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SF小説 4

 

「地球移動作戦」 ハヤカワ文庫
山本弘 著

   地球移動作戦 (上) (ハヤカワ文庫JA)

   地球移動作戦 (下) (ハヤカワ文庫JA)


西暦2083年、ピアノ・ドライブの普及により人類は太陽系内のすべての惑星に到達していた。そして、あらたに発見された謎の新天体が24年後に地球に迫り、壊滅的な被害をもたらすことがわかった。地球では様々な対策案が提唱され、12歳の天才少女・風祭魅波はACOM(人工意識コンパニオン)のマイカとともに、天体物理学者である父が発案・提唱した驚くべき計画の実現を決意する。


 例によって、難しい科学的説明は「いろいろ大変な苦労」とか「いろいろ試行錯誤」と勝手に読み代えさせて頂きましたが(すみません。本当に無理)。

 ACOM(人工意識コンパニオン)、アーゴというゴーグルをかけることで五感で直接再現される「拡張現実」がごく自然に生活の一部になっている時代。さらに、作中の20余年の間にも技術は着々と進歩している。でも、それでも、変化や新奇なことへの心理的な抵抗がないわけではない。例えば、心を持つACOMを物のように所有してもよいものか。アンチエイジングには抵抗はなく、アーゴもOK。でも、それを体内に手術で埋め込むことにはまだ慣れない人もいる。

 時代が変わっても、「人間、これでいいのか?」と考える人は居続けるのだろうなあ。こういう感覚がリアルなお話は大好きです。
 現実と拡張現実。人間とACOM――そこに決定的な違いはあるのか? あるのならば、それは対立するのか、否か? こんな本質的な問いかけが、いろいろなエピソードの中に隠れているようです。

 まあ、ちょっと気になることないでもない。
 あの、生態系はいいですか? それと、上のような、充分に読み応えのあるモチーフが満載なので、時間軸を遡るようなトリックは無しで直球勝負して欲しかった気もします。それと、次々と関係者が死を迎えることはちょっとショックです。宇宙船ファルケの乗組員なんて、それだけでお話ひとつ読みたいくらいなのですが。

 2009年に書かれたお話ですが、今、今年読むと、シーヴェルが地球にもたらす災厄の光景に、つい東北の震災を重ね合わせて読んでしまいます。ファルケの乗員が放射線障害を受けつつもシーヴェルの調査を続けたこと。想像を越えた災害への恐怖と現実逃避の心理。災害を前にした政治家たちのごたごた劇――いろいろなエピソードが、読んでいてやるせないですね。半年前に読んでいたら、何を感じたことでしょう。それは、もう知りようもないのですが。

 シーヴェルの到来による大災害の予告にはじまり、人類の知恵をしぼって対応策を考え、そして地球移動という大作戦は着々と進められていく――その中で地上のささやかな抵抗は危機を迎える時があります。つまり、宇宙船ファルケの帰還と、アースシフト構想が人々の賛同を得られるのかどうかというところ。
 文脈は違うのですが、どちらも「生きのびろ」というひとことによって意思が継がれているように思えて、ちょっと胸が熱くなったのでした。
(2011.7.20)


「アリスへの決別」 ハヤカワ文庫
山本弘 著

   アリスへの決別 (ハヤカワ文庫JA)


頭の中の考えたことにさえ罪に問われて記憶を消されてしまう、行き過ぎた検閲社会を描いた「アリスへの決別」。月面のドームの外で発見された死体は事故なのか、それとも殺人事件なのかを追及する「七歩跳んだ男」など短編7編。

 好きだったのは、検閲や思想統制で息苦しそうな未来社会を描いた「アリス〜」と「リトルガールふたたび」。科学はあんまり進歩しない方が人間のためには幸せかも?

 また、仮想現実が現実の一部になっているという設定が面白かったのが「地球から来た男」。地球を離れる宇宙船に古風にも「密航」してきた男の正体をめぐるお話です。
 人に会うにも仮想服を着て、映像で上司と会うのが当たり前の時代になっています。そういう社会で「物理出頭」って怖いですねえ。
 古くさい常識から抜け出せない奇妙な男ミンレンが、現代風の自由な生活の中に放り込まれてつぶやく、戸惑いの言葉が面白いです。

 しかし、いざここに来てみると、あまりに自由すぎて、とまどうことばかりです。とても適応する自信がない。せっかく檻から出られたのに、私自身が心を錆びた檻に閉じ込めている。心を解き放っていいのか、私にはわかりません。そんなことをしたら、もう私が私ではなくなるような気がする。

 さて、カルチャーショックでよろよろになっている彼の正体とは?


