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自然科学・技術 1

「子は親を救うために「心の病」になる」 筑摩書房
高橋和巳 著 

   子は親を救うために「心の病」になる (ちくま文庫)


著者は「引きこもり」や「拒食症」で悩む多くの子どもたちに向き合い、心の声に耳を傾けてきた。どの子も親が大好きで、「自分が役に立っているだろうか」「必要とされているだろうか」と考えている。しかし思春期になり、親から逃れようとする心と、従おうとする心の葛藤に悩み「心の病」になってしまう。真の解決は、親が子を救い出すのではなく、子に親が救われるのだと分かった時に訪れる。

 分類は『医学』などにするべきなんだろうけど、私が医薬本を再び読むとは思えないのでここに入れておきます。写真は文庫版にリンクします。
 昔、家族関係で悩んだという友人が評価していたので、読んでみました。心理学とかセラピーにはまったく知識がないですが、明快な説明でわかりやすかったです。

 親子関係が心理におよぼす影響を症例を挙げて説明されています。
 親自身の生きづらさや親子関係(つまり、子どもから見れば親と祖父母)の不安定さが子に映し出されること、親子のすれ違いのように話すことでかなり軽減される症例もあれば、虐待行為など第三者の助けが必要な例もあり、感想も一概には言えないのですが。
 この本は、タイトルそのままに『子は親を映す』という点を受けとめるのがいいように思いました。当然といえば当然ですが、教育関係の話題では何故か「親がちゃんとしてさえすれば……」といった精神論に走りがちな意見をよく聞くので、こういう風に淡々と捉えることができたら、子どもも親ももっと穏やかになれるのではないかな、と。

 また、心理学などに馴染みがなくても読みやすいのは、症例の紹介だけではなく、人の成長を時期別に捉えて説明を加えてあるせいかもしれません。
 人の誕生から思春期を経て成人するまでの従来の成長区分(乳幼児期、学童期、思春期、成人期)に加え、さらに大きな精神的な変化を体験する「宇宙期」を考えだした点が面白いです。
 これは、それまでの4段階がいかに社会に順応するかという点から説明されるのに対して、そこから離れた視点を取り戻す時期ということかな、と私は考えたのですが。確かに、思春期までの細かい区分と比べて、大人の精神状態を表すのが成人期しか無いと、そこにはまらない人は全部「普通じゃない」ことになってしまいますから。
「宇宙期」は、必ずしもすべての人が経験するものではなく、成人期を経て達するとも限らない。そして、年をとっても人間の精神はさらに変化する、ということが言葉で表現される意味は大きいと思うのです。

 この本で書かれているのはほとんどが薬物による治療を必要としなかった症例の方ばかりで、だから誰にとっても読む価値があるとは限らない(というか、本を読むより医療機関で診療を受けるのが先、と思う)。でも、読むだけでも十分な人もいるのかもしれない。
 人間の体とか心って、ものすごく脆かったり、強かったり、変化したり、不変だったりする――その不思議さを考える、いいきっかけになりました。
(2016.4.18)


「文化としての石器づくり」 学生社
大沼 勝彦 著 

   文化としての石器づくり


石器に使われる石の種類、加工技術の分類、石器の種類、実際に作成するにあたっての手順や留意点が書かれている。世界各地の石器文化の紹介もあり。

 著者は先史考古学が専門だそうです。研究しながら自分でも石器を作ってしまうのだなあ、素材にこだわる料理人が畑仕事もするような感じだろうか(?)。プロの追求はすごい、と感動です。確かに自分で作ると、どこが難しくて、どんな道具がよいか、よくわかりそうです。また、自分で石器を作って身についた感覚は、発掘品の見方にも影響するのでしょうね。
 さて、石器。その美しさに惹かれて復元製作をはじめた、ということで、その熱意が熱く伝わってきます。「安全な服装」「後片付け」(発掘品と間違われるといけないので)の項には楽しくなってしまいました。
 印象的だったのは、偽石器(自然の力によって割れて、石器のような形になったもの)と、人の手でつくられた石器を見分けるための条件。

1.割れ面それぞれが同程度の風化を示し、同じ年代であること。
2.元来、そこにない岩石であること。
3.その石屑が限られた地点にだけ分布していること。
4.人間活動の痕跡にともなって発見されること。
5.割れ方に技術と形式の一貫性があり、そこに人間の意図を読み取ることができる。

