみがありました。今回はそれほど派手な海戦も、悪天候を乗り切るという華々しいエピソードもないのです。でも水夫たちの「商売」や郵便の制度、お役人の話が結びつき、淡々と読み進むうちに真相が浮かび上がってくる、この過程が楽しかったです。また、ラミジの解明説が8巻で一気に証明されるような事件がおきる、ここが展開鮮やかでした。久々に登場のジアナは相変わらずの美女ぶり。彼女には参りました。囚われのジアナに白馬の王子さまはいらんなあ。
(2003.9.9)

ラミジ艦長物語 9
「Xデー」 
至誠堂
D・ポープ 著  田中航 訳 

  ラミジ艦長物語 9 Xデー


ナポレオンのイギリス進攻の情報が海軍省にもたらされた。日に日に勢力を伸ばすナポレオンはイギリスにとって脅威であったが、海軍省はこの進攻が逆に戦況を変える好機になりえると考えていた。海軍力でフランスはイギリスに遠く及ばない。前もって進攻の時期や戦力がわかれば、迎え討ってフランスに大きな打撃を与えられるかもしれない。その情報を集める任務遂行にラミジに白羽の矢がたつ。しかしどうやってナポレオンへの報告書の内容を知ることができるか、そしてそれ以前にどのようにしてフランスへ潜行することができるのだろうか。

 ほとんどが陸上でのエピソードという珍しい巻でした。最近の巻が二冊組の長い話だったので400ページ足らずでも小品のように感じました。今回はナポレオン統治下の共和国市民の様子が書かれてますが、片足を無くした男、女子供ばかりの村、したたかに宿代を請求する主人たちの描写が細かくて読み応えがあります。前の巻に出てきてその後が気になっていたあの人の身の上話も出てくるのが嬉しかったのでした。脇役なんですけれどね。最後の方になってようやく海に乗り出した時には、ラミジとおなじく何となくほっとした気持ちになりました。
(2003.10.10)

ラミジ艦長物語 10 . 11
「タイトロープ」 「眼下の敵」
至誠堂
D・ポープ 著  山形欣哉/田中航 訳 

  ラミジ艦長物語 10 タイトロープ   
 
  ラミジ艦長物語 11 眼下の敵


原書「Ramage's Diamond」が二巻に分けて邦訳されている。
ラミジはついに正規艦長に任命された。フリゲート艦ジュノー号での初めての任務はカリブ海のマルチニク島の封鎖。1804年のS・フッド提督下でのダイヤモンド岩礁占拠に想を得た話。

 ラミジも晴れて正規艦長。新しい士官たちとのつきあいが新鮮でした。(これまでは手下ども!という感じがして)しかも士官たちが揃って有能、他の海洋小説の主人公たちが見たらオールスターゲームか、と目をむく充実ぶりです。難題にあたっても涼しい顔でやってのける一席将校エイトキン、無茶が可愛いオルシ二、あと地味ですがベーカーにも読みながら声援を送りました。それでもやはり主役はラミジ。規律のゆるんだジュノー号乗員を訓練するために難題をふっかける姿に見惚れました。
 それはともかく、フォート・ロイアル侵入とそれに続くダイヤモンド岩礁の占拠の様子が手並み鮮やかで面白い。もしかしたら1から11巻の中で一番面白かったかも、と思いました。巻末に紹介されていた実話とは違う展開ですが「ラミジならこんな成り行きだったかも」という作者の描きっぷりが楽しいです。
(2003.10.26)

ラミジ艦長物語 12
「密命の結末」 
至誠堂
D・ポープ 著  小牧大介 訳 

  ラミジ艦長物語 12 密命の結末


反乱を起こした水兵たちの手によってイギリスのフリゲート艦ジョカスタ号はスペイン人の手に引き渡された。これは海軍省には衝撃的な事件だった。ジョカスタ号は奪還しなければならない。しかもスペイン人の鼻を明かすために、と、ラミジに命ぜられたのは完璧な防備を誇るサンタ・クルス港内からかの艦を取り返すという不可能としか思えない任務だった。

