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推理小説 9

 

「ハードボイルド・エッグ」 双葉文庫
荻原浩 著

   ハードボイルド・エッグ 新装版 (双葉文庫)


私の名は最上俊平。私立探偵だ。フィリップ・マーロウを敬愛する私は、ハードボイルドに生きると決めているが、持ちこまれるのはなぜかペットの捜索依頼ばかり。正直、役不足である。そろそろ私は変わろうと思う。しかるべき探偵、しかるべき男に。手始めに、美人秘書を雇うことを決意したが、やってきたのはなんとも達者な女性で…。くすりと笑えてほろりと泣けるハードボイルドの傑作。

 続けて読んでます、荻原さん本。
 ハードボイルドを目指しては、どこかうまくいかない主人公のコミカルな推理小説。私はハードボイルドを「かっこいい」と思わないので楽しみ半減ではあるのですが、テンポよくて面白かったです。

 フィリップ・マーロウをめざしても、どうしてもおでんと昆布出汁から離れられない。持ち込まれる依頼は迷子のペット探し。美人で有能な助手を雇うはずが、やってきたのは90歳のおばあちゃん、綾さん。
 ただ、この綾さんがとぼけている割に時々機転がききます。たいていはとぼけてますが……。凸凹コンビと、意味ありげに登場する帰国子女の登校拒否中学生、ハスキー犬のチビと、登場人物(犬)も味がありました。

 個人的には、シリーズ化の種まきのような書き方は好きではないので、その点は評価が辛くなってしまいますが。でも、綾さんの言葉が格好よかったです。

「お話の中のことは、お話の中のことだよ。本の中に出てくる人は、続きがないから楽だけれどさ。人の一生ちゅうのは、よけいな続きが長いんだよ」


 このセリフが一番ハードボイルドかも。
(2016.6.10)

 

「コールドゲーム」 新潮文庫
荻原浩 著

  コールドゲーム (新潮文庫)


高3の夏、復讐は突然はじまった。中2時代のクラスメートが、一人また一人と襲われていく……。犯行予告からトロ吉が浮び上がる。4年前、クラス中のイジメの標的だったトロ吉こと廣吉。だが、転校したトロ吉の行方は誰も知らなかった。光也たち有志は、「北中防衛隊」をつくり、トロ吉を捜しはじめるのだが――。

 サイコ・ミステリーというのかな。高校生たちが主人公のさわやかさ……はなくて、けっこう重め、暗めの展開でした。

 進路の悩み、そして忘れたはずの過去から突然に突きつけられた脅迫。犯人はかつてのクラスでのイジメ被害者なのか。事件が解決すれば、彼らには新しい未来に向けての生活が始まるはずだった――。

 救いようがない話で私は読むのがしんどかったです。中学生の陰惨なイジメと復讐が楽しく読めるはずない、といえば当然ですが。
 ともかく、虐めた側が主人公なので感情移入もできない。かといって、復讐の手口も同じくらい陰惨なので、そちらにも気持ちが入っていかない。
それと、主人公たちがイジメを過去のこととしか捉えていないことに違和感があります。被害者にとっては過去のことではないと思うのですが。

 文章はいつものように勢いがあって好きですが、後味悪すぎました。ちょっと残念です。
(2017.10.24)

 

お料理名人の事件簿5
「焼きたてマフィンは甘くない」
ヴィレッジブックス
リヴィア・J・ウォッシュバーン 著  赤尾秀子 訳

   焼きたてマフィンは甘くない (お料理名人の事件簿)


原題「The Pumpkin Muffin Murder」。フィリスは元教師ばかりが集まる下宿のオーナー。待ちに待った収穫祭の料理コンテストも、秋の恵みたっぷりのマフィンで優勝間違いなし。ところが当日、飾り用のカカシがぽつんと取り残されているのを発見する。持ちあげるといやに重たい…それもそのはず、入っていたのは男性の死体だった!口の中には、なぜかフィリスの特製マフィンが―おばあちゃん探偵があばく、驚きの真犯人とは?

