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SF小説 11

 

星へ行く船シリーズ1
「星へ行く船」
集英社コバルト文庫
新井素子 著 

   星へ行く船シリーズ1星へ行く船


あたし森村あゆみ、19歳。現在進行形で家出のまっ最中。家を捨てるついでに、地球まで捨てるでっかい覚悟で乗り込んだ宇宙船で、あたしはさんざんな目に! いったい、家出はどうなるの!?

 懐かしい読書第三弾。旧版の奥付は昭和56年。しかし! アマゾンを見たらソフトカバー新装版が出るらしいので、そちらへリンクします。

 主人公のあゆみちゃんが夢を追いかけて地球から家出、偶然知り合った「やっかいごとよろず引き受け業」者、山崎太一郎に拾われて火星へ行くまでの『星へ行く船』。そして、火星の水沢総合事務所でやっかいごと引き受けの見習いとして働きはじめ、隣人に起こった事件を解決する『雨の降る星 遠い夢』の2編が収録されてます。

 可愛らしくてテンポよく、歯切れよく、今読んでも楽しい少女小説。いい感じにバランスのとれた作品だと思います。
 地球生まれのお嬢さんで何もできないあゆみちゃんが、自分の力の小ささ、そして人生について自分なりの考えを育んでいくという、恥ずかしさ直球まっしぐらな成長物語で微笑ましいのです。十代の頃には、友達とおしゃべるするように読んだものでした。

 また、当時の私にとっては印象が薄かった『雨の降る〜』が、あらためて読むと、優しさとは甘えや弱さとはまったく違うものだよ、と書かれていて、いいメッセージのお話だったのね、と気づきました。こんなお話を読めたのは幸せなこと。そう、太一郎さんの台詞どおりです。

「あんた、運相当いいぜ」
「どこが」
「俺とお知り合いになれたじゃない」


(2016.5.24)

 

星へ行く船シリーズ2
「通りすがりのレイディ」
集英社コバルト文庫
新井素子 著 

   星へ行く船シリーズ2通りすがりのレイディ


愛する太一郎のバースデイの日、彼のアパートの前で、あゆみは怪力のとびきりの美女に出会った。その通りすがりの出会いが、あゆみを奇想天外な宇宙規模の事件に巻き込むことになるとは?!

 リンクは新装版へ。手持ちになく、図書館で借りてみました。旧版の奥付は1982年。あゆみちゃんは前巻通り、思いつき、行動力、カンの良さで猪突猛進でした。

 太一郎宅のそばで会った通りすがりの美女、あゆみ名づけるところのレイディ。彼女が水沢事務所に現れたことから事件がはじまります。命を狙われているらしい彼女、木谷真樹子に会おうと調査を始めたあゆみちゃんは、彼女の身のまわりに不審な事故・事件が多発していることに気づく。しかも、それらがいっさい報道されていないことにも。そして、彼女がうっすらと感づいたとおり、レイディは太一郎の元・妻だった。

 次々と危険におそわれるレイディのボディガードとして同行するあゆみちゃん(実際はボディガードされてしまったけど)、大好きな太一郎さんと憧れのレイディのために頑張れるところが本当に可愛いです。しかし、猪突猛進の先に辿りついた事件の真相は考えていたよりもずっと大きく、敵対していたものは強かったのです。

 以下、ネタバレあります。


 数年前、太一郎さんが宇宙船の事故に巻き込まれて生死不明となり、当時奥さんであったレイディは事故の本当の原因を追究。それが不老長寿の高価な薬の違法精製に関係していたために、彼女は命を狙われることになるわけですが。試験管ベビーの人権、利権がらみの報道統制などハードな社会派エピソードがはさみ込まれていて、中高生対象であったライトノベルとしては意外な感じです。

 そして、死んでしまった(と思われた)太一郎の復讐のために巨大な陰謀に巻き込まれたレイディ。なのに、当の太一郎は生きて新しい人生を歩みはじめている――二人の人生の道はとっくに離れてしまっているんですね。そこが切ないです。

 レイディというのは、新井素子作品の中でもっとも魅力的なキャラクターなんじゃないか、という思いをあらためて抱きました。いま読んでも美しく可愛らしく、そして凛としています。彼女に影響された少女読者はきっと多いはず。名言はやはりこれかな。

 誰が従容として運命に従ってやるものか。


(2016.5.29)

 