 SF小説へのオマージュ作品集、と言っていいのかな。捧げられた当の作品をどれも読んでいないのですが(笑)。ちょっとお説教くさいところもありましたが、予想外に面白かったです
(2011.7.10)


「導きの星  1 目覚めの大地」「2 争いの地平」 ハルキ文庫
小川一水 著

   導きの星〈1〉目覚めの大地 (ハルキ文庫―ヌーヴェルSFシリーズ)

   導きの星〈2〉争いの地平 (ハルキ文庫―ヌーヴェルSFシリーズ)


銀河に進出して数多くの異星人と邂逅した地球は、文明の遅れた彼らを宇宙航行種族にすべく“外文明支援省”を設立。“外文明観察官”を派遣して、秘密裏に援助を開始した。だが、若き観察官・辻本司と三人の美少女アンドロイドが発見した「スワリス」との意外な接触(と失敗)が、やがて銀河全体を波乱へと巻き込んでいく


 まず、全4巻だそうですが、とりあえず読了の1、2巻の分だけの感想です(図書館でいつ続きを借りられるかわからないので)。半端ですみません。

 スワリスとヒキュリジという対立した種族(両方ともリスのようですが)が、争いながら文明を築いていく。そして、その文明を観察(時々おせっかいやき)しているC・O、シビリゼーションオブザーバーたちの物語です。
 狩猟採集時代、金属器時代、貿易航海時代、宗教の発生、近代科学の芽生え、というところまで読み終えました。最初は、C・Oである司たち四人と、リスたちのどちらに注目すべきか迷ってしまいましたが。面白かったです。リスたちが(爆)

 小さく弱弱しかったスワリスが森を後にしてあたらしい世界を手に入れる。敵対していたヒキュリジを従える。虐げられた彼らは新しい技術を手に入れ、力を持つ――といった具合に、思い入れる視点が時代によって二つの種族を行ったり来たりするのが面白い。
 ついでに、スワリスたちは森にルーツを持つため、時代が下ってもそれらしい言葉の言い回しが残っているらしい。「尻尾すべり(臆病)」「逆さ幹(うそっぱち)」などなど、こういうちょっとしたところが楽しいです。

 人間の話も読まなくてはいけません(笑)
 とはいえ、主人公・司があまりに自主性がなく思えて、美少女アンドロイドでなくても口を出して仕事を片づけてしまいたくなります。
 娯楽小説にこういう言い方は野暮かもしれませんけど、リスの命で贖われる文明の進歩は応援しても、未熟な司の成長ぶりを応援する気になれないんですよね。美少女アンドロイドつくるくらいなら、シミュレーションで訓練積んでから実務に関わって欲しいわ、というところ。

 2巻冒頭、C・Oたちの上層部の会議はまさに神の視点。「天冥の標」シリーズのダダーを思い出したりしますが、こちらはまぎれもなく人間なので、温かさも感じます。


「話しておくれ。ETI(地球外知性)とはどんな人々なのか。彼らと私たちはどう違うのかを。――数字はいらない。姿と、手触りをだ」

 リスたち社会に和解と未来はあるのか? ちゃんと見届けるべく、C・Oたちと一緒に残り2巻を読む予定。
(2012.8.20)


「時砂の王」 ハヤカワ文庫
小川一水 著

   時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)


26世紀の地球は、謎の戦闘機械「ET」によって壊滅させられる。そして、オーヴィルたち人型人工知性体たちは人類の歴史を守るために時間をさかのぼり、いくつもの時間点で戦闘を繰り広げてる。しかし、人類側は常に敗北を喫し、やがてオーヴィルたちは3世紀の日本、邪馬台国へ姿を現した。


 「時間を遡って、歴史を変えてはいけない」という決まりを前提にしたお話しか読んだことがなかったと思う。なので、歴史を変えることで人類に道を見出そうという発想が面白かった。そして、それゆえに生まれるオーヴィルたちの悲哀――つまり、過去で歴史を変えたことで、未来において持っていた自分の故郷を失ってしまう、ということ。そうやって、別れていった人(というか、存在しなくなった)人を思う人工知性体たちの姿が何ともせつないです。