 人間が作ったものには独特の痕跡がある。偶然以上の意思を感じさせるものが自然の中で見つかる。その時には、きっとどきどきするだろうなあ、と思いました。

 おまけですが。以前に先史時代のファンタジー(読書記録内のこちら)を読んでいたので、加工や仕上げの技術の章は馴染みの言葉が多くて楽しかったです。
(2006.5.13)

「21世紀の水とコメ」 北星堂
綿抜邦彦 都留信也 秋吉祐子 増子隆子 著

   
21世紀の水とコメ―地球における水の循環と循環型食糧「コメ」 (マクロエンジニアリング叢書)


20世紀は石油に代表されるエネルギー資源の時代だった。21世紀は環境の時代といわれ、循環型社会が提案されている。循環型資源の代表・水と、循環型食糧といわれるコメについて考える。

第一章 21世紀は水の世紀  ― 綿抜邦彦 
第二章 21世紀のコメ ― 都留信也
第三章 水田稲作共生システム ― 都留信也
第四章 循環型社会の稲作システムの模索 ― 秋吉祐子 増子隆子


 最近見た映画やら読んだ本に影響されて、ひきつづき水と農業の本を読んでおります。いくら活字中毒の私でも、まさか合鴨農法の本を読む機会があろうとは思わなかったけど。

 一章は、循環することで地球環境を保ってきた水と人間の関わり方、特に食糧生産と水資源の利用方法について。
 二章以降は、三大穀物のひとつで、21世紀の食糧問題に大きな役割を果たすと考えられているコメの未来について。四章では農業の素人が新潟県で無農薬によるコメ栽培に取り組んだ「せたがや倶楽部」の試みが紹介されています。

 水についての一章、伝統農法についての三章が特に面白かった。
 有史以来、地球上の水の量は変化していない。水蒸気になり、雲、雨となるという循環の中で、土をはじめとした物質を移動させ、熱を分配し、大気を浄化している。もちろん、そこには微生物の化学的な働きとか気流とか他の要素も関わってくるけれど、やはり水無くして今の自然はないのですね。

この水の利用方法を誤れば、生態系も、もちろん人間の活動も取り返しのつかないダメージを蒙る。水不足と食糧難の予想される地域がほぼ一致している(アフリカと南アジア)という言葉にはぞっとさせられました。

 また、人口増によって食糧難が予想される21世紀の展望。
 食糧を増産するには、まず耕地面積を広げることが考えられる。20世紀半ばまでは、この方法がとられてきた。しかし、耕地拡大はしだいに困難になってきている。森林伐採、灌漑しすぎ、放牧しすぎによって砂漠化が進み、アフリカやアジアでは特に深刻化している。
 20世紀後半以降は、面積増だけではなく、面積あたりの収穫高を上げて増産しようとしてきた。例えば、農薬や化学肥料の使用、品種改良・多収穫種への集約農業。しかし、これらも問題が多い。

 これひとつで万事解決、などという方法はないのだなあ、としみじみ感じました。なかなかに痛烈なひとことで締めくくられています。

 地球はどれだけの人口を養えるかと問う前に、21世紀の地球人口はどのくらいの食糧で満足するのかを考慮する必要があろう。

 二章では、地球規模の食糧難を危惧しつつ、コメの品種改良の方向性が語られています。

 三章は水田の話。日本、ベトナム、中国などで見直されつつある水田共生システムについて。
 水田で稲を作りつつ、アヒルや鴨を放したり、魚やエビを育てるというやり方の利点は、完全無農薬、稲以外の副収入をもたらすこと。魚や家禽が水中で動くことで土(泥)をまぜて水田に酸素が入り、もちろん糞も肥料になるのだそうです。映画「セヴァンの〜」でも出てきました。

 こういった環境調和型の農法の長所を語るとともに、現在の日本の農業の問題点にちらりと触れた箇所もありました。
 たとえば、輸入米を入れつつ、コメの自給をどのように保てるのか。また、明治以来、日本各地でさまざまなコメの品種改良が行われ、土地土地に合った品種が作付けされたそうです。北海道でコメがとれるとは知りませんでした。
 多品種があると、料理によってコメを選んだり、年によって変わるコメの味質を一定にするために混ぜることができるという利点がある。数年前に消費者に問題視されて、悪いイメージがついた「ブレンド米」は、はたして本当に問題なのか――こんな問いかけには消費者として考えさせられました。
(2011.8.2)