 いったいどうしろと言うのか、と最初から頭を抱えてた私を、ラミジは裏切りませんでした。いつもそうですが理屈を捏ね回した作戦ではなく、敵の心理の隙間を狙った展開が楽しいです。でも今回のスペイン人はあまりにおまぬけな気もしますけど。前半の軍法会議では、かつてラミジと同じ船にいたという水兵が登場します。こんな再会をしたくなかったという苦さが印象的でした。その後カリプソ号の大掃除をしたであろうエイトキンと、うずうずしてたのに腕の振るいようがなかったサウスウィクに励ましの一杯をご馳走したい。
(2004.1.20)

ラミジ艦長物語 13 . 14
「鬼哭啾々」 「総督の陰謀」
至誠堂
D・ポープ 著  田中清太郎 訳 

   ラミジ艦長物語 13 鬼哭啾々

   ラミジ艦長物語 14 総督の陰謀


原書「Ramage and the Rebels」が二巻に分けて邦訳されている。
ラミジは私掠船掃討を命ぜられてカリブ海キュラソー島へ向かう。途中フランスのラ・ペルル号を捕獲した。本来の任務とは関係のない出来事だったが、これに目をとめたキュラソー島の総督からラミジへ思わぬ申し出がなされた。

 10巻からまだ数週間しかたっていないらしいのに、ラミジは大忙しですね。フランス人に「あのラミジ」と呼ばれ、カリブ海ではすっかり有名になったようです。内心でこっそり「兄貴」と呼んでるパオロの呟きが少年らしくて可笑しい。
 前巻に引き続き、居残りをさせられたサウスウィクに、この先大活躍の機会はあるのか?そして今回何かにつけて思い出されていたジアナがとうとうご当地に乗り込んできたらしい。続きが楽しみです。
(2004.2.4)

ラミジ艦長物語 15
「海に沈めた秘密」 
至誠堂
D・ポープ 著  窪田鎮夫・出光宏 訳 

   ラミジ艦長物語 15 海に沈めた秘密


カリプソ号は西インド諸島から地中海へ、そこでフランスの通信と輸送手段を妨害するという任務を命ぜられた。エルコレ港に終結するフランス艦の行先と作戦を探ろうと、ラミジは部下とともに上陸する。

 臼砲艇の見方、扱いがそれぞれらしくて楽しかったです。虎の子片手のパオロ、沈めるなんてもったいない、使ってみたいエイトキン。訓練に夢中になる姿が子供みたいな水兵たち。
また、できるフランス人艦長ポワチエを凍りつかせたラミジの評判とはどんなものなのか、気になります。それにしても思い出されるたびにラミジをしんみりさせている、あの人はどうしたのだろう?
(2004.4.29)

ラミジ艦長物語 16
「遠い船影」 
至誠堂
D・ポープ 著  出光宏 訳 

   ラミジ艦長物語 16 遠い船影


ラミジは商船団がバルセロナに集結しているという情報を得た。護衛のフリゲート艦の到着を待っているその船団のもとに、新たな信号命令が届く。「船団はただちにフォワ湾にむけて出港すべし」

 まるで3冊分のエピソードが1巻にまとめられたかのように盛りだくさんの事件。水平線にちらりと見える遠い船影が(題名に脱帽)何者なのか、やきもきしながら読み進みました。10、11と並んでお気に入りになりました。
 乳搾りもできる一席将校と、「牛を放せ」と書類の持ち帰りより先に命じた艦長がおかしい(本当にこの順番で。別に牛の方が重要というわけでもないのですが)。船ってこんなにざくざく捕獲できるの?いや、そんなことはあるまい。しかし掴み取り放題だなあ。
 1隻手に入れてジブラルタルまで回航してみせる、というパオロに向けるラミジの目が温かくて、ちょっと切ないです。あの人はどうしたの?!
(2004.5.3)

