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SF小説 7

 

「天冥の標 Y 宿怨 PART1」 ハヤカワ文庫
小川一水 著

   天冥の標6 宿怨 PART1 (ハヤカワ文庫JA)

西暦2499年、人工宇宙島群スカイシー3で遭難した《救世群》の少女イサリは、《非 染者》の少年アイネイアに助けられた。二人は、氷雪のシリンダー世界を脱出するた めの冒険行に出発するが――。一方、太陽系世界を支配するロイズ非分極保険社団傘下の、MHD社筆頭執行責任者ジェズベルは、近年、反体制活動を活発化させる《救世群》に対し、根本的な方針変更を決断しようとしていた。


 この巻から、既刊分の年表とキーワード一覧がついてました。ありがたや。早速大活躍です(笑)
「メニー・メニー・シープ」まではまだ300年くらいかかるようですが、「これが、ああなるのかな?」と想像できるようになり、格段に面白くなった巻でした。

 ますます巨大化したロイズの世界に対する影響力がうっすら感じられるよう。MHDってロイズの子会社だよね、それでこの業務? 前の巻から出てきたミールストーム社もあらためて気になってきました。

 そして、久々という感のある救世群の人たち。
 冥王斑患者であるために非感染者から疎まれ、あらゆる権利を奪われた人々が生き延びるために作り出した社会――その「歴史」が語られています。もちろん、既刊でも救世群の姿は描かれているのですが、彼らが意識的に作り上げ、重ねあげてきた文化(と言っていいとそろそろ思う)が複雑に絡みあい、一気に膨張するように動き出した、という感じがしました。彼らはいったいどこへ行くのか。何になるのか。

 ところで、スカイシーは「メニー〜」の時代にはどうなってしまったのでしょうね。もちろん、物語の舞台がまったく違うから描かれなかったのだと思いますが……いや、あれだけ馬鹿でかいものが宇宙にぷかぷか浮かんでいたら、事だなあ、と思ったのでした。

 あいかわらずスピード感があって、いい読後感でした。
 まっすぐな気質が爽やかなアイネイア。ごく普通の少女でありながら重い運命を背負っているらしいイサリとミヒル姉妹。少年少女が活躍する設定ではほんとうに面白く書き切ってくれる作者さんだ、とあらためて思います。
 そして、<酸素いらず>たちの遠大な計画はどうなるか。そこに<救世群>がどう絡んでくるのか――PART2が楽しみですよ。
(2012.5.28)


「天冥の標 Y 宿怨 PART2」 ハヤカワ文庫
小川一水 著

   天冥の標6 宿怨 PART 2 (ハヤカワ文庫JA)


太陽系世界の均一化をめざすロイズ非分極保険社団に対して、《救世群(プラクティス)》副議長ロサリオ・クルメーロは、同胞に硬殻化を施して強硬路線を推し進める。その背後には密かに太陽系を訪れていたカルミアンの強大なテクノロジーの恩恵があった。いっぽうセレス・シティの少年アイネイアは、人類初の恒星船ジニ号の乗組員に選ばれ、3年後の出航を前に訓練の日々を送っていたが……。


 急展開の巻でした。ああ、やっちゃったな、プラクティス(涙)

 自分たちの主権国家を持ちたい、移動の自由が欲しい――これだけを平和的に手に入れようとした者たちの努力もむなしく、プラクティスたちは社会から再び拒絶されてしまう。
 ある意味、すでにわかっていたことが今回は我慢ならなかったのは、非染者と事をかまえるだけの技術を手に入れてしまったからかもしれない。長い、長い時間にたまっていた怨みと怒りに駆り立てられて、ついにプラクティスと非染者との戦争が始まってしまった。Part3まで続くようですが、どちらが勝っても充足感などないでしょうね。

 それにしても、プラクティスと非染者は共存できるはず。それだけの技術が非染者にはあるのだから。それを誰よりもよく知っているはずのMHD社の幹部ジェズベルには、どうやら企てがあるらしい。
 ジェズベルの息子アイネイアは無事に自分の船に乗り組むことができるんだろうか。その、ばかでかいシロモノまで持って行くってことはないよね?
 全てが動き出す前にアイネイアとイサリが再会できてよかったです。それぞれがまだ自分自身であるうちに。

 さて、異星生物カルミアンの高度な技術がついに人類にもたらされた訳だけれど、どうやらおまけもついていたようです。余計なおせっかいだよ……というところで終わり。次は! 次の巻はいつですかね!?
(2012.9.10)


「天冥の標 Y 宿怨 PART3」 ハヤカワ文庫
小川一水 著

   天冥の標 6 宿怨 PART3 (ハヤカワ文庫JA)


西暦2502年、異星人カルミアンの強大なテクノロジーにより、《救世群(プラクティス)》は全同胞の硬殻化を実施、ついに人類に対して宣戦を布告した。准将オガシ率いるブラス・ウォッチ艦隊の地球侵攻に対抗すべく、ロイズ側は太陽系艦隊(システムフリート)の派遣を決定。激動の一途を辿る太陽系情勢は、恒星船ジニ号に乗り組むセレスの少年アイネイア、そして人類との共存を望む《救世群(プラクティス)》の少女イサリの運命をも、大きく変転させていく。


 うわー、どうするんですか、これ。という事態になっております。うわー。

 失礼しました。
 カルミアンの余計なおせっかいで、先行きへの希望を失いかけ、戦況も次第に翳っていく。救世群(プラクティス)たちにはどこまでも安住の地はない。そして、冥王斑という不治の病が生まれた理由が明らかにされたことで、彼らの絶望も本物になってしまいました。救いようのない絶望、そして、変貌。