 お気に入りを求めて新シリーズ開拓。
 主人公が60代のおばあちゃんというのが目新しい。ダンナさんと死別して、家には下宿人をおき、ボーイフレンド(ジェントルマンフレンドと本人は主張)らしき人もいる。ま、設定要素としては他のコージーミステリーと似ていますが、おばあちゃん視点も面白いですね。

 謎解きという点ではちょっと物足りないかな。そもそも犯人の実行方法に納得がいかないし。お土産のマフィン、不動産トラブル、被害者の持病など面白そうなネタは揃っているのに主人公が動いてくれないのがもどかしい。60代では仕方ないのか、と言ったら気を悪くするかしら。

 シリーズの他の巻も読んでみるか、まだ思案中ですが、ちょっと出版社に文句。表紙のシリーズ名に番号がないので、てっきり一巻と思ったのですが、これ、5作目なのです。他出版社から権利を引き継いだためだと思いますが、あとがきを読まないとわからない。6作目を出す時はどうするのかな?
 一応、この一巻だけでも読めますが、下宿人どうしの人間関係がわからないのは、やはり物足りないのです。
(2016.9.20)


卵料理のカフェ1
「あつあつ卵の不吉な火曜日」
ランダムハウス講談社
ローラ・チャイルズ 著  東野さやか 訳

   あつあつ卵の不吉な火曜日 (卵料理のカフェ 1) (ランダムハウス講談社文庫)


小さな田舎町にアンティーク調のカフェが開店。その名もカックルベリー・クラブ。スザンヌをはじめ、少々訳ありのおばさま三人組が振る舞うのは、豊富な卵 料理。ふわふわオムレツにベイクドエッグ―自慢の料理のおかげで店は連日大賑わい。ところがある朝、日替わり卵メニューをテイクアウトした弁護士が、店の 駐車場で殺される事件が!否応なく三人は事件に巻き込まれてしまい……?

 新しいコージーミステリーを開拓しようと手にしました。アラフォーの仲良し三人がいっしょに経営するカフェのおいしい手料理、お菓子がお楽しみ……ですが、ミステリーという点では物足りない感じがしました。

 なかなか推理が進まないし、後から後から新しい登場人物が出てきて、誰もがばらばらに怪しげな行動を取るので、謎解きというより、解ける糸を探してひっぱるような感じで終わってしまいました。
 お料理はおいしそうですが、二巻目も読むかどうかは私としては微妙なところ。
(2016.10.18)

 

ドーナツ事件簿2
「動かぬ証拠はレモンクリーム」
コージーブックス
ジェシカ・ベック 著  山本やよい 訳

   動かぬ証拠はレモンクリーム―ドーナツ事件簿〈2〉 (コージーブックス)


原題「Fatally Frosted」。豪邸ご自慢の素敵なキッチンが見学できる、町のキッチンツアー。キッチンでは大勢の見物客を前に、シェフが料理の実演をすることになっていて、ドーナツショップのスザンヌもその一人。ところが、いざ特製ベニエ作りにとりかかろうとしたその瞬間、会場内で悲鳴が。口うるさいツアー主催者が遺体となって発見されたのだ。被害者の手にスザンヌの店のレモンクリームドーナツが握られていたことから、彼女は容疑をかけられた。

 新規開拓(?)でまた別のコージーミステリー。結論から言うと、二冊目は読まないかな。すみません。
 小さな町でドーナツショップを営むスザンヌが、いわれのない殺人容疑をはらすために捜査に乗り出す……のですが、お話にパワーがないというか。やたらに登場人物が増えるのは目くらましのためなのか、それともシリーズ次作のための種まきなのか。冒頭で起きた殺人事件以外にこれといった進展がないまま最後まで進んでいくし、そもそもそこで事件が起きなければならない必然がまったくなかったのでは、と首を傾げたのでした。

 スザンヌが犯人を見つけるきっかけになった事柄はきちんと最初からネタふりしてあるので、推理小説としてそう悪くはないのかもしれない。ただただ、インパクトにかけるのですよねえ。ドーナツづくりの工程が非常に楽しくて、私的読みどころでした。

 それにしてもコージーミステリというのは、主人公がいい加減な夫と離婚して、お料理の腕をいかして生計をたて、仕事熱心でセクシーなボーイフレンドを見つける、というのが成立条件なんでしょうか。違う設定の作品も読みたいのですが。
(2016.5.22)


お菓子探偵シリーズ11
「シュークリームは覗いている」
ヴィレッジブックス
ジョアン・フルーク 著  上條ひろみ 訳

   シュークリームは覗いている (ヴィレッジブックス)