「不都合な真実 〜 ECO入門編」 ランダムハウス講談社
アル・ゴア 著  枝廣淳子 訳

   不都合な真実 ECO入門編 地球温暖化の危機


原題「An Inconvenient Truth」。人間の文明はいまや環境を深刻に傷つけるほどの力を持っている――温暖化の影響は急速に地球を蝕みつつある。氷河、森林、海洋では何が起きているのか。写真と図解によって、地球温暖化の全容をわかりやすく解説する。

第1章 変わりゆく地球
第2章 無言の警告
第3章 冷たい確かな証拠
第4章 ハリケーン警戒 
第5章 極端な大雨、極端な少雨 
第6章 地球の果て:北極 
第7章 地球の果て:南極 
第8章 新しい地図?
第9章 深刻な問題
第10章 健康への害
第11章 崩れるバランス
第12章 衝突コース 
第13章 技術の副作用 
第14章 「真実を否定してはならない」
第15章 危機=チャンス


 環境問題の全体感をつかめる本を探していて、手にとりました。
 アル・ゴア著「An Inconvenient Truth(不都合な真実)」に説明を加え、よりわかりやすく、読みやすく編集された本です。簡易版というところでしょうか。
 元の「不都合な真実」の科学的信憑性を疑問視する意見もあるので、内容をまるまま鵜呑みにするのは危険かもしれませんが、環境問題への視点の持ち方とかアクションの起こし方へのヒントなど、いろいろ学べる本だと思います。

 この本と元本(というのかな)の密林のレビューを見ると、賛否がはっきりわかれていて面白いですねー。ECO入門編はその主旨をとても評価されていますが、元本の方はかなりこきおろされてます(^^;)。
 たぶん、環境問題って事があまりに大きくて複雑だから、専門的に追及していくと矛盾したデータが出てくるとか、データの解釈の仕方がいろいろあるのでしょうね。
 学術的な裏づけを取ってから行動しても間に合わない類の問題だと思うので、他者の意見を尊重できさえすれば、いろんな主張があってかまわないだろうと私は考えているのですが。

 興味をひかれたのは。

 二酸化炭素の排出量が年を追ってうなぎのぼりになっていくグラフの説明。
 細かい規則的なジグザグで上下しながら右肩上がりしているのですが、上下するのは、植物の多い北半球が夏の時期は二酸化炭素が減り、南半球が夏の時期には増えるからだそうです。まさに地球が呼吸しているみたいですね。

 氷河や南極の氷棚の減少の様子を写真で見せられると、これも唸ってしまいます。
 20世紀初頭と後半の、同じ氷河の場所を撮影しているのですが、氷がすっかり無く、土だけになってしまっていました。また、氷河や氷山が融けて、下に流れ落ちながら氷をスカスカにして融解を進めてしまうという説明も興味深かったです。

 ただし、よく「地球温暖化の危機」を伝える映像として、南極の氷がごぼっと塊で割れて海に落ちているところが使われますが。「暖かくなって、氷が割れて、海面が上昇」という筋書きは、あれは安直なのだそうですね。
 前に聞いた学者さんの講演によれば、氷河などはいつでも融けて流れたり、崩れて海に落ちたりしているもので、決して永久にとどまっているものではないらしい。
 問題だとすれば、そのスピードと量や、循環して再び氷となっているかどうかという、地球全体の複雑なシステムの中でどう変化しているか、ということなのだそうです。

 いろいろ気になる点もありました。
 ハイチとドミニカ共和国の政策の違いが国土にどう影響をしたのか、ぽんと結果だけ見せたり。いきなり風力や地熱発電の紹介するなど、バランスが偏っている気もします。
 でも、普段の生活でできる具体的な工夫を挙げたり、反論に対する反論の持ち方、消費者心理の落とし穴、政界と経済界の癒着を批判する実例が示されていて、とても勉強になりました。
(2011.8.12)


ビジュアルディクショナリー
 船と航海」
同朋舎出版
伴戸 昇空 訳

 船と航海 (ビジュアルディクショナリー)


