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海洋小説    7

気弱な海尉ジェラルドの冒険1
「ドーバーの伏兵」
早川文庫
E・トーマス 著  高津幸枝 訳 

   ドーバーの伏兵 気弱な海尉ジェラルドの冒険 (ハヤカワ文庫NV)


イギリスが勝利をおさめたトラファルガー海戦で手柄をたてなかった者は数少ない。マーティン・ジェラルドはその一人だ。気弱で酒にも弱いジェラルドは、叔父の引き立てでオレステス号に任官の口を見つける。だが、艦に向かうはずが、ドーバーの留置所へ行くはめになる。身に覚えのない殺人容疑のために。

ちょっとひねった、皮肉な視線の一人称が面白いです。次々に起こる事件から、一歩身を引いていたいとでもいうような(でも、大概渦中にいるんですが)冷めた目線の文は癖になりそうです。
ただ、起こる事件は面白そうなのに、わくわくできないのが難点。主人公の性格が、やる気薄いというか、温度が低い感じ。それに「私」の目線でしか出来事を見られないので、手がかりが次々現れてもご都合主義に見えてしまうのですよ。何で一人称で書いたんだろう?
 あまりに海に出ないので海洋小説とも言えないし、ミステリーと呼ぶのも何となくしっくり来ません。でも文章はかなりお気に入りなので、次作を楽しみにしてます。

あと、感想ではないんですが。このシリーズ名は情けないですねえ。シリーズ名索引をやめようか、とまで本気で思いました。もっとも他の本のリンクを貼り変えると思うと気が遠くなってやめましたが。お願い、早川書房さん、気弱なファンを悩ませないで下さい。
(2005.5.19)

 

海の荒鷲ドリンクウォーター物語1
「月下の海戦」
二見書房
R・ウッドマン 著 高永洋子 訳 

  月下の海戦―海の荒鷲ドリンクウォーター物語 1 (サラ・ブックス―大航海文庫 (339))


ナサニエル・ドリンクウォーターは士官候補生としてキュークロープス号へ乗り組んでいる。艦隊に加わっての海戦、カロライナの湿地帯での上陸作戦といった任務によって経験を積み、同じ艦に生活する士官や水兵との交流の中でドリンクウォーターは成長していく。

 先任候補生によるいじめ、下層甲板の生活の厳しさを細かく描いています。艦尾と艦首のそれぞれの世界の理を、間の視点から(もちろん立場は士官寄りですが)見ている、そのとまどいや気張りが感じられました。どこか腰の落ち着かない読み心地がユニーク。
「軍艦生活の実態が隠すことなく書かれている」「タブーを真正面から描いた」など、この本の紹介は以前から見聞きしていたので、読み始めるまではやや緊張しました(^^;)。しかし、心構えしすぎたせいか、思ったほどには驚きませんでした。いえ、確かに相当に悲惨であり、俗悪なことも書かれているのですが、どこか文章が明るいのです。フォックスシリーズのようなドライさではなく、さらりと見えるわりに重たく胃に残るボライソーシリーズとも違う。ドリンクウォーターの抑制のきいた性格によるところも大きいのだろうな、と思います。いや、ナット、いい子だ〜。頭はよく動くのに、どこかぬけていて(笑)。諸先輩の期待に背かず、素直に成長するいい子でした。
(2005.11.7)

 

海の荒鷲ドリンクウォーター物語2
「ノアの叛乱」
二見書房
R・ウッドマン 著 高永洋子 訳 

  ノアの叛乱―海の荒鷲ドリンクウォーター物語 2 (サラ・ブックス―大航海文庫 (354))


大陸ではフランス革命が起こり、その影響はイギリスにまで及んでいた。ドリンクウォーターはケストラル号へ配属され、政府の諜報員を補佐する特別任務についていた。その後、ケストラル号は北海の艦隊へ配属される。オランダ海軍を出撃させまいと、その動向を見守る頃、イギリスの港では水兵による大規模な反乱が起きていた。

 短い話を重ねてドリンクウォーターの生活を描いた1巻と変わって、謎があり、それが明るみになっていく構成が面白い。一巻の十年後の話です。懐かしい人が意外な立場になっていたり、思いがけない人が死を迎えていたり(涙)。そして、かの人と結婚しても、相変わらずどこか不器用で出世していないドリンクウォーターがいいです。こんなに出世しない主人公も珍しい気がします(独立起業した人は別)。