原題「Cream Puff Murder」。母ドロレスの出版記念パーティに着るドレスが入らなくなり、ダイエットのためにしかたなくジム通い始めたハンナ。そこでインストラクターとして働くロニは未婚既婚問わず男性をつぎつぎ誘惑している。だが、そのロニが何者かに殺された! 死体の第一発見者はまたしてもハンナ。さらに、こともあろうか義弟に末妹の恋人、マイクまでもが容疑者に。捜査から外された彼らはハンナに捜査代行を依頼、家族とノーマンの助けを借りて犯人捜しを始めるが……。

 新規開拓で手に取った本。図書館で本を借りようとすると、シリーズの途中の巻しか見つからないこともあります。まあ、読み切り形式だし、お試しなら構うこともないかと思ったのですが、さすがに11巻というのは無理がありました。人間関係は覚束ないし、主人公の性格も掴めていないし。ただでさえ登場人物が多いので、途中でギブアップしました。スミマセン。

 いずれ一巻を見つけた時の覚え書きとして。
 謎解きの種が撒かれるのが遅め(そして、わりと分かりやすい)なので、ミステリーとしては物足りないかも。代わりに登場人物たちはそれぞれ物語を持っていそうなので、じっくり読んで慣れたら面白そう。気になるのは、主人公ハンナのクッキーショップの共同経営者のリサ。頼りになるキャラクターです。
 そして、お菓子や料理場面はハンナが「あるもので工夫して作る」主義のようで楽しい。見た目がチーズバーガーみたいなクッキーにはびっくり。

 ただ、ハンナの恋愛関係はいただけませんねえ。気になる存在(マイクとノーマン)が二人いるのはいいとして、どちらともそこそこ親しいみたいで、クッキー焼く前にもうどちらかに決めては!? と思われたのでした。

 あと、直前に読んでいた「アイスクリームの受難」にもヴェロニカという名のスポーツインストラクターが登場して殺されてしまったので、脳内で話が混ざってしまいました(笑)よくある名前なのかしら。
(2016.10.10)


ダイエットクラブ 1
「ベーカリーは罪深い」
ランダムハウス講談社
J・B・スタンリー 著  武藤崇恵 訳

  ベーカリーは罪深い ダイエット・クラブ1 (ランダムハウス講談社文庫 ス 5-1)


原題「Carbs & Cadavers」。とうとう体重125キロを超えた図書館長ジェイムズ。バツイチでデブ。そんな負け犬はもう嫌だ! 思い切って、誘われたダイエット・クラブに入ってみることにした。その名も、“デブ・ファイブ”。ところが、敬愛する町一番のベーカリーで殺人事件が起こったものだから、みんなで犯人探しへ乗りだすことに。

 シリーズ最終巻まで読了後に第一巻を手に取るという……すみません、普通こんなことはしないですよね。私も初めてです。

 まず何に驚いたって、ジェイムズの体重。125キロとは! 2巻以降を読みながら想像していたのは、せいぜい90キロくらいだったのでちょっと衝撃でした。アメリカ、やっぱりスケールが違う。

 母を亡くし、妻と離婚したジェイムズは父と同居するために故郷のクィンシーズ・ギャップへ帰郷。何につけても心の晴れない毎日ですが、図書館を一緒に切り盛りする双子やダイエット仲間と知り合うにつれて、次第に前向きな考えを取り戻していくのです。
 ダイエット仲間たちがあらためて魅力的でした。それぞれの『あの頃の体形に戻りたい』には『あの頃の夢を取り戻したい』という思いが重なっていて……まあ、10代のそれを取り戻すのは無理かもしれませんが、この仲間がいればあらたな夢を見られる気がしました。実際、2巻以降でそれぞれのあらたな人生を手に入れましたし。まさに、めでたし、というお話だったのですね。

 さて、第一巻だけあって探偵要素もきっちり詰まってます。のどかな町で起きた殺人事件。さらに、容疑者が何者かに当て逃げされるという事態にジェイムズたちも事件を追わずにはいられません。

 ところで、クィンシーズ・ギャップで前に事件が起きたのは100年前というのですから、どれだけ静かな町なのか(いや、そこでこの先たて続けに事件がおきるんですから、ジェイムズには引き寄せ能力があるんではないかと・爆)

