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児童書 3

  

「青い鳥」 岩波少年文庫
モーリス・メーテルリンク 著   末松氷海子 訳

   青い鳥 (岩波少年文庫)


原題「L'Oiseau Bleu 」。貧しいきこりの子どもチルチルとミチルは「幸福」の象徴である「青い鳥」を求めて冒険の旅へ。「思い出の国」では祖父母と再会し、「未来の国」では、これから生まれてくる子供たちと出会います。

 幸せはどこにある、という問いであまりに有名なお話ですが、きちんと読んだことがなかったので手に取りました。
 戯曲として書かれ、青い鳥、ダイヤモンドのついた帽子、旅を導く光の精、と象徴的なモチーフがいっぱい。これは、本より舞台で見たいなと思いました。

 一緒に旅立つお仲間たちも面白い。生真面目な犬に、ひっそり歩きまわる猫、甘ったるくて愛嬌のある砂糖菓子にパン。個人的にはパンがツボでした。
 彼らが訪れるのは、死んでしまった人が住む思い出の国や、これから生まれる子どもたちが暮らす未来の国。生きている人が思い出しさえすれば、亡くなった人とはいつでも会えるとか、子どもはその意思に関係なく定められた時に定められた運命を負って生まれてくる、と明快なメッセージがちりばめられています。
 このあたり、好みが分かれそうな気もします。私はどちらかといえば苦手かな。ちょっとお説教くさい。

 青い鳥ときいて、たいていの方が思い浮かべそうな無邪気な童話ではないな、というのが一読後の感想。一見明るいのに、救いようのない重さを感じるところがいくつかありました。ところどころですけどね。
(2013.4.15)


本の小べや1
「ムギと王さま」
岩波少年文庫
エリナー・ファージョン 著   石井桃子 訳

   ムギと王さま―本の小べや〈1〉 (岩波少年文庫)


原題「The Little Bookroom」。著者が幼い日々、古い小部屋で読みふけった本の思い出から紡ぎ出された、現代のおとぎ話14篇。

 子供の頃に見た覚えのあるタイトルですが、知人にすすめられて初めて読みました。軽やかなユーモアとちょっとした皮肉が利いた文章はけっこう好みでした。

 実のところ、あまりに控え目なので読んだことを忘れてしまいそう。花に譬えれば、ひまわりやチューリップなどではなく、野草のスミレのような線が細い雰囲気。
 でも、のちのちまで胸に何かが残って、いったいどこから貰ったものだか思い出せないけど、ほっこりする――そんな風に読む人の中に根を下ろしそうな童話でした。

 好きだったのは「レモン色の子犬」。木こりのジョーの素朴な恋心がいじらしい。そして、「名のない花」。これほどひっそりと美しいお話は読んだことがない。
(2013.5.26)


本の小べや2
「天国を出ていく」
岩波少年文庫
エリナー・ファージョン 著   石井桃子 訳

   天国を出ていく―本の小べや〈2〉 (岩波少年文庫)


原題「The Little Bookroom」。「現代のアンデルセン」とも称されたファージョンの自選短編集「本の小べや」より、「コネマラのロバ」「十円ぶん」「サン・フェアリー・アン」「しんせつな地主さん」「パニュキス」など13編を収録。

<ねんねこはおどる>
 グリゼルダとひいばあちゃんのお話。二人があめを舐め、ベッドに入ってお話をする会話はユーモラスであたたかい。30や40離れた人より、100才も離れたばあちゃんの方が気持ちがぴったり合う――なるほど、そうかもしれないなあ、と思いました。

サン・フェアリー・アン
 第一次大戦の最中、ちょっとした偶然からフランスの少女の手を離れ、イギリスに渡ったお人形サン・フェアリー・アンをめぐるお話。
 サン・フェアリー・アンとはイギリス軍の兵士の間で使われた俗語で、フランス語「Ca ne fait rien」(それだけのこと!)がもとになったらしい。戦争も軍隊も、小さな女の子には何の関係もないこと。それが時代を越えて、二人の「女の子」を出会わせるという不思議なお話でした。