紀元前にエジプトで作られた木製小船から現代の原子力潜水艦まで、古今東西の船と航海用具、航海用語を写真と英・日本語の対訳つきで紹介する。

 コンパスや六分儀の鮮明な写真、船は外観全体の模型(まあ、本物というわけにはいかないですよね)、骨組みだけの模型を撮影したものが載せられていて、ぱらぱらめくって眺めるのが楽しいです。
 単に名称だけを載せるのではなく、作られ方、使われ方を頭に描けるように物が選別されているのがわかります(木造帆船ならばどんな木から木材を切り出したか、帆をつくるために使われた道具について。手信号の動作の説明もあり)。

 見た目は図鑑ですが、ディクショナリーというだけに英語と日本語の索引も完備してます。ただ、英単語から探すと掲載ページしか出ていないので、小さいものは探すのに苦労しました(汗)。


(追記)
 ただし、題名通り「船と航海」について幅広く扱うことが主眼のようで、各項目はあっさりとまとめられています。「この時代の」「この地域の」船全般について調べる、ということはできません(私が見るのは主に18・19cの木造帆船についてですが、この場合扱われているのは戦列艦(74門)だけです)。
 船舶好きにとっては、もちろん楽しいけれど、どこか物足りないでしょうね。
(2007.1.12)

「戦士の休日
 ―1970年代における資源開発第一線の世界―
三省堂
葉山倫明 著 

 戦士の休日―1970年代における資源開発第一線の世界


著者は1970〜90年代に日本の総合商社に勤務し、鉱物資源の探査、開発に関わった。1970年代に中近東各地の鉱山を探査した実体験談、各地の自然環境や歴史、鉱山開発と環境問題などについて語られている。

 鉱物関連の本は原始的な技術のものを選んで読んでいたので、現代の資源についてはさっぱり知りませんでした。鉱脈の探査や採掘など技術的なことについてはざっくりまとめられており、旅行記や体験談に近い内容なので楽しく読めました。

 著者が携わっていたのは鉱山開発の中でも準備・調査段階の仕事。鉱石の質や採掘可能な環境かどうかというのももちろんですが、治安や投資の回収に関わる現地の政治情勢まで調査を行うそうです。
 問題は「投資をして、それを回収できるだけの鉱物資源を得られるか?」という一点につきるわけで、そのために幅広い仕事をこなした体験談はとても面白かったです。こういう話は大好きです。
 目的以外の鉱物や品質の悪い鉱石は採算がとれない、ということで捨ててしまうそうです(ズリ、廃石と呼ぶ)。この徹底した採算重視は古代ペルシャの時代の鉱山跡からも窺われるというエピソードも興味深かった。しかし、コストに関して述べられた言葉にはどきっとしました。

「鉱石の値段はすべて人件費の塊と言えるかもしれない。鉱山が人件費の安い国に多い理由のひとつであろう。鉱石かズリ(岩石)かの違いは、掘り出すコストが売値より高いか低いかで決まるからだ」

 資源確保というのは国の長期的な経済計画と直結しているもので、それと現地の実情との狭間に立つというのは大変な仕事ですね。それにも関わらず(というか、だからこそなのかもしれませんが)、資源開発に付随してくる環境問題についても語られています。
 鉱物を取り出す過程で発生する廃液や廃棄物、ズリの処分方法についての問題提起。また、精製のために使われる水資源についても触れられています。水の貴重な中近東(北アフリカを含む)で、工業用水と農業用水(それも食料生産と商品作物の栽培の違いがある)を同列に考えられるのか。
 日本が輸入してきた多くの鉱物資源、その後ろで海外の環境が破壊されてきたということ。自然資源について考えれば、ズリからの再採鉱の可能性、商品のリサイクルも視野に入れるべきであり、それに伴うコストを企業も消費者もおわなければならないのではないか、と著者は指摘しています。
「資源確保は国益の観点から、環境問題は地球益の観点で考えて対策をたてなければならない」という言葉には頷かされました。
(2006.8.10)

「地球鉱物資源入門」 東京大学出版会
飯山敏道 著 

 地球鉱物資源入門


(資料としてつまみ読みしただけなので、内容の紹介は省略)
鉱石が生成される過程や自然条件などが説明されています。鉱物ごとに、どのような地質の場所に見つけられることが多いか、周囲の自然環境、世界の主な鉱脈地図が掲載されています。
(2004.4.15)