 謎もヒントもきちんと回収されて、(私的に)シリーズは無事に終幕。楽しませてくれてありがとうです。
(2017.2.27)


ダイエットクラブ 2
「アイスクリームの受難」
ランダムハウス講談社
J・B・スタンリー 著  武藤崇恵 訳

   アイスクリームの受難 (ダイエット・クラブ2) (ランダムハウス講談社文庫)


原題「Fit to Die」。町にアイスクリーム店がオープン。長蛇の列ができ、カラフルなアイスやサンデーを手にした笑顔の客であふれていた。ところが目と鼻の先にダイエット教室がオープンしたことから、商売敵同士、熱い火花をちらすことに。ジェイムズも明日から始まる過酷なダイエットを前に最後のアイスを堪能していた。そんな矢先、アイスクリーム店が火事で全焼!火災原因に疑念を抱いたジェイムズは仲間と真相を探ることに。

 コージーミステリーの新規開拓で読んでみました。これは読後感が良くて当たりかも。

 主人公ジェイムズは元大学教授で、今は小さな町の図書館長。離婚後は父親と二人で暮らしています。男性主人公のコージーミステリーもあるのですね。このジェイムズ、気弱で太っちょ。女性受けはいいのに、何故か意中の人ルーシーとなかなか上手くいきません。
 町にダイエット・エクササイズの教室ができたのがお話の始まり。「デブ・ファイブ」と自らあだ名をつけた楽しい仲間5人で揃って参加する事になったものの、主宰のトレーナー、ロニは押しが強いハイテンションの女性で、のどかな町の住人とは衝突しがち。そんな時に、開店したばかりのアイスクリームショップで不審火、従業員ピートが焼死した。
 不幸な事故かと思われたが、ピートを知る住人らには疑問が――。酒をやめられないなど決して評判の芳しい存在ではなかったピートであっても、町の人たちは彼をよく知っている。

 ピートが飲まない銘柄のウィスキーが現場に残されていたことがきっかけとなって、ジェイムズは謎を追いかけはじめます。こういうエピソードは物語世界に親しみがわいていいですね。
 しかし、登場するダイエットフードの不味そうなことといったら! もう、この本を読んだら反動でチョコナッツがけアイスクリームでも食べなければ気が済まなくなりそうです。他のコージーミステリーとは別の意味で危険。

 さて、主人公ジェイムズは穏やかでちょっと気弱で責任感の強い(かなり太め)好男子。でも、お父さんとの会話の邦訳分はちょっと情けなさすぎるのでは? 会話文だけ読むとティーンエイジャーの男の子かと思いましたよ。

 お気に入りは町に越してきたばかりのアイスクリームショップオーナーのウィリー。陽気で誠実、災難に見舞われてもあきらめずに立ち上がるタフさを持っています。

 彼らの活躍を読んでみたいので、まずは第一巻を探します。
(2016.10.1)


ダイエットクラブ 3
「料理教室の探偵たち」
ランダムハウス講談社
J・B・スタンリー 著  武藤崇恵 訳

   料理教室の探偵たち ダイエット・クラブ3 (RHブックス・プラス)


原題「Chili Con Corpses」。ダイエットの息抜きになればと、料理教室へ通いはじめた<デブ・ファイブ>のメンバー。美味しいメキシコ料理の数々に、ご機嫌で舌鼓をうっていたのもつかの間。メンバーの一人、ルーシーの心変わりで仲良し五人組の固い結束にひびが……。そんななか、料理教室の生徒が洞窟で殺される事件が起こり、教室は捜査会議の場へと様変わり。はたして<デブ・ファイブ>は解散の危機を乗り越え、無事に事件を解決できるのか?

 1巻が見つからず、とりあえず続きを読んでます。
 前巻で憧れのルーシーといい雰囲気になり、さあこれからデートね! と思ったら、二重に驚かされました。「ジェイムズ、やるじゃないの!」と「いつから、そんな展開に?!」うーん、あなどれません。

 美人で資産家の双子姉妹キンズリーとパーカーの片割れが殺され、その現場に居合わせたことで、ジェイムズは探偵の手伝いに乗り出すことに。
 とはいえ、事件発生から中盤まで捜査はほとんど進まず、むしろデブ・ファイブのメンバーたちの私生活にスポットが当たります。ジェイムズは糖質、脂質ダイエットに加えて塩分も抑えなければならなくなり、もう食べるものがないのでは? そもそも、ダイエットの息抜きに料理教室って無理ですよ……。でも、出てくる料理はどれもおいしそう。