 長くて、つらい封鎖任務の後に起きかけた反乱を鎮めるドリンクウォーターの対応が印象的でした。実を言えば、反乱が起こった時の行動はやや不満で、国王陛下の士官にしては品格がないっていうか身もフタもないんじゃないの〜、と文句を言っておりました。が、最後の最後、水兵たちの不満の元であった給料不払いの件を忘れずに提督に掛け合ってるところが、何とも誠実な主人公だと思いました。一冊の本の締めの場面をもっと華々しい話だけで終わらせることもできたと思うのですが、この小さなエピソードを落とさず書いた著者の心意気を嬉しく思いました。

 カッター艦ケストラル号の乗り心地(?)もよかったです。フリゲート艦が大きく見える視点というのは、他の海洋小説にはあまりないような気がします。暗礁をかわすケストラル号のスピード感、岩場の藻まで見える緊張感がすばらしいです。
(2005.11.18)

海の荒鷲ドリンクウォーター物語3
「紅海の決戦」
二見書房
R・ウッドマン 著 高永洋子 訳 

 紅海の決戦―海の荒鷲ドリンクウォーター物語 3 (サラ・ブックス―大航海文庫 (354))


旧知のグリフィス艦長とともにヘレボルス号に乗艦したドリンクウォーターは、輸送船団を護衛して地中海へ向かう。そこでネルソン提督に与えられた任務は紅海へ向かい、フランスがインドへ派兵しようとする動きをつかむことだった。新たな任務を帯びたことを妻へ知らせることもできないまま、ドリンクウォーターは遠くインド洋へ。だが、そこには既にフランス艦隊が到着しており、それを率いる司令官はドリンクウォーターが忘れることのできない人物だった。

 主人公があのネルソンの艦を見て、そこで立ち働く水兵の姿をのちのトラファルガー海戦まで覚えていることになる。万年下っ端士官のドリンクウォーターが語ると、いいエピソードだなあと思いました。こんな視点ばかりは他の海洋小説では書けない(みんな昇進してしまうので)。

 しかし、全体的には物足りない、疑問の残る巻でした。
まず、ドリンクウォーターが絶対に危機に陥らない。相当危ない目にあって、さてこれからどうなるの、とわくわくしてページをめくると……誰かがやってきてあっさり助けてくれるというエピソードが二つ、三つ……。頂けません。

 もうひとつ、気になったのはドリンクウォーターの人となりの描き方でした。
経験を積んだ士官で、戦闘に躊躇はしないけれど冷徹にもなりきれない、性格にやわらかさのある主人公、と思ったのですが、これがぐらぐら揺らいでしまいました。
 前の巻と比べて、作者はドリンクウォーターの「お人好し」を強く書きたいのかな、と思いましたが、そのためのエピソードに共感できません。反目していたロジャーズと大した意思疎通もないまま、いつのまにか仲良くなってしまうし、問題児候補生はあっさり姿を消し、宿敵サントナックスとの対面もぴりっとしません。
 そしてラスト、立場が危ういかと思われたドリンクウォーターを救うことになる手紙。内容もともかく、旗艦に赴く友人へ、わざわざ上司との面談の場へ送付しておいて「あれは、私的な手紙だったのに」と言われても、納得行かないです。

 そして、この著者も女性を描くのがうまくないですね。したたかなはずのキャサリン・ベストがいつのまにか健気な白衣の天使みたいになってしまって。

ミスター・キーの負傷前後の葛藤や先のネルソンとの出会いの場面はとてもよかったので、惜しいと思いました。
(2005.11.25)

海の荒鷲ドリンクウォーター物語4
「皇帝の密謀」
二見書房
R・ウッドマン 著 高永洋子 訳 

  皇帝の密謀―海の荒鷲ドリンクウォーター物語 4 (サラ・ブックス―大航海文庫 (354))


乗るべき艦もなく、悶々と陸で過ごしていたドリンクウォーターはダンガース卿の口ききで砲艦ヴィラーゴ号の艦長となった。行き先はバルト海。英国はロシアが北方諸国と手を結ぶことを恐れていた。冬が終わってロシア艦が氷の海から現れる前にデンマークを攻撃しようとパーカー提督率いる艦隊が出航した。

 初の指揮艦おめでとう、です。髪に白いものが混じりはじめた姿に(って、もうそんな年ですか!)ダンガース卿でなくてもため息ついてしまいます。地味だけれどどっしり落ち着いた砲艦は何となくドリンクウォーターに似合う気がします。

 地図と海図が欲しい巻でした。ドリンクウォーターは水先案内協会での経験を生かして、泥堆の位置を確かめる任務にあたります。氷と風の極寒の海を、測深しながら這うように進む様子、数日にもわたるコペンハーゲンへの攻撃のシーンは読み応えありました。
結局、この戦いはあっけない幕切れとなるのですが、その間にむなしく失われた命と、それに対する艦長の責任の重さが胸に迫りました。