パニュキス
 ギリシャのパニュキスという少女と、そのいとこの少年キュモンの幼い恋の物語。
 陽光そのものの明るく幸せなこどもを描いた前半と、キュモンの恋心がしだいに不安と苦しみに変わっていく様子が描かれた後半の対比がせつなくて、美しいです。
訳者のあとがきによれば、この掌編を作品集に収めて欲しい、という読者の声が多かったそうです。

(2013.6.20)


「アンデルセン童話全集 T」 西村書店
ドゥシャン・カーライ、カミラ・シュタンツロヴァー 絵 
天沼春樹 訳

  アンデルセン童話全集T


アンデルセンの童話156編を挿絵つきで網羅した全三巻の全集。

 記事が長くなるので、各お話の題は下に。
 アンデルセンの童話156編すべてを収録、という大企画。その一巻です。すべてのページに幻想的な色合いの挿絵があふれて、アンデルセン好き、童話好きの方なら宝物になること間違いなし。私がこれまで読んだ中で二番目に美しい本でした(あ、一番の感想を上げていないことに気づいた)

 「人魚姫」や「赤い靴」といった誰でも知っているお話だけでなく、初めて聞く掌編に出会えるのが嬉しいです。アンデルセンは暗くて悲しい。通奏低音などというよりもはっきりと、物語の基調が物悲しいお話が多いと思います。でも、それと同時に暗さに魅せられる、物悲しいゆえの美しさも強く感じます。

 今回、はじめて出会って好きになったお話は……。

 町にぽつんと一軒、時代に取り残されたように古びた家がある。そこに一人で住むおじいさんと近所の男の子のおしゃべりが心あたたまる「古い家」。

 そして、ストーブ娘に恋をした雪だるまのお話「スノーマン」。生まれも育ちも性質もすべて違う、話したことすらない娘に恋をするなんてことがある。自分ではあずかり知らない何かに翻弄されている姿が切ないのでした。

 この本、絵本ではあるのですが、残念ながら広く子供向きとは言い難い。
 カラーの紙質が良くおそろしく重いので、大人でも読むのがちと億劫に(汗)。ついでに、お話が暗い(時に救いようもなく暗い)ので、まず親御さんが読んで、子供に受け止める素地があるか、よく考えた方がいいかも。
 でも、これほど意味深くて愛情にあふれた童話を読めた子は、きっと幸せになるんじゃないかと思います。

  古い街灯
  かがり針
  水のしずく
  悪い王さま
  パンをふんだ娘
  小クラウスと大クラウス
  不作法なアモール
  親指姫
  人魚姫
  ヒナギク
  皇帝の新しい服
  がまんづよいスズの兵隊
  野の白鳥
  空とぶトランク
  ホメロスの墓の一輪のバラ
  コウノトリ
  眠りの精オーレ・ルーケ
  バラの花の精
  ブタ飼いの王子
  ナイチンゲール
  恋人たち
  赤い靴
  高とび選手
  デンマーク人ホルガー
  養老院の窓から
  亜麻
  ツックぼうや
  古い家
  年の話
  ほんとうに、ほんとうの話
  金の宝
  幸福のブーツ
  まぬけのハンス
  走りくらべ
  ビンの首
  ソーセージの串のスープ
  年とったカシの木の最後の夢
  フェニックス
  風がヴァルデマー・ドウとその娘たちのことを語る
  子どものおしゃべり
  人形使い
  郵便馬車で来た12人
  フンコロガシ
  父ちゃんのすることはすべてよし
  スノーマン
  アヒル園にて
  嵐が看板を移す
  ティーポット
  マツユキソウ
  天国の葉
  羽ペンとインクつぼ
  無言の本
  砂丘の物語

(2013.4.25)