「鉄のはなし」 さ・え・ら書房
雀部 晶 著

 


鉄生産の歴史や現代の製鉄について、身近で使わている鉄製品から説明する。小学生向け。
(2005.7.3)

「金属の旅」 小峰書店
石野 亨 著

   金属の旅 (自然とともに)


児童書。人類と金属の出会い、加工技術の発展の歴史、金属の性質、金属が現代の生活の中にどのように使われているかを紹介する。

 ふりがなの振りかたから見ると、小学校高学年くらいを対象にした本だと思います。身近にある金属について、ずいぶん幅広く取り上げられています。
 虫歯の詰め物の金。ジュース缶をつくる鉄やアルミニウム。飛行機の機体に使用されるチタン合金。酸化反応を利用した使い捨てカイロを例にあげて、金属の化学的な性質にもふれられています。
 また、人類と金属の出会いの歴史として、古代の中東や中国の金属の加工技術の変遷を紹介しています。
 こういった話そのものも面白いのですが、金属の特性と関係している原子の説明、元素表を載せる、など子供が科学的な思考をのばせるように、という配慮がされている、いい本だと感じました。

 化学、科学、工学、歴史、美術……どれとも関わりのある面白い本になっています。これを読んで金偏好きの小学生が育つのかもなあ、と考えると楽しくなりました。

(2006.10.22)

「鉄の文明」 岩波書店
大橋周治 著

 鉄の文明 (岩波グラフィックス)


ヨーロッパと日本の製鉄技術。その発展を促した社会背景にもふれながら、それぞれの歴史を紹介する。

 製鉄方法や炉の進歩がわかりやすくまとめられていると思います。イギリス、スウェーデン、オーストリアなど著者が実際に足を運んだ古い製鉄炉(の遺跡)の写真が数多く掲載されています。私にとっては、ポーランドで撮影された復元操業のための低シャフト炉、オーストリアに残る初期の高炉の写真は垂涎ものでした。あと、「デ・レ・メタリカ」の挿絵が大きめに引用されていることも嬉しかった。
 製鉄の現場だけではなく、周囲の町並みや自然などの風景写真もおりまぜられています。技術を支えてきた人や歴史を感じることのできる本でした。

 ずいぶん前に一読したのですが、かなり忘れていたようです。今回、読み返してみてちょっとショックだったこと。「シュトゥック炉は現在のヨーロッパではもう見ることはできない」と書かれていまして……。シュトゥック炉というのは、古代の低シャフト炉から高炉へ移行する期間に使われていた炉のことなんですが、これの写真を見たいとずいぶん探していたんです。
 そうか、写真は見られないんですね、二度と(涙)。読んだ内容さえちゃんと覚えておけば〜、と悔しかったことでした。

(2007.9.20)

 

「貴金属の科学」 日刊工業新聞社
菅野照造 監修  貴金属と文化研究会 編著

   貴金属の科学 (おもしろサイエンス)


世界中で人々を魅了し続けてきた貴金属。金、銀、白金をとりあげて、その性質やさまざまな利用の方法、それをめぐる歴史上の逸話などを紹介する。

第一章 貴金属っていったい何だろう
第二章 金は永遠なのか?
第三章 銀の秘密
第四章 白金類の活躍
第五章 貴金属めっきとサビ


 貴金属雑学本、という感じ。面白かったです。卑金属・鉄の本はぼちぼち読んでいますが、これはまた別の世界の話。

 貴金属とは、「化学的な安定性が高く、イオンに解離しにくく、高価で、資源的に貴重なもの」。金銀が「きれいだから欲しい」のはすぐ理解しましたが(笑)、「希少価値がある」「財産保全の役を果たす」という話にもなってくると、さらにドラマティックで面白かったです。

 一番興味をひかれたのは、江戸時代の貨幣の種類。
 お祝いや褒賞に使われた大判と、一般に流通した小判。大判は現代の記念メダルのようなものなのですね。大判はあまり人の手に触れず流通もしないため、額面が刻印ではなく墨で書かれていたというのは驚きました。
 また、「一両小判」と「豆板銀」という貨幣の作り方の違いが面白かったです。
 一両は決まった量の金で作らなければならないため地金を叩き延ばして製造。一方の豆板銀は形も大きさもばらばらなもので、秤で重さを量りながら使ったそうです。
 三千円札、千五百円札のようなものでしょうか。重さを量りながら使う、とは今の買い物感覚とはずいぶん違う。