「わしらは風に吹き払われる籾殻のごときものだ……」

 そう話すレットソム軍医との会話はとても重かったです。
ドリンクウォーターが代理ではなく、初の指揮艦を持ったこの巻では、遺族への手紙を書く姿が描かれています。こんな場面は他の小説にも出てきますが……これまで読んだ作品の中でも非常に印象深かったです。

 ネルソン提督もかなり書かれているので、このまま1805年のトラファルガー海戦まで読みたかったのですが、邦訳はここまで。1805年はまだ原書二冊も先の話なので、残念ながらここで断念です。
原書は14巻まで、フリゲート艦を指揮するまでにはなってるようです。そして、英文の読み間違えでなければ、Sirの称号を得て、蒸気船の時代まで長生きしてます。読みたいなあ、ハヤカワ文庫で出してくれないかなあ(涙)。
(2005.12.10)

海軍将校リチャード・デランシー物語り 1
「罠にかけろ」
至誠堂
C・N・パーキンソン 著  出光 宏 訳 

  罠にかけろ―海軍将校リチャード・デランシー物語り1 (海軍将校リチャード・デランシー物語り 1)


1794年。英国海軍士官デランシーは乗艦アーテミス号が難破して軍法会議にかけられて以来、まともな任務につくことができずにいた。そんな折、フランス語方言を話せること、ノルマンディーの海岸をよく知っていることをかわれてガンジー島での特殊任務を命ぜられた。
著者は「パーキンソンの法則」で知られる政治学者であり、植民史を専攻する歴史学者。

 いきなり蛇足ですが、「パーキンソンの法則」を検索してみて、思わず机に突っ伏しました。繁忙期に聞きたい言葉ではないですね(笑)。

 原題「Davil to Pay」。第一印象は「懐かしい感じの冒険小説だな」。書かれたのは1973年、邦訳は昭和53年(1978年)ですから当然ですか。
 冷静で理知的なデランシーというキャラクター、抑制のきいた文章、名誉を重んじる紳士たちの気風が漂う……。淡白でものたりない気もしますし、いや、品があって良いなとも思います。
 個人的好みからいえば、士官たちの「紳士」的な考え方が強く出すぎている気がして、違和感から物語世界に入りにくい。「どうしてそんなことで決闘までしてしまうんだ?」とか、密輸業者と心が通いあう、などと唐突にいわれても「どうして? なんで? どこらへんが?」という気分です。しかも、それが話の展開の軸になってしまっているところが、読みにくい理由なのかもしれません。
 下は印象的だった一節。

「戦争の全体の空気も変りつつあった。昔の戦争には騎士道の感覚があった。……(略)……彼らはフランス軍を立派な敵手、つまり、たまたま敵になった紳士たちと考えていた。……(略)……今の若者たちは違った考え方をしている。彼らの戦争は殺す戦争になりつつある」

 否、戦争は昔から殺すためのものだったし、騎士道の感覚があったとしても、それは艦尾の士官だけのものだったろうと思うのですが。それでも、著者がこういう風に考えているのか、と目にとまりました。
 私は船が蒸気船になって以降の戦争小説はまったく楽しんで読めないのですが、何故、帆船の(最後の)時代だけは特別なのだろうな、とよく思うので。このあたりは、もうちょっと考えてみたいです。

 最後にルイザ嬢がデランシーに小説を読むことをすすめたのは、単に面白かったからでは? そこに深い意味があるのではないかと考えて、さっそく購入、せっせと読みはじめたデランシーが可笑しい。どんななりゆきになるのか。次の巻も読んでみます。
(2007.3.1)

「ピーター・シムプル 上」 岩波文庫
F・マリアット 著  伊藤俊男 訳 

   ピーター・シムプル 上 (岩波文庫 赤 288-1)


イギリス海軍に仕官した著者が、その体験をもとにして書いた海洋小説。1833年に発表、初訳は昭和16年。ピーター・シムプルは「一族の中の莫迦者を国の仕事につかせる」ということで、士官候補生として海軍へ入ることになった。

 旧仮名遣いというハードルがあるので(前に1、2ページで挫折したんです)、まずは上巻を買ってみました。

 海軍はコクラン卿のもとに勤めていた著者の体験をもとに書かれています。読み物として面白可笑しく語ってはいますが、風物の細かい描写は、おそらく当時の空気をかなり伝えてくれるものなのではないでしょうか。嵐の中の操船の様子、脱走者に関する軍法会議のくだりは興味深かったです。