星へ行く船シリーズ3
「カレンダー・ガール」
集英社コバルト文庫
新井素子 著 

   星へ行く船シリーズ3カレンダー・ガール


あゆみの勤める火星の「やっかいごとよろず引受事務所」。ここの所長と麻子さんが結婚した。ところが、新婚旅行に向かう宇宙船の中で、突然麻子さんが消えてしまった。

 懐かしい読書第四弾、旧版の奥付は昭和58年。シリーズ順でいくとこの前に「通りすがりのレイディ」が入るのですが、見当たらないのでこちらを先に。書影とリンクは新装版です。

 今回はあゆみちゃんの先輩である麻子さん大活躍。ハネムーンの豪華客船の中でファッションモデルの女の子と知り合い、成り行きで船をスペースジャックすることになってしまいました。
 成り行きでスペースジャック、行き当たりばったりで誘拐ができてしまう、このシリーズの荒唐無稽さが楽しい。そして、麻子さん視点があることで、年下の女の子たち(あゆみちゃん含め)が成長していくための指標が描かれていて良かったです。お茶汲みを「たかがお茶汲み」にしない視点は、あゆみちゃんからはまだ出て来なかっただろうと思うので。

 大人視点といえば、騒動の一因ともなったヴィードールコレクションについての近藤社長の説明が説得力たっぷり。従業員とその家族を支え、極寒環境に住む人たちへの社会責任――世の中はすべて繋がり、関係しあっている。その中で『ヴィヴが可哀相』というだけで暴挙に出てしまった青年の甘ったれにはきっと誰もが気恥ずかしくなる。
 世界の事情を忘れちゃいけない、でも理想も諦めてはいけない、という複雑なメッセージがうまくまとめられてました。

 ただひとつ、とてもとても惜しかったこと。それは、輝くように可愛く魅力的な少女まりかちゃんの描写で「ピンクのメッシュの入った日だまり色のカーリーヘア」とあるのですが。カーリーって、この本が出版された頃ですら時代遅れだった記憶があります。
 時は流れて、少女小説を読んでた少女もおばさんに(笑)なるのだから仕方ありませんが、もしも今でも「ああ、カレンダー・ガールってぴったりだね」と思えるように書かれていたらよかったなあ。
(2016.5.26)

 

星へ行く船シリーズ4
「逆恨みのネメシス」
集英社コバルト文庫
新井素子 著 

   星へ行く船シリーズ4逆恨みのネメシス


あたし、森村あゆみ。探偵事務所で、67回目のため息。みんなは、所長と麻子さんの夫婦げんかのせいで、ため息ついてんだと思ってんだ。あたし、本当は脅迫状が届いて、それで。太一郎さんは心配してレストランに誘った。そして、太一郎さんが席をはずしてるとき、変なおじいさんがきて、あたしの手をなぜまわしたの。戻ってきた太一郎さん、その話を聞くと、まっ青になった。

 リンクは新装版へ。旧版の奥付は昭和61年でした。
 あとがきにも書かれているように、前作を読まないと流れがわからず、問題は次作へ持ちこしなので、これ一冊だけの感想というのは書きにくいのですが。

 あえていうなら、あゆみちゃんの性格の良さが基調となっているシリーズにあらたな展開、というところかな。別に、彼女が横暴になっちゃうわけではないのですが(笑)

 優しい人はあちこちにいますが、憎まれ役を引き受けられるほど優しい人は果たしてどのくらいいるのか。そんなことを考え始めたあゆみちゃんの成長が気になるので続きを読みたいのですが、手元にはありません。果たして、図書館か古本で見つかるでしょうか。
(2016.7.1)

 

星へ行く船シリーズ5
「そして、星へ行く船」
集英社コバルト文庫
新井素子 著 

   そして、星へ行く船 (集英社文庫―コバルト・シリーズ)


レイディに誘拐されたあゆみは、彼女から奇妙な任務を依頼された。成功すれば地球を救うという責任重大なその任務には、過酷な条件があったのだ。ハッピーエンドの完結編。

 奥付は1987年。さすがに持ってなくて、図書館で借りてきました。大団円、です。以下、ネタバレしてますので、苦手な方はご注意ください。







 異星人とのファーストコンタクトにまつわる諸々はさすがに荒唐無稽すぎて、今となっては辛いものがあります。でも、あゆみちゃんの成長物語、という点では納得いく展開でよかった。
「感情同調」という珍しい能力に恵まれたことは、裏返せば誰の友情も信じられなくなってしまうということ。ですが、太一郎さんの言うとおり、こればかりは、受け入れて開き直る(笑)しかないのですよね。
 誰でも欠けてるところ、人より秀でたところ、どちらもある。それを人からどう見られるか、気にして生きていくわけにはいかない。将来、出会う人全員にお伺いをたてて生きていくわけにはいかないのです。