ラミジ艦長物語 17
「孤島の人質」 
至誠堂
D・ポープ 著  影山栄一 訳 

   ラミジ艦長物語 17 孤島の人質


1802年のアミアンの和約により戦争は終結したが、この平和は長く続かないと考える者は多い。故国ボルテラへ帰ろうとするジアナと別れ、ラミジは南大西洋へ向かう。条約に挙げられなかった島を調査するためだ。

 ニコラス・ボライソー?とやきもきしながら読みました。ナポレオンだのジアナだの心配事が多くて(並列すると妙)大胆巧妙ないつもの展開が安心して楽しめず、ちょっと口惜しい。
 しかし何ヶ月もかけて航海するこの時代に、何故古い信号書を返してしまうのでしょう。バージョンアップだけ現代と同じスピードというのが不思議でした。
(2004.5.7)

ラミジ艦長物語 18
「悪魔島」 
至誠堂
D・ポープ 著  小牧大介 訳 

   ラミジ艦長物語 18 (18) 悪魔島


フランスとイギリスの和約は破れ再び戦争が始まる。その知らせをラミジは新婚旅行中のフランスで聞いた。どうにか拘束されずにフランスを後にしたラミジはイギリスではなく南米へ。政治犯の収容所へ向かった。

 何もフランスに行かなくてもいいでしょう、とつい頭を抱えました。新郎新婦いったいどちらの発案だったんだろう(どちらでも驚かない気もしますが)。ラミジがカリプソ号を離れて数ヶ月のうちの話のようですが、あの面々が早速懐かしくてなりませんでした。波の向こうのカリプソ号の姿が嬉しくて、つい涙が出ました。ボーエン先生の患者お見立てがいちいち詳しくて可笑しい。
(2004.5.11)

ラミジ艦長物語 19
「狂気の目撃者」 
至誠堂
D・ポープ 著  小牧大介 訳 

   ラミジ艦長物語 19 (19) 狂気の目撃者


船団を護衛するカリプソ号の前にあらわれたイギリス艦ジェーソン号。そこへ乗り込んだラミジは奇妙な情況を目にすることになった。甲板に士官の姿はなく、艦長の様子も尋常ではない。やがてイギリスへ到着したラミジのもとへ、被告として軍法会議に出廷するようにという命令が届いた。

 今回、辛い思いの多かったラミジ。行方不明のあの方(達)も心配だけれど、自分のために部下や家族に迷惑をかけると珍しく弱気気味なのに気を揉みました。どうもジェーソン号の人たちが薄気味悪いので、さっぱりした性格のアレクシスの登場がうれしい。やることの過激さはコンスタンス(話が違う)ほどではないけれど、性格の強さは上かも。兄の世話なんて焼いてないでアメシスト号に乗ってトリ二ダデ島にいたら、別の話が展開していたかも?あいかわらずのゴダードさんはカリプソ号の面々に、やっぱり話を聞いてもらえませんでした。
 前半のジェーソン号が近づいてくるあたり。ラミジが相手の出方を想像しているのはいつものことなのですが、そのために向こうの様子が奇妙だということ、ラミジのとった行動はもしかするとやりすぎなのでは、と思わせる文がうまいなあ、と思いました。
(2004.5.16)

ラミジ艦長物語 20
「ナポレオンの隠し札」 
至誠堂
D・ポープ 著  小牧大介 訳 

  ラミジ艦長物語 20 ナポレオンの隠し札


人質としてとらわれたイギリス人を救出するためにカリプソ号が向かったのは、イタリア、トスカナ。ラミジがかつてジアナを助けだした地だった。

 1&15巻で馴染んだ風景を読みながら、いろいろあったと感無量。でも女たちはどこへ行っても大丈夫な気がして、提督たちほどには心配しません。もしかすると人質の中にジアナもいて、サラーと二人意気投合してるんじゃないかと思ったほどです(いや、いませんけど)。パオロもついにジュニアを持つ身になり(誤解)、イタリアが平和になる日が楽しみになりました。おしゃかにされかけたサウスウィクの大刀を一度見てみたいです。からかうなんてラミジもお人が悪いです。
(2004.5.25)