 それにしても、よく読むまではこんなにユーモラスな小説だと思わなかったです。
上陸したいばかりにボートにこっそり乗せてもらって出かけ、任務の役に立つかわりにエイ(ガンギエヒって何か、しばらく悩みました)に指を食いちぎられて帰ったり、掌帆長チャックの思い出話を聞いたり、「常用語に悩まされ」たり。また、候補生仲間に好き放題からかわれたりしている様子がおかしい。それでいて、生真面目というか素直な態度を好もしく思われる様子が伝わって、物語の中に気持ちが引き込まれてしまいます。

「内證ごととは聞いて呆れる。」
「いえ違ひます、」と私は答へた、「艦長と候補生との間ではなく、二人の紳士の間に於いてです。」


 これには副長でなくても笑みをかくしきれませんでした、電車の中で。

 旧仮名遣い、昭和初期の訳語のせいもあり、そして話のテンポものんびりとしていて、どこかほんわりとした味わいがよかったです。
 はしがきでは著者について(1702-1848)となってましたが、間違いですね? 1792年生まれという別情報があるので、そちらが正しいんでしょう。驚いた、岩波書店でもこんな間違いをするんだ(しかも復刻版)……。
(2006.1.2)

 

ヨーク物語1
「カリブの盟約」
至誠堂
D・ポープ 著 小牧大介 訳 

   カリブの盟約 (ヨーク物語)


原題「Buccaneer」。17世紀半ば、イギリスでは護国卿クロムウェルが政権を握っていた。その影響はカリブ海の英領の島々にまで及び、住民の間でも王党派と議会派が対立して混乱の只中にあった。そんな折に、イギリス艦隊がカリブ海へが向うという知らせがバルバドス島にもたらされた。伯爵の次男で王党派のエドワード・ヨークが捕らえられるのは間違いない。彼は長年かけて築き上げた農場を手放し、ひそかに恋心を抱いてきたオーレリアや使用人たちとともにグリフィン号で海へ出た。だが、どこへ行くことができるのだろうか。

 いきなり私信ですが、1、2巻を貸して下さったTさん、ありがとうございます。
「古本屋で3、4巻を見つけて買ったはいいが、1、2を持っていないので読むに読めない」とこぼしたら貸して下さった、という経緯。常に絶版の危機にさらされている海洋小説にはありがちな状況。本は見つけた時が買い時ですね!

 D・ポープの本はひさびさに読みました。冒頭はものすごい薀蓄の嵐で話が海へすべり出さず、「港で沈没かい」と思いましたが、後半あたりから面白くなりました。失礼、トリビアというべきか。

 「パイレーツ」・オブ・カリビアンならぬバッカニアのお話。パイレーツとどこが違うかというと、バッカニアは新教徒がカリブ海にいることを認めないスペイン人のみを相手にしており、無差別の海賊行為ではないこと。このバッカニアはのちの時代のプライバティア(私掠船)のもとになっています。

 面白かったのは、本国の政治状況はしっかり物語の背景にあるのですが、

 ヨーロッパで何が起きようと、このカリブ海は別な世界なのだ。

 そんな場所で、砂糖だの鍋だのパイプを運んで商売していこうと話すオーレリアのタフさが楽しい。また、ワグスタッフの「使えない海図」への文句も面白かったです。当時の「新世界」の遠さが感じられました。
 そして、主人公のネッドはラミジシリーズに登場したヨーク一家の祖先。「あのシドニー&アレクシスの性格は、オーレリアの血筋か」と思いましたが、海洋小説の恋愛関係は何が起こるかわからないから、予想はやめておきます。
(2008.10.15)

 

ヨーク物語2
「カリブの覇者」
至誠堂
D・ポープ 著 小牧大介 訳 

  カリブの覇者 (ヨーク物語)


原題「Admiral」。英国ではクロムウェルの死により議会派の勢いに翳りがみえるようになった。王党派として追われる身からバッカニアとなったネッドは、カリブ海でこれからどうするべきかをいまだ決めかねていた。そんな折に、仲間のトーマスと私掠船の船長たちからスペインの銀にまつわる思わぬ計画を聞かされた。

 1巻ではネッドの鷹揚な性格が目立っていたように思いましたが、この巻ではかなりadmiralぽい。頭の切れる指導者らしい面が書かれています。でも、それにしては話のテンポが単調な感じで、せっかくのボス……いやいや、admiralぶりがもったいない、と思いました。