 そして、謎の老人は最後まで謎のままだったし、登場する獣医たちも個性的だったけどそこから推理が進むわけでもなし。やっぱりミステリーとしては物足りないですが、このまったり寄り道がこのシリーズのペースなんでしょうね。

 ところで、ミャーミャー鳴いたり、鼻を鳴らすジリアンの猫がかの高僧の名だったので、どうしても探偵業務に集中できませんでした。あああ、猊下がバスケットに入ってしまわれた〜。

 閑話休題。今回のお気に入りキャラクターは料理教室の先生であるミラおばさん。気さくで温かなおっかさんとして、若い(?)ジェイムズたちとの友情を楽しみ、スランプでこもりがちなジャクソン(ジェイムズの父親)のミューズにもなりました。殺人犯に憤慨して言った言葉が名言。


「おっそろしい男だね」ミラはケーキナイフを振りまわした。「あの子の受けた仕打ちを考えると、刑務所でろくなもんも食べさせてもらえないで、骨と皮だけになればいいんだよ」


 Indeed!(そのとおり!)
(2016.10.21)

 

ダイエットクラブ 4
「バーベキューは命がけ」
ランダムハウス講談社
J・B・スタンリー 著  武藤崇恵 訳

  バーベキューは命がけ ダイエット・クラブ4 (RHブックス・プラス)


原題「Stiffs and Swine」。バーベキュー・コンテストへ、ゲスト審査員として招かれた“デブ・ファイブ”の5人。会場ではバーベキューの達人たちが、夜通しグリルで肉を焼いたり、ソースの研究をしたりと腕を競う。そんな真剣勝負のさなか、優勝候補の男がキャンピングカーの中で変死。そして“デブ・ファイブ”のひとり、ジリアンが逮捕されてしまった! 肉ざんまいの薔薇色の4日間は一変。ジリアンの知られざる過去が明らかになる。

 素人探偵として、ちょっと知られるようになったおかげで、“デブ・ファイブ”のメンバーはバーベキュー大会の審査員として招かれることになります。

 どうやら、ダイエットはやめたみたいですね、みなさん(爆)。今回も美味しそうなレシピがたくさん。豚肉、牛肉、鶏、羊、フルーツソース、スパイス入り、ヨーグルトソース。わかった、わかりました、肉ですね! アメリカ人の、肉にかける情熱には負けました。

 その肉々しさの大将のような、コンテスト参加者ジミー・ラングが殺され、その前日に彼とトラブルを起こしていた“デブ・ファイブ”の一人ジリアンが逮捕されてしまう。風変わりだけど、いつも明るくパワフルな彼女の悲しい過去を知った仲間たちは何とか彼女を助けようと犯人を探し始める――。

 事件が起こるのが中盤なので、後半はかなり忙しい。でも、容疑者が何人も登場して、推理のヒントもちゃんと種播きされているので、謎解きも楽しかったです。今回は地元クィンシーズ・ギャップから離れた町でのお話でしたが、終盤にはジェイムズの勤める町の図書館で起きていた小さな事件も解決されて、おみごと! という感じでした。

 また、前巻で急展開していたジェイムズの恋もそのまま一件落着とはいかない雲行き。私はやり手で無駄のないマーフィーより、おおらかなところのあるルーシーの方が好きなので嬉しい展開です。

 他にも、「きっと、そうだろうな」と思われていた小さなサプライズがあって、ほんわりと楽しいハッピーエンドになりました。しかし、マーフィーの落とした爆弾(?)はどうなるのか? 気になるので続きを読みたいし、しかし、そもそもの1巻を探さねばなりません。
(2016.10.30)


ダイエットクラブ 5
「とんでもないパティシエ」
ランダムハウス講談社
J・B・スタンリー 著  武藤崇恵 訳

  とんでもないパティシエ ダイエット・クラブ5 (RHブックス・プラス)