 最後に彼らが迎えた結末には、「え、それですか?」と正直とまどわないでもなかったですが。
 生き残って、生き続けていく彌与たち、その子孫たちの姿には、やっぱりこれしかないハッピーエンドなのかな、と思ったりしました。
(2011.4.10)


「妙なる技の乙女たち」 ポプラ文庫
小川一水 著

   妙なる技の乙女たち (ポプラ文庫)


東南アジア、赤道直下のリンガ島には宇宙に伸びる「糸」がある。時は2050年。ごく普通の人が旅行や職を求めて宇宙へ向かうような時代の幕開けを告げる、軌道エレベーターをめぐる8つの短編集。

第一話 天上のデザイナー
駆け出しの工業デザイナー・京野歩(すすむ)は、上司から気まぐれに宇宙服のデザインコンペの募集要項を見せられた。人が宇宙に出るようになって長いのに、どうして宇宙服はあんなに重くてダサいんだろう?


 こんな素材で、こんな形の宇宙服にしたら素敵――と考える歩の姿は、空を飛ぶことを夢見た昔の冒険家と似ているのかもしれない。その実現には技術的な困難があることや、「無理だ」と笑って決めつける人間がいることも変わらない。

 歩の渾身の作の評価がどうなったかはさておき、賞金はもうもらったようなもの。つまり、評価。どこにでも乗り込んでいける力を得た、と確信する歩の颯爽とした姿が素敵です。

第二話 港のタクシー艇長
リンガ島の周辺を行き来するタクシー船のようなテンダー。そのスキッパー(艇長)の一人である歌島水央(みずお)の船に、ある日、客としてやってきたのは育ての親であり、リンガの海の治安を守る艦隊のメッツラー将軍だった。彼らの乗る小さな船は海上で事故に遭い、波に揉まれながら港を目指す。


 船がお好きらしい著者の好み全開な感じで楽しい。私も好きです(^^)。でも、メッツラー将軍を「提督」と呼ばないのは、私企業だからなのかな。提督の方が好きなんだけどなー。ちぇっ。

 海と船が好きで同業者の揶揄にもめげない水央。そして、それを「女だてらにスキッパーなぞ」と渋面をするメッツラー。二人はぎこちなく口げんか、意地の張り合いをしながら危機を乗り切ります。
 気がついたのだけど。この話は宇宙とは何の関係もないのですね。でも、未知の宇宙を漕ぎ渡る心意気みたいなものが一番強く感じられた話でした。

第三話 楽園の島、売ります
宇宙産業の一大拠点として発展するリンガ島。そこで、高級リゾート地を開発、販売するのが株式会社ヴァージナイル――幡守香奈江と生物科学者であるルクレース・マッキンデールだった。ある日、顧客に見学させていた島で、ルクレースは一匹の蛾を見つけた。


「新種じゃなかったわ。多分、新属よ」
「なんですって?」


 ヴァージナイルは大口の契約を結んだが、その後になってとんでもない事実が明らかになった。顧客には単に別荘を持ちたい、という以上の大きな野望を抱いていた。しかも、生臭い類の野望だ。香奈江のビジネスは、環境保護という観点からすれば法の裏をぎりぎりでくぐるようなスリリングなもの。しかし、利益のために何でもするような汚さはなく、地元民とも良好な関係を築いてきた。

 自分に納得のいく方法で、社員と取引先の利益を守るにはどうしたらいいか――これは、香奈江のプライドと良心を賭けた戦いなんですね。

第四話 セハット・デイケア保育日誌
これといって特技も資格もなく、何となくリンガへやってきて、保育所セハット・デイで職を見つけ、何となく居ついてしまった阪奈麻子。そこに、身元不明の不思議な子供がやってきた。言葉づかいも身のこなしも風変わりな、天使のように可愛らしい少年の正体は?