 他に興味をひかれたのは、中世以降のヨーロッパでは白金を利用する技術がなく、インカ帝国を侵略したスペイン人も持ち帰った白金の装飾品を再加工することができずに捨てていたという話。
 また、貴金属を含む医薬品があるというのは初耳。オスミウムの命名由来「加熱した時に匂い(osme)がする」には笑ってしまった。他に何も思い浮かばないほど、それはそれは臭かったんだろう! と思うと面白かったけれど。

 こうやって書いてみると、化学・科学的な事柄への感想がまったくありませんね(笑)。
(2008.4.20)

 

「気候の歴史」 藤原書店
E・L・R・ラデュリ 著 稲垣文雄 訳

   気候の歴史


これまで過去の気候の解明は自然科学者の仕事であり、歴史学者の関心は人間社会へ向けられてきた。本書は自然を対象とした歴史学である。人間に従属した歴史ではなく、気候それ自体の歴史を目指したものである。(訳者あとがきからの抜書き)

 思ったより科学寄りの内容だったので、ジャンルをこちらに書きました。
中世関連の芋づる読書の収穫ですが、難しくてまったく歯が立たなかったので、以下は拾い読みしたメモです(こんな事情なので、上の内容紹介も要点抜書きです)

 原題は『西暦1000年以降の気候の歴史(Histoire du climat depuis l'an mil)』。挙げられた事例は一部(北米)を除いてヨーロッパのもの。中世の気候を文献史料や科学データから探ります。

 民族の移動とか経済発展といった人間の歴史と気候の歴史は無関係ではない。しかし、安易に結びつけて推察することを、著者は戒めています。その上で、中世の気候を知る上で有効なデータを集め、それを読み取るのにふさわしい視点の持ち方について述べてあります。
 序論によると、著者がこの研究をはじめたきっかけは、中世の農地についての文書に気候についての記述が多く見られたことだったそうです。そして、更に科学的に信頼できるデータを得ようと、樹木の年輪、葡萄の収穫日、氷河の前進と後退について調べてあります。それが細かくて、細かくて(涙)。
 年輪といえば、もちろん広範囲に生えてる多種類の木が対象で、生えてる土地の気候によって年輪の示す情報も当然違うわけです。しかも、生えてる木だけが対象ではなく、古い木造民家の材木まで(!)輪切りにしてるらしい。
 葡萄についてはヨーロッパ各地の収穫日を記した(しかも、何世紀にもわたって残された)台帳を調べて、蕾から結実期(春〜夏)の気候傾向を読み取るのだそうです。
 そして、氷河の前進後退。地球上各地の氷河は似た傾向を示すため、広範囲の天候の長期傾向を見る恰好の材料らしい。この章には圧倒されました。何せ昔の気候が相手なので、氷河の形や位置を風景画や旅行者の手記、地図、写真から調べ上げるわけです。

大変だ……。

「これを全部読んだのかい、人間コンピューターだなあ」と、妙に感動。そこから昔の天気予報(「予」ではないのだけど)をする、という気の遠くなるような研究にも感動。歴史学者の視点で、(人間とは無関係の)自然の歴史を読み取ろうとするなんて、どこからそんなことを思いつくのでしょう。
 本来、そんな感動をするための本じゃないんですが、刺激的でした(これが私の手一杯ともいう)。
(2006.2.20)

「葉っぱの不思議な力」 山と渓谷社
鷲谷いづみ 文  埴沙萠 写真

   葉っぱの不思議な力 (Nature Discovery Books)


葉や幹、根が持つさまざまな機能を説明しながら、植物同士の生存競争の様子、したたかとも思える「生きるための工夫」を写真とともに紹介する。

 きれいな葉っぱの写真が見られたら満足、というつもりで手にとりましたが、植物がそなえている生きるための能力の数々に驚きました。こんなにいろんな力があるとは知りませんでした。