 トリビアはやっぱり多すぎると思うのですが、スペインの植民地経営(?)についてのネッドとオーレリアの会話は面白かったです。
 法王境界線より西の外国船を認めないことから他国人との取引は不可、スペインの植民地どうしの取引も禁じられている。物資はすべて本国を経由しなければならなくなり、法外な税がかけられて……要するにまったく現実的でない規制がかけられている。
 現地のスペイン人も密輸業者を歓迎せざるを得ない事情があるのですね。その本国スペインの財政状況たるや、銀行が「貸した金を取り戻すためにはさらに貸さなければならない」という、ぼろぼろぶり。ポトシ銀山で働かされたインディオが可哀想です。

 ところで、バッカニアが「海上で船を襲うのが商売ではない」というのはちょっと意外でした。私もヘファーなみです。
 そして、そのために修練を積んでいる、というわけではないのでしょうが。「爆破するのは初めてじゃないんだから、もうそろそろ安全な距離をおぼえなくちゃ」と、妙に熱心なのが可笑しかったです。
(2008.12.1)

 

ヨーク物語3
「黄金船団」
至誠堂
D・ポープ 著 小牧大介 訳 

  黄金船団 (ヨーク物語 3)


原題「Galleon」。英国では王政復古によりチャールズ2世が国王の座につき、スペインと講和条約を結んだ。本国の状況に倣うならばスペインとは敵ではないのだが、教皇境界線より西のカリブ海では事情は複雑だ。そんな時、ジャマイカ島にいたネッドたちのもとに、フランスが領地としている島にスペイン船が座礁しているという知らせがもたらされた。ネッドとトーマスは鉱山から出る金銀をスペイン本国へ運ぼうとしていたこの船を奪ってやろうと考えた。

 財宝が出てくると、「カリブ海」「海賊」のお話らしくなりますねえ。後半はかなりわくわくしてしまいました。船が出てくる方が話が面白いと思うのは、私の好みの問題でしょうか。
 また、小ネタが楽しくもありました。「かつらでわかる、所属派閥」、「バッカニアの山分けのお約束」。「椰子の実の活用方法」はもっとじっくり研究していただきたいと思いました。

 今回はトーマスが面白かった。わくわくする風景をせっせと説明して「ああ、君たちも知っているんだな」と気がついたり。ネッドにはできない大見栄を切ってみたり。しかも、それが手にとるようにダイアナにばれているのが可笑しいです。

 しかし、どうして悪役の描き方にここまで容赦ないんだろう、ポープさん。ヘファーに輪をかけて嫌な野郎(失礼)が登場してしまいました。
(2008.12.28)

 

ヨーク物語4
「海に自由を」
至誠堂
D・ポープ 著 小牧大介 訳 

  海に自由を (ヨーク物語)


原題「Corsair」。ジャマイカ島は国王の言葉によってスペインに渡されてしまうかもしれない――スペイン人の襲撃にそなえるべき時だというのに、総督ルースは軍隊を解体し、さらにはバッカニアの認可状を取り上げて島から追い出そうと考えていた。彼のあさはかな考えに嫌気がさしていたネッドたちのもとに、仲間がリオアチャでスペイン人に捕らえられたという知らせが届いた。彼らを助けに向かったネッドとトーマスは、そこでスペイン人の不穏な行動の目的を聞かされた。シリーズ最終巻。

 巻頭、バッカニアを指揮していた実在の人物、ヘンリー・モーガンのことが紹介されています。ネッドのモデルなんですね。性格はネッドよりももう少し豪気だったみたいです。ナイトに叙勲されたバッカニアなんて、確かに面白そう。史実は史実で興味をひかれました。

 で、ついに最終巻。
 ヘファー、そしてルースもすぐに前言を取り消す勝手ぶりで手ひどく書かれています。でも、結局バッカニアたちは仕事をひきうけてるんですね。この著者が書くといつもどこかに人の良さというか、おおらかな感じが漂うのが好きです。

 バッカニア総動員のスペイン人との戦いなど読みどころは多いのですが、それでも半端な印象が残りました。原題の「コルセア」も説明がありません。コルセア、バッカニア、パイレーツの違いがネッドたちの心意気を支えるのではないかな、と思ったのですが。

 全巻をとおして見ると。
 2巻後半あたりからネッドとトーマス、バッカニア仲間の性格が見えてきて、それぞれのエピソードが楽しくなりました。海と船の役割が大きくなったことも面白さのひとつだったのかもしれません。なので、半端に終わってしまったことがもったいないです。
 それでも、ネッドがしだいに眼光鋭くなって町の住人が恐れるバッカニアの頭領役をきっちり演じるなど、著者はけっこう楽しく書いたのではないかなと思いました。

 そういえば、小牧さんはまたも尻切れトンボの話を訳しておられる(笑)。お疲れさまであったな、と思いつつ、仮に原書があっても私はもう訳しません(爆)。
(2009.1.17)

 

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