 他のお話はばりばりと仕事をこなす女性ばかりなのですが、この麻子(ニックネームはハンナ)だけはいい感じでゆるく、やわらかく異国にとけ込んでいて、いい読み心地でした。
 ゆるい、といっても、いいかげんではありません。いろんな国の、いろんな習慣の子供たちを、それぞれに合うやり方で育てている。きちんと決めるところは決める女性なのです。

 他の話の感想とも重なりますが。
 あと何年か、何十年か経つと、日本人もこんなふうにするっと海外に出て働くようになるのかしら、と夢を抱きます。異文化の中で「こうしたい」「あれが素敵」「ここは譲れない」と言うのは、女性の方が得意そう。だから、この本はみんな女性の物語ばかりなのかな、と思ったりします。

第五話 Lift me to the Moon
軌道エレベーターによって、人はたった10時間で宇宙港まで上がることができるようになった。旅客機のような、長距離列車のようなこのエレベーターに犬井麦穂はアテンダントとして乗り込んだ。


 謎を抱えているらしい麦穂の目を通して宇宙旅行の客室が描かれます。
 宇宙へいくことが一応誰でも可能になったとはいえ、価格はまだまだ高いらしい。裕福な老人の旅行者もいれば、チケットを得るために年収をはたいた労働者もいる。そして、乗客以上に宇宙に夢を抱いている麦穂が隠していたこととは――。

 ちょうど風邪をひいていたので、ウェルカムドリンク「卵酒」を手に楽しみました。

第六話 あなたに捧げる、この腕を
人の手ではなく、機械のアームを操ってできた作品は芸術なのか、それとも単に技術の集積にすぎないのか? 芸術界に論争を巻き起こしたArm Art のアーティスト・鹿沼里径(さとみ)のもとに大きな仕事が舞い込んできた。インドネシア政府の惑星探査船の船首像の依頼だった。


 人力ではとうてい削りも彫りもできない岩や金属を素材に作品を作り出す里径の凛としたプライド、制作にかける真摯なまなざしが見えるような清々しいお話でした。

 その彼女と、分野は違えども似たような悩みを持つインドネシア政府の役人・ダンスタンとの出会いが新しい芸術を作り出します。船首像とはどんな風につくったらいいのだろう、と考える里径が仕事を受けると決めた時の言葉が面白いです。

「なんだ。別に宇宙船の勉強をしなくても、あの人が喜ぶような形にすればいいのか」

 ずいぶん思い切った考え方。でも見る人の心をつかむような完成作品に行きつくための、これは最短で冴えたやり方なのかもしれない。
 第一話の京野歩とハキム君に再会できたのも嬉しい。

第七話 The Lifestyle of Human-beings at Space
 リンガの軌道エレベーターを建築した巨大企業CANTECに入社して半年あまり、歌島美旗(みき)は与えられた単純な書類仕事に飽き飽きしていた。そんなある日、突然会社のCEOから呼び出しを受け、新規プロジェクトに配属された。与えらえた課題は「宇宙食の開発」。それを出発地点にして美旗の夢は広がり続ける。


「どうすればうまいものが食えると思う? オイスターソースも、中華鍋も、採れたてのアスパラガスもない、地球から40万キロ離れた観測所で」

 それは難しい……。
 どんなルートで、どんな輸送方法で食べ物を運ぶか、といった議論をチームで深めながらも、美旗の頭からは根本的な疑問が消えない――宇宙開発は地に足のつかない、一時的なムーブメントにすぎないのではないの? 
 その答えを探しに、美旗はなんと実際に宇宙に出かけていく。

 どうして、何故、という疑問を持ち、答えをまっすぐに探していったら、いつのまにか宇宙に居た、という感じの美旗の勢いにわくわくしてしまいます。おや、と思ったら第二話の歌島水央の娘という設定なんですね。彼女に目を留め、声をかけたCEOのマダム・アリッサ・ハービンジャーの眼力に脱帽です。そして――。

第八話 宇宙でいちばん丈夫な糸
―The Ladies who have amazing skills at 2030―
カリフォルニアの人里離れた丘の上に、一人の男が住んでいた。バンブラスキ・チーズヘッドという変わった名前の彼こそ、世界の企業や技術者が注目するカーボンナノチューブ繊維の生成方法の発明者だった。しかし、彼はその技術を決してどこの企業にも使わせようとしない。彼を説得するために一人で自動車を飛ばしてやってきたのは、CANTEC社の技術部長・アリッサだった。のちにCANTECのCEOとなるマダム・アリッサ・ハービンジャーの若き日の物語。書き下ろし短編。