 陽光をたっぷり浴びられるように、一本の枝から少しずつ角度を変えて葉をつけること、成長の段階でかたちを変えること。生えている場所(日当たりや広さ、他の植物との競争の有無)によって成長の方法、方向が違うこと。競争相手の植物の存在を周囲の光の波長の違いで知る能力を持つこと。動物の成長(決まった数の器官を大きくしていく)と植物の成長(器官を増やす)の違い。水分を取り込んだり放出する能力。さらに、食べられないための工夫や虫との共生関係についても触れられています。

 上のような話ももちろん面白いのですが、写真も素晴らしいです。梢を撮影しているのに葉脈まで鮮明な写真、本文で説明されている植物の性質をとらえた写真がたくさんありました。
 特に素晴らしいと感じたのは、山形県の森の風景を撮った一枚。森を下から見上げているのですが、大木の梢と葉が空をおおう様子、木と木がせめぎあう形がはっきりわかります。また、その木々の根元で生きている小さい植物がどのくらい陽光を得られるのか、感じられました。
 葉っぱが好きで何枚も絵に描いてきましたが、自分の描いたかたちがどれだけ間違っていたか(汗)気づきました。いや、葉っぱって素敵です。また描きたくなりました。

 ちなみに、何枚かの写真には毛虫も乗っていましたので嫌いな方は要注意です(小さめの写真ですが)。心構えしていなかったので、思わず本を放りだしてしまいました。

 参考文献は大人向けと子供向けが挙げられています。親子でそろって理科の勉強ができる、面白い本でした。

 この本はNature Discovery Booksというシリーズの一冊ですが、他に「タネはどこからきたか?」「アンコウの顔はなぜデカい」というのがあって、こっちも気になりました。何故なんだろう??
(2007.7.13)

進化がわかる動物図鑑
「カンガルー・コアラ・カモノハシ」
ほるぷ出版

   進化がわかる動物図鑑 (カンガルー・コアラ・カモノハシ)


進化の道(というのでしょうか)の近い動物ごとに冊が分かれてます。写真が非常にきれいで、体の形がよくわかります。生態の説明に図版、特徴を説明するため骨格の写真を載せたり、と工夫されていて、大人にも楽しいです。
(2005.8.1)

進化がわかる動物図鑑
「ライオン・オオカミ・クマ・アザラシ」
ほるぷ出版

   進化がわかる動物図鑑 (ライオン・オオカミ・クマ・アザラシ)

(2005.8.1)

色や大きさでわかる
「野鳥観察図鑑」
成美堂出版

   色と大きさでわかる野鳥観察図鑑 CD付 (観察図鑑シリーズ)


野鳥の鳴き声のCDつき
(2004.8.13)

バードウォッチング大百科
「野鳥観察図鑑」
地球丸

   野鳥観察図鑑―バードウォッチング大百科 (アウトドアガイドシリーズ)


(2004.8.13)

動物大百科2
「海生哺乳類」
平凡社

   海生哺乳類 (動物大百科)

(2004.8.13)

「ジュゴン データブック」 TBSブリタニカ

   ジュゴンデータブック


ジュゴンの生態の紹介、ジュゴンにまつわる民話などをのせている。

絵本のような体裁が愛らしいです。「ジュゴンってトド?」というくらい知識のない私にはありがたい本でした。巻末の「ぱらぱらジュゴン」に拍手を差しあげたいです。
(2004.8.13)

「ペンギンガイドブック」 TBSブリタニカ
藤原幸一 著

   ペンギンガイドブック


18種類のペンギンの生息地、習性などを写真で紹介。ライフサイクルを図解したペンギンカレンダーあり。

 ペンギン好きには宝物みたいな本です。生息地を示した地図が南極中心の円形で描かれているのが嬉しい。生息圏を考えれば当然、一番効率のよい描き方なのですが、ペンギンが地図をつくれば(?)こうなるだろうなどと考えて楽しんでしまいました。
 それはさておき。写真も素晴らしいのですが、ペンギンの習性や南極海の生態系に触れたコラム、またペンギンの生息環境についての末章は読み応えがあります。南極圏に行くことなど、多分、一生無いだろうと思いますが、地球の裏側の生態系に対しても、北半球の人間は責任があるのだろうな、と考えさせられました。

 それにしても。「ペンギンづくし」として、ペンギンの貯金箱やら置物やら帽子(以下略)まで掲載してしまうなんて。著者のペンギン好き度合いが窺われます。
(2005.7.25)

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