 だから、レイディが持って来た厳しい条件の仕事を受け入れて旅立つことにしたあゆみちゃんが一人にならなくてよかったな、と思う。これ以上ないハッピーエンドでした。

 最後にお礼を。十代の頃の私にこんなお話を読ませてくれて、ありがとう。
(2016.7.10)

 

「砂星からの訪問者」 朝日文庫
小川一水 著 

  砂星からの訪問者 (朝日文庫)


戦場カメラマンの石塚旅人が乗り組んだ宇宙調査艦が突如、エイリアンと交戦状態になり、旅人は捕虜になってしまう。実はエイリアンの艦隊も、調査艦隊だったのだ。情報力と戦闘力が直結する戦いが幕を開ける。

 思いっきり場違いな空気を漂わせる戦場カメラマン、大丈夫か、というハラハラ感。ほぼ猫そのものの異星人との交流。
 ――ここは期待したのですが、最初から最後までハードSFテイストで、ちょっと私はお手上げでした。ンールーは美しくて好きなんですけどね。味のあるキャラクターが多くて面白くなりそうなのに、意外と誰も活躍しないので、物足りませんでした。

 ……首を傾げつつ読み終わって、密林のレビューを見て気がついた。

 これは、続編なんですね!

 「臨機巧緻のディープ・ブルー」の続編 orz
 最近、こういうトラップ(と言ってしまおう)にかかることが多い。シリーズが別出版社に盥回しになった時に起こることが多いのですけどね。こういう事態はどうにかならないのかな、と思うこのごろでした。
(2017.3.20)

 

「ペンギン・ハイウェイ」 角川文庫
森見登美彦 著 

  ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)


ぼくはまだ小学校の四年生だが、もう大人に負けないほどいろいろなことを知っている。毎日きちんとノートを取るし、たくさん本を読むからだ。ある日、ぼくが住む郊外の街に、突然ペンギンたちが現れた。このおかしな事件に歯科医院のお姉さんの不思議な力が関わっていることを知ったぼくは、その謎を研究することにした──。

 久しぶりの著者読み。文体が面倒くさいけれど、たまに読みたいのです(おい)

 知的好奇心旺盛な小学4年生、科学の子(笑)の「ぼく」ことアオヤマ君の住む郊外の街に、ある日突然ペンギンの群れが出没する。彼らはいったいどこからやって来たのか――ぼくはクラスの友だちと一緒にこの謎を解くべく研究を開始する。やがて、この奇妙な現象には近所の歯科医院で働くお姉さん、そして草原に現れた<海>が関わっていることがわかって来た。

 理屈っぽく、何でもかんでも研究にしてしまうアオヤマ君がおかしく、楽しい。小学生ってこうだよね。ちょっと大人びて過ぎてはいないかと思うこともありましたが、この著者の語り口が基本面倒くさいので(笑)、それも楽しいのです。

 とつぜんペンギンの群れが出没したり唐突に消えてしまったり、という荒唐無稽さは、のんびりとした俗っぽい新興住宅地にぴったり。おしゃれな都会でも人里離れた村でも、こんな雰囲気にはならない。この新興住宅地の小ぎれいで居心地のいい、でもたまに時が止まったように思えて息苦しくなる感じはリアルですねえ。私もこういう土地柄で育ったのでわかるのですが。

 また、唐突に姿を現すペンギンたちが可愛い。「きうきう、きしきし」という鳴き声がまた可愛い。ぽってりお腹でよちよちと歩くのがまた……この辺にしておきましょうか。彼らがもっとたくさん登場して欲しかったです。

 やがて、謎の中心である<海>をめぐり、日本中からたくさんの大人がやってくる事態に。研究はぼくたちだけのものではなく、それどころか研究の場所から追い出されそうになってしまう。そんなことにぼくらは我慢できるのか。答えは否、だ。

 くわしくは書きませんが、アオヤマ君がいなければ事態は収束しなかった。ちょっと尻つぼみな終わり方ではありますが、1冊楽しかったです。
(2020.9.10)

 