ラミジ艦長物語 21
「トラファルガー残照」 
至誠堂
D・ポープ 著  小牧大介 訳 

  ラミジ艦長物語 21 トラファルガー残照


1805年、イギリスへ戻ったラミジは休暇を楽しむ間もなく、ネルソン提督の指揮下カリプソ号で新しい任務につくことになった。ラミジにとっては初めての艦隊勤務となる。西仏連合艦隊とネルソン率いるイギリス艦隊の、トラファルガー海戦がはじまる。

 語学の才をかわれて密偵と接触、戦いの不文律を破って敵艦へ切り込み・・・毎度おなじみおいしいとこ取り放題なラミジですが、それでも今回の主役はネルソン提督だった気がします。愛娘と夫人に囲まれての幸せぶり、部下の艦長たちの意気をひとつにまとめあげてしまう人柄。これまで人づてにばかり聞いてきたネルソンの姿が、血肉を持った人として現れた印象は強烈でした。
 題名の「残照」というのは、ネルソンを太陽になぞらえての表現なのかな、と思っているのですが、さて? いずれにせよ、いつもタイトルが印象的で嬉しいです。
(2004.6.2)

ラミジ艦長物語 22
「サラセンの首」 
至誠堂
D・ポープ 著  小牧大介 訳 

  ラミジ艦長物語 22 サラセンの首  


両シチリア王国からの要請で、カリプソ号は近隣の島々を襲う異教徒アルジェリア海賊の討伐を命じられた。襲われた町の男達は奴隷としてガレー船のこぎ手にされ、女たちは売春宿へ連れて行かれたという。

 普段、フリゲート艦というと、比較的小型の駿足の船と思って本を読むので、海賊船に比べると大きすぎて小回りがきかない、という状況が新鮮でした。しかし、街ひとつ陥落させても、それで済むのかしら? ラミジが帰ったあとも報復があるのでは、と心配です。それに異教徒との戦いというのは「お互い様なこともあるんじゃないの?」と思うので、なかなか手放しでは話を楽しめないところがあります。でも、いろいろ面白かったですが。
 この数巻に登場のフランス人水兵たちもすっかり仲間にとけこんでおり、特にジルベールがお気に入りです。穏やかで、どこか一歩ひいたような言葉を言うのが、たまりません。ところでジャクソンはいつから超能力者に? ラミジの頭の中の作戦を察知して食卓仲間に伝達、常に準備万端、気構えOKにしておける。いい部下ですが、ちょっと怖いです。
(2004.6.9)

ラミジ艦長物語 23
「マルチニク島の新月」 
至誠堂
D・ポープ 著  小牧大介 訳 

  ラミジ艦長物語 23 マルチニク島の新月


ラミジは戦列艦ディド号の艦長となり、久方ぶりの西インド諸島を目指した。かつて指揮下にいれたダイヤモンド岩礁はフランスの手に奪い返されていたが、ラミジにとっては懐かしい海だ。そこでフランスの船団がフォート・ロイアルに入港するのを阻止しようとする。作者逝去によりこの巻が最終巻。

 前半、フランス艦との遭遇場面を読みながら「三色旗を掲げればふいを突けるから大丈夫だもんね〜。はっ、これはカリプソ号ではなかった!」と汗をかきました。危うく艦を拿捕されて軍法会議ものです(笑)。この巻でサウスウィクはようやく斬り込みに参加、ラミジは昇進しました。この巻を最後にするということを作者ポープ氏自身が決めていたそうです。この後エイトキンは?  次の重要な任務って何?  と、気にかかりましたが、今後どうなるか想像する余地を残しつつ、登場人物それぞれにひと区切りついたようで。これはこれで最終巻らしいのかもしれません。
 ディド号は今もD・ポープ氏とどこかを帆走してるのかもと思うと笑みが浮かびます。
(2004.6.15)
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