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「おい、こんなところでふらふら遊んでるのは、どこのどいつだ!」
雷のような怒声が店に響き、黒革の前掛けをした男が飛びこんできた。
「親方!」
「おやじさん!」
そう叫んだ顔を認めるや、親方の顔は真っ赤になった。
「マノート、てめえは夜番だろう。お前もだ、ゴール」
わあっと声を上げて、二人の職人は店から転がりでていった。
「タルド、さっさとうちに帰れ。女房がおれのところへ泣きついてきたぞ。お前は給金をぜんぶ飲んじまう気か? それより飯屋の支払いをとっととすませろ」
親方は卓の間をのし歩いて、自分のところの職人と見るや首ねっこをつかんで店から放り出した。その勢いといったら雨風嵐かあふれた河か、というところだ。
まわりで飲んでいた商人たちもあわてて払いをすませ、店から飛び出していった。うっかり人まちがいされて、叩き出されてはかなわないと思ったのだ。
店はあっというまに空になり、あとには親方と店のあるじが残された。
「……なあ、親方。ちょいとやりすぎじゃねえか」
あるじは呆れて肩をすくめた。「きれいさっぱり、客を追い出しちまって」
「そうか」
親方はぐるりと見回して、情けない顔になった。
「こりゃあ、すまねえな。だが、工房に女房連中がおしかけてくるんで参っちまった」
そういって、がっくりと腰を下ろした。あるじもため息をついた。
うちの人が帰ってこない、給金を飲み干してるんじゃないのかい。
そんな黄色い声を思い浮かべて、こちらもどっと疲れをおぼえたのだ。
「まあ、みんなが帰らなかったのは、おれのせいかもしれないからな。お互いさまだ」
そういって、あるじは雫酒の杯をついと親方の前にすべらせた。
それをぐいと飲み干すと、親方は目を丸くした。
「こりゃあ、結構な味だ」
「そうだろう」
あるじは頬をゆるめた。
「こいつに免じて、今夜は勘弁してくれや」
外はもう真夜中すぎ。
町では祝祭の朝が明けるのを待つ灯火だけが、またたいていた。 |
The End and Merry Christmas ! |
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