「アリスマ王の愛した魔物」 早川文庫
小川一水 著 

  アリスマ王の愛した魔物 (ハヤカワ文庫JA)


弱小なディメ王国の醜悪な第六王子アリスマは、その類まれなる計算能力によって頭角を現していくが――森羅万象を計算し尽くす夢に取り憑かれた王を描き、星雲賞を受賞した表題作、なぜか自律運転車に乗せられる人型ロボット、アサカさんを通して、AIの権利を考察する書き下ろし「リグ・ライト――機械が愛する権利について」ほか全五篇。

 いつも楽しみにしている著者の短編集。私にはテイストによって好きな作品とまったくわからないものが二分されるので、毎回どきどきしながら手に取るわけですが(笑)今回もきっぱり二分されて面白かったなあ。

 さっぱり理解できなかったのは「ろーどそうるず」、すみません、日本語で書かれていても何がなんだか。
 好きだったのは「星のみなとのオペレーター」「リグ・ライト――機械が愛する権利について」。

 「星の〜」は明るくて楽しくて、スケールも大きくて、こういうSFを読むのは久しぶりです。
 小惑星イダの宇宙港で管制官を務める筒美すみれ。ある日、埠頭のかたすみで不思議な生き物(機械? 船?)を拾ったことで、人類の運命を左右する「オペレーター」になってしまう。ウニの形状の宇宙人(?)が大河状に漂ってくるさまを想像すると、ちょっと楽しくなります。
 ついでに、正体不明のコンちゃん。掴んでも押してもびくともしない、でも夜道ですみれのボディガードになったり、時には上着掛けになってくれる――うん、未知の生物とのつきあいとしては格段に平和的ですねえ。

 そして、「リグ・ライト〜」。
 AIは、はじめは実験的な使われ方だったものが、どんどん進化して人間の能力を追い抜いていく。ああ、確かにAIの能力というものはどこかで確実に人間を凌駕してしまうんですね。そんな単純なことにこれまで気づきませんでした。では、そのAIには何の権利が、何の義務があるのか。
 まずは人間社会の中でのAIの位置づけを決めるのが必要で、彼らの自由や権利はその後の話になってしまうのでしょうね。多分、長いこと時間がかかるのでしょうが、そんな時に四季美の言葉が温かく響いてます。

「いいよ、行っといで。でも困ったら戻ってきていいからね」

 こんな風に機械とつきあえたらいいね。

「ゴールデンブレッド」「アリスマ王〜」は、私の中では少し印象が薄かったですが、世界設定やお伽噺風の語り口も新鮮でした。


 最近の著者の作品はどんどんおおらかに、でも何か真実を衝いていきますねえ。人間も機械も宇宙人も似たようなものだし、人類なんて単なるローカルな生物だし、パートナーは男でも女でもいいし、もうなんなら物語の主人公は人間なんかでなくてかまわないし――。

 ……なんて、書いてて気づいた、これが「ろーどそうるず」なのか。
(2018.2.25)

 

「ハイウイング・ストロール」 早川文庫
小川一水 著 

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世界が重素の海に沈んだ災厄「大洪雲」後―人間はわずかに残った島々で、空中を漂う浮獣を生活資源に暮らしていた。トリンピア島で怠惰に生きる少年リオは、年上の女性ジェンカから浮獣を狩るハンター「翔窩」に勧誘される。両親を見返すため渋々仕事を始めたリオだが、シップに乗り、浮獣を狩る楽しさに徐々に目覚めていく。だが古の浮獣グリースに話しかけられてから、リオは世界の成り立ちに疑問を抱きはじめるのだった。

 著者のジュヴナイルを読むのは久しぶりでした(発行は2004年)。
 多島界という雲(?)に覆われた世界をプロペラつき飛行機で飛び回るという少年がわくわくしそうな設定です。テンポよく、女性は美しく男性は粋、といつもの小川さん節だな。チームを組んでラスボスに対抗する、というRPGのような展開と思ったら、やはりゲーム感覚を意識して書かれたようでした。

 個人的な好みとしては、リオがあっというまに腕を上げてしまうので物足りないかな。どうしても腕も美貌もあるジェンカとつり合いが取れないように見えてしまうので。
 むしろ、ジェンカと元・パートナーのレッソーラ、女性二人の痛快アクションを読みたくなってしまいました。

 あと、SF世界とレトロな複葉機という設定は面白いです。前にも蒸気機関車の登場する作品がありましたよね。こういうバランスは好みです。

(2022.1.10)

 

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