原題「The Battered Body」。父ジャクソンとミラの結婚式が迫り、ジェイムズは新居探しとダイエット再開に奮闘中。気ぜわしい日々のなか、ミラの妹が結婚式のためにやってきた。彼女はなんと「お菓子の女王」と呼ばれる有名パティシエだった! 作るものはたまらなくおいしいのに、毒舌、わがまま、やりたい放題の女王に町中がうんざり。ところが彼女の死体が発見され……。嘆き悲しむミラをなぐさめようと、“デブ・ファイブ”のメンバーは、死の真相を突きとめるべく立ち上がった。


 ジェイムズはちゃんとダイエット再開しましたね(笑)

 今回はクィンシーズ・ギャップの町ののどかさ、人づきあいのあたたかさ、デブ・ファイブの友情にピントがあったほんわかとしたお話でした。しかし、そこにポーレット並みの毒舌をはさむなら、謎解きはなし、というところ。一応コージー「ミステリ」なので、この犯人(共犯者)はないですよ。。。しかも、最後まで……いや、ネタばれになってしまうか。
 それと、心ひそかに期待していたエルフのグロウスター(図書館のマスコット)誘拐事件もなしくずしになってしまって。ある意味、メインの事件より気になっていたんですけど。

 人間関係はいつにもまして面白かったです。
 あの優しく明るいミラにこんな姉妹がいるなんてちょっと信じられませんが、「お菓子の女王」ポーレットの性格の悪さはすさまじい。超わがままで自分勝手。
 でも、ジェイムズの父・ジャクソンとは意外と息が合っていましたね。苦労して、なりふりかまわず成功を求めてきた人だったのではないかな。ジャクソンが女王の手をこれほど美しく描いたことを信じたいものです。
 でも、もう一人の姉のルイーズもひどい性格なので、ミラは養子ではないのかとかなり真剣に考えてます。

 また、地元との絆は読むほどに心あたたまります。ポーレットのお葬式のあと、茫然とするミラ、ジャクソン夫婦の家に、近所の女性たちが押し寄せる場面があります。

 女性には立ち直る強さがあるのだ。昨日、近所の女性たちは突然押しかけてきて、冷凍庫、冷蔵庫、戸棚を料理でいっぱいにすると、すさまじい勢いでおしゃべりし、嵐のように去っていった。
 そのあと三人は眠ったが、目が覚めてもやはり悲嘆と不安に包まれたままだった。だが祈祷と讃美歌と降臨節の礼拝が、それをゆっくり洗いながしてくれた。


 いい町です。

 さて、終盤には意外な人物たちが現れて、ジェイムズの生活を一変させます。楽しいエピソードですが、私はしっくりきませんね。

 ともあれ、ほんとうに第一巻を探さねばなりません。なにせ、作中作ともいえるミステリー本『ベーカリーの死体』(マーフィー・アリステア著)がついに発売されてしまったのです。
(2016.11.23)

 

ダイエットクラブ 6
「カップケーキよ、永遠なれ」
ランダムハウス講談社
J・B・スタンリー 著  武藤崇恵 訳

  カップケーキよ、永遠なれ (コージーブックス)


原題「Black Beans & Vice」。催眠療法によるダイエットで、効果があらわれた〈デブ・ファイブ〉の5人。未来はバラ色に思えた矢先、図書館長ジェイムズの息子が、よりによってベジタリアンになると言いだした。そこで「食育」のために農家のフェスティバルを訪れたジェイムズは、町会議員の死体を発見してしまう。5人は力を合わせて、最後にして最大の難事件に挑むことに。


 メンバーそれぞれが新しい生活に向かって歩きだそうとしている最終巻。催眠療法ダイエット、前巻で再会したジェーンとジェイムズとの新生活に影を落とすストーカー、図書館の双子の恋、と盛りだくさんで、殺人事件のことを忘れました。ミステリー小説で事件を忘れるとは前代未聞です!

 ちょっと不満が残るのが、ジェイムズの恋の結末。以下、ネタばれあり。






 別れた元妻のジェーンとよりを戻したのはいいとして、それがジェーン自身にあらためて惹かれたというより、可愛い息子のいる絵に描いたような家庭が降ってわいたせいに見えるんですよね。
 まあ、家庭願望全開のジェイムズだし、ルーシーやマーフィーでは合わなかったのかもしれないけど。
 私は努力家でちょっと惚れっぽいルーシーの方が好きなので残念です。

 ともあれ、翻訳ものには珍しく読みやすいし、何より読後感がいい。続きがないのは残念ですけど、楽しませてくれてありがとう!
(2016.12.1)


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