「アンデルセン童話全集 U」 西村書店
ドゥシャン・カーライ、カミラ・シュタンツロヴァー 絵 
天沼春樹 訳

   アンデルセン童話全集U


アンデルセンの童話156編を挿絵つきで網羅した全三巻の全集。

 一巻とくらべて、馴染みのあるお話がぐっと減りました。知ってるのは「マッチ売りの少女」「雪の女王」くらいか。
 好きだったのは、「スキリング銀貨」。旅人の財布に入って遠い外国へ行くも、そこでは、何の価値もありません。お腹を空かせた子どもを慰めることもできません。せいぜい、身に穴をあけて幸運のコインとして首飾りになる程度のこと。
 ですが、とうとう同郷の旅人の手に渡って価値を認められた――こんなお話。

 三巻はいよいよマイナーなお話ばかりになりそうです。無事に全巻出版されますように。

  火打ち箱
  小さなイーダちゃんの花
  楽園の庭
  ソバ(黒い麦)
  天使
  モミの木
  砦の土手からのながめ
  雪の女王
  妖精の丘
  マッチ売りの少女
  おとなりさん
  幸福な一族
  カラー(襟)
  最後の審判の日に
  この世で一番美しいバラ
  深い悲しみ
  食料品屋のこびと
  何世紀か未来には
  ヤナギの木の下で
  1つのサヤからとびだした5つのエンドウマメ
  最後の真珠
  二人のムスメさん
  海の果てでも
  イブと小さなクリスティーネ
  ユダヤ人の娘
  ひとかどの人
  塔の番人のオーレ
  ABCの本
  どろ沼の王さまの娘
  鐘の淵
  アンネ・リスベト
  美しい!
  チョウ
  プシケ
  カタツムリとバラの木
  鬼火が町にいる、と沼おばさんが言った
  風車
  スキリング銀貨
  パイターとペーターとペーア
  門番の子
  お日さまの話
  ぼろきれ
  ヒキガエル
  ニワトリばあさんグレーテの家族
  とほうもないこと
  幸運は一本の木ぎれの中に7つの曜日たち
  ロウソク
  大きなウミヘビ
  貯金箱
  玄関のカギ
  歯いたおばさん
  小さな緑のものたち
  ベーン島とグレーン島

(2013.5.8)


「幸福の王子」 バジリコ
オスカー・ワイルド 著 
曽野綾子 訳     建石修志 絵

   幸福の王子


原題「The Happy Prince」。「ぼくの目にはまったサファイアをあの貧しい青年にあげておくれ。」自分を犠牲にして人々につくす王子の優しさと、その心にうたれたつばめの友情を描いた童話。

 子供の頃に絵本を読んで、あらすじは漠然と覚えていましたが、きちんと読むと、何気ない言葉の中にもさまざまな意味が込められているように思えて、それは味わい深い読書になりました。あとがきによれば、ワイルドはこの作品を息子に読み聞かせた時、「このお話は子供のためじゃないんだ。子供のような心を持った18才から80才の人たちのためなんだ」と語っていたそう。たしかに。

 自分の持つ宝石と金を貧しい人に与える王子の像。もちろん、無私の愛や奉仕を表しているのだけれど、今回読み返してみて、はっとさせられた言葉がありました。

「私は立派な金箔でおおわれている。これをはがして、貧しい人たちにやってくれないか。生きている人たちは、いつでも黄金があれば幸せになれると思っているんだ」

 なれると思っているんだ――そうか、王子はそう思っていないんですね。
 そういえば、サファイアを届けてもらったマッチ売りの少女は「なんて、きれいなガラス玉でしょう」と言って、喜んで帰っていく。もちろん、パンを買えなきゃ生きていけないので金箔も大事だけれど、それだけで幸せになるわけじゃない。そして、王子は自分が与えられるのが、金と宝石「しか」ないことを悲しんでいたのかもしれない。

 曽野綾子さんによるあとがき(解説)も意味深いものでした。
 この物語のそこにある「compassion(思いやり)」の原義が con + passion(ともに+苦痛)であり、苦しみを共有するという大変な重みをもった言葉であると説明されていました。確かに、日本語の「同情」から感じる、ただ「気の毒がる」程度のことではないのですね。
 物語のおわりに幸福の王子とツバメがどうなったか。そこにも深い意味が込められていたのだ、と気づかされたのでした。
(2013.4.8)


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