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Salty Gingerbread Man
 
 ファニーはクッキーをつくるのが大好きです。
 もみの木、星形、小鳥さん――どんなかたちだってつくれます。ケーキもタルトもターキーもママにはかなわないけれど、
「クッキーを焼くのは、ファニー。あなたの方が腕がいいわ」
 ママはそう言ってくれました。だから、12月は大忙し。タネをこねて、のばして、型を抜いて。ファニーは山のようにクッキーをつくるのです。
 ところが、クリスマスの前日。そのオーブンの中から

   ぷすん ぷす  ぷす

 おかしな音がしました。
 大変、うっかり飾り紙を入れてしまったのかしら――ファニーがあわてて扉を開けると、中からぽーんとジンジャーマンが飛び出してきました。
「あち、あちち! 何しやがる。こんがり焦げ目がついちまう!」
 ファニーはびっくりして叫びました。
「ジンジャーマンがしゃべった!」
「あたりまえだ。いったい、何度で焼いてるんだ。んん? 250℃だ?」
 と、ジンジャーマンは太い腕で――だって、指はありませんから――目盛りを指しました。
「これじゃ、外はくろこげ、中はふにゃふにゃになっちまう」
「ごめんなさい。目盛りをひとつまちがえちゃった」
「見てくれ、この肌の色を」
 差しだした腕はチョコレート色。
「なのに、中は生っ白いんだぜ」
 そう言うと、ジンジャーマンはぽろぽろと涙をこぼしました。
「この世にこんな情けないことはねえ。ミディアムレアと呼ばれて馬鹿にされ、これからどうやって生きていったらいいんだ?」
「まあ、まあ。泣かないで。しっけてしまうわよ」
 ファニーはあわてて慰めましたが、あんまり効きめはありませんでした。だって、『しっける』なんて、クッキーには聞くのも悲しい言葉なのですから。

 おこげのクッキーの身の上話は、仲間の涙をさそいました。
 先に焼きあがって体を冷ましていたきつね色のきつねや子猫たちは、この話におもわず目をぬぐいました。スティッククッキーは悲しみに身をよじりすぎて、ねじりんぼうになってしまいました。
「こんなことじゃいけないわ」
 ファニーは考えました。
 クッキーが涙を流しているなんて、見るのも哀しいことです。そして、自分で焼いたクッキーでしたが、食べるつもりなどすっかり無くなってしまいました。
「みんな、泣かないで。いいことを考えたわ」
 クッキーたちはすすり上げるのをやめて、ファニーを見上げました――もっとも、ほっぺたには塩のアイシングがついていましたが。
「お日さまにあたればいいのよ。あったかい光をあびて、体の芯から暖まりましょうよ」
 でも、ジンジャーマンはまだうかない顔つきでした。「そんなことを言っても、このお天気でどうしろっていうんだ?」
 見れば、窓のそとは一面の銀世界。お日さまは灰色の雲の上に隠れたきりです。でも、
「大丈夫よ」
 ファニーはきっぱり言いました。「まかせといて」

 そして、クリスマス・イヴの真夜中。
 煙突からそろそろと下りてきたのはサンタクロースのおじいさんでした。
 いつものように、枕もとの靴下に手をのばして――ところが、その中に何か入っているのに気づいて、サンタクロースはびっくりしました。それは、ファニーが心をこめて書いた手紙でした。
*       *       *
 親愛なるサンタクロースさま

 びっくりさせてごめんなさい。
 でも、靴下の中にいれておけば、ぜったいに読んでくれるとおもったの。
 いつも、来てくれてありがとう。でも、今年はプレゼントはいりません。そのかわりにお願いごとをさせて下さい。

 この靴下の中に、箱を入れてあります。
 これをトナカイのそりに載せて、あなたと一緒に南半球まで連れて行ってもらえませんか?
 中に入っているのは、ジンジャーマンとそのおともだちです。今は少ししっけていますが、真夏の太陽を浴びれは、きっとさっくりすると思います。
 一生のお願いです。彼らをリゾートビーチへ連れていってあげて下さい。
 どうぞ、よろしくおねがいします。

 ファニーより
*       *       *

 朝早く、小鳥の声にファニーは目を覚ましました。
 薄目をあけてベッドの柱の靴下を見上げ、思わず叫んで飛び起きました。
「空っぽだ! やったー!」
 嬉しくて踊りまわると、ママは不思議そうな顔をしました。空っぽ、ぺたんこの靴下を見るとファニーは嬉しい気持ちになりました。
「今頃、みんなビーチに着いて甲羅干ししてるかしら? ジンジャーマンはサングラスを買ったかしら?」
 南のビーチで乾きすぎてぽろぽろにならないように、バターオイルを塗るように言わなくちゃ。ファニーは神さまへお祈りしました。

 どうか、彼らが元気で真夏のクリスマスを過ごしていますように。
The End


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