 20世紀のうちに新しい繊維素材として発見されていた究極の繊維素材であるカーボンナノチューブ。この材料で作った太さ1cmのロープならリニア新幹線を3編成は吊り上げられる、という桁はずれに丈夫な「糸」になるはず。しかし、実際に繊維状にする技術は2030年、バンブラスキの登場を待たなければならなかった。

 ……という世界の注目の的であるバンブラスキの不機嫌そうな(笑)ひとことがこれ。

「君たちエレベーター屋は必ずあの木を誉める。同じアヒルから生まれたヒナみたいにそろってピーピー言う。そんなに高いものが好きか? そんなに宇宙に行きたいか? 僕にはそんな価値観はわからん」

 しかし、これにもめげないアリッサの粘りと用意周到さには脱帽です。でも、バンブラスキが心を動かされたほんとうのきっかけは何だったんだろうな、と思う。
 常に新しい技術を「使わせる」「認める」「許可する」側だった彼が、自分のCNTに命を救われた時に、そこに居たアリッサの描く未来を共有できたのではないかな、と思いました。

 このお話から約20年後に、他の7編のお話がつながるのですね。バンブラスキなら彼女らの夢と活躍をどう見ていたのかな、と想像するのも楽しいです。

(2011.6.12)


「天涯の砦」 ハヤカワ文庫
小川一水 著

   天涯の砦 (ハヤカワ文庫JA)


21世紀後半、人類は植民天体となった月を足がかりに本格的に宇宙進出しようとしていた。「望天」は移住者や旅行者でにぎわう巨大な宇宙施設。その望天で爆発事故が起きた。壊滅状態となった望天とそこに接続していた月往還船の生存者はわずか数名。真空と無重力の中で、彼らのサバイバルがはじまる。

 たくさんの客でにぎわう宇宙施設で起きた、まさかの大事故。生き残ったのは一般客と宇宙航行は専門外の職員、という恐ろしい状況。無重力、限られた酸素の中でどうすれば人間が生きのびられるのか。極限状態を緻密に考えて書かれてあり、映像を見るようにストーリーに入り込んで読めました。またしても、技術のことはわからなかったけど(笑)、とても面白かったです。

 時々、冷ややかなユーモアの混ざる文章は、望天の廃墟の風景とぴったりでぞくりとします。また、登場人物それぞれの恐怖や怒り、安堵が細やかに描かれていて嬉しい。この著者の本は淡々とした文章だけど、人間を見る目は温かい、といつも思います。

 印象にのこるキャラクターは田窪医師、かな。ちょっと尊大で嫌な奴だと思わないでもないですが。それでも、犬のベテルギウスを家族同然に見る視線、キトゥンや功のようにふらふらした子供に一本筋を通すような大人の態度がいい味でした。
(2011.5.10)

 

「青い星まで飛んでいけ」 ハヤカワ文庫
小川一水 著

    青い星まで飛んでいけ (ハヤカワ文庫JA)

彗星都市での生活に閉塞感を抱く少女と、緩衝林を守る不思議な少年の交流を描く「都市彗星のサエ」。“祈りの力で育つ”という触れ込みで流行した謎の植物をめぐる、彼と彼女のひと冬の物語「グラスハートが割れないように」など6編の短編集。

都市彗星のサエ
グラスハートが割れないように
静寂に満ちていく潮
占職術師の希望
守るべき肌
青い星まで飛んでいけ


 「けっこうハードな設定のSF」などと聞いていたので、どきどきしながら手に取りました。最初の4編は楽しく読了。あとの二作は案の定、すみません、読めませんでした。

 面白かったのは「都市彗星のサエ」。
 氷を切り出して、カタパルトで宇宙へ放出する、という方法で水資源を輸出している都市彗星バラマンディ。小さな都市でたくさんの人間が生きるために、社会的身分や習慣が細かく規定されている管理社会らしい。
 その息苦しさの中、少年ジョージィと出会ったことで、ごく普通の少女だったサエが変わっていきます。
 ボーイ・ミーツ……いや、サエちゃんが主人公だからガール・ミーツ・ボーイだな。両親のもとでのんびり暮らしていた少女にとっては、ジョージィとの出逢いは相当にショックだったはず。
 文字通り、どこかへ「ぶっとんで」行ってしまう男の子を追いかけていくことになるサエの、その後のお話も読んでみたいものです。からっと爽やかで楽しかったです。

 それにしても、これほどテイストの違う短編をどうして一冊に収めたのかなあ。
(2011.10.10)


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