 今回、一番読みごたえがあったのは、一枚岩にみえた救世群(プラクティス)の中にもさまざまな意見があり、さまざまな思いを持つ人がいたことが目に見えた点でした。
 総督としてパラスへやってきた救世群の一人、シュタンドーレとパナストロ政府の大臣ブレイド・ヴァンディの対話が成ったことは、メララやアイネイアたちへの希望にもなりましたが、ちょっと切なくもありました。巫議たちがもうちょっとしっかりしていたら、別の未来もありえたんじゃないかとさえ思えたので。絶対的な悪や善なんてない。救世群も非染者も、その論理と行動によって問われるだけなのだと。

 そろそろ「メニーメニー〜」とのつながりがうっすら感じられるようになってきました。オガシの変容、イサリの未来を思うと、続きのエピソードを読むのが楽しみのような、怖いような。新世界ですよ、次は。うわー。
(2013.2.12)


「天冥の標 Z 新世界ハーブC」 ハヤカワ文庫
小川一水 著

   天冥の標VII 新世界ハーブC (ハヤカワ文庫JA)


“救世群”が太陽系全域へと撤いた冥王斑原種により、人類社会は死滅しようとしていた。シェパード号によって“救世群”のもとから逃れたアイネイア・セアキは、辿りついた恒星船ジニ号でミゲラ・マーガスと再会する。しかし混乱する状況のなかジニ号は小惑星セレスに墜落、かろうじて生き残ったアイネイアとミゲラは、他の生存者を求めてセレス・シティへと通信を送るのだったが――。


 <救世群>との戦争によって人類はほぼ死滅した。生き残った人類は五万余人、そのほとんどが未成年という衝撃的な状況から物語は始まります。

 アイネイアたちは仲間と再会し、たった数人の連帯感を軸に人々をまとめ、生きていくことになってしまった。一番最初の目標は「十四日間、生き抜こう」――それが、どれだけ長くなってしまったことか。
「宿怨 part1」の感想で、少年少女の活躍を描くのがうまい、と書きましたが、少し違うのかな。人の成長と変化のお話がうまい、というべきかもしれない。それくらい長い期間の物語が描かれています。

 スカウト仲間は試行錯誤して新しい社会を作っていきます。しかし、社会構造が整っていくと、そこからこぼれ落ちる人々も必ずいる。やがて、政権交代劇は避けられない状況に。地下施設ブラックチェンバーを統べる政治形態も、専制政治から民主政治へ変化していきます。これが「メニー・メニー・シープ」で描かれた専制政治に戻っていくのかと思うと、それも皮肉で面白い。

 登場人物で印象的だったのは、サンドラかな。
「できない」ところへ私は行くの、という彼女が、急激に進化するチェンバーから締め出された人たちの希望になったのは、当然かもしれない。でも、彼女はただ優しいだけの女ではなかったですね。アイネイアを、さらにダダーまでを利用して生き抜こうとするしたたかさに参りました。

 まるで、地平線から太陽がのぼってくるのを眺めるように、「メニー・メニー・シープ」とのつながりが見えてきました。
 甲板長の権限の出所、のんびり草を食む羊たち、<海の一統>と首都との決別、石工たちの役割とは? そして、何より<拡散時代>って……! うわー、ほんとうですか?!

 そして、羊飼いたちがひっそりと、でもしたたかに受け継いでいくものが、どのように未来を変えたのか――続きが気になります。
(2013.12.30)


「天冥の標 [ 
ジャイアント・アーク PART1」
ハヤカワ文庫
小川一水 著

   天冥の標VIII ジャイアント・アークPART1 (ハヤカワ文庫JA)


「起きて、イサリ。奴らは撃ってきた。静かにさせましょう」―いつとも、どことも知れぬ閉鎖空間でイサリは意識を取り戻した。ようやく対面を果たしたミヒルは敵との戦いが最終段階を迎えていることを告げ、イサリに侮蔑の視線を向けるばかりだった。絶望に打ちひしがれるイサリに、監視者のひとりがささやきかける―「人間の生き残りが、まだいるかもしれないのです」。


 異形となった救世群<プラクティス>も人類の生き残りも、大きく変化してしまいました。
 前巻で生き残った人類が若者ばかりであったため、大人の知識や経験値は失われ、技術はすべてブラックボックスに。芸術や実用性の薄い学問も霧散してしまう。そして、ここ惑星ハーブCが宇宙開拓の潮流から離れた孤島であるという伝説が歴史として伝えられ、浸透する――。

 ――とうとう、「メニー・メニー・シープ」につながりましたよ。いや、長かったですね。

 あの時、セナーセーで起こった出来事を、今度はイサリの視点から見直すように物語は進みます。いやー、しっかり騙されていました。

 イサリは救世群<プラクティス>たちから離れ、人間との対話のきっかけを探して地上に来てカドムたちと出会う。一方、厳しい電力制限に苦しむ市民の怒りはついに政府へ向けられ、各地で反乱が起きた。代々の「領主」によって何が地底に封じられているかも知らず――。
 あとから見ると、カドムの思案は的外れだし。いいところを突いていたかと思ったアクリラもやっぱり勘違いしていたんですね。

「太陽」が失われ、地獄のフタがぱっくり開いて、中から羽のある怪物が現れる――。終末感が深まってきて、行方不明だった人、行方をくらました人のことが気になります。

 また、山登りでひと休みして足元を見下ろすようにここまでを俯瞰してみると、ダダーやミスチフ、オムニフロラという一段階大きなスケールでも物語の展開部に差し掛かった気がします。一度「〜百掬の銀河」あたりから読みなおしてみないと。

 にっけ的には、スカイシーのその後、そして「メニー〜」読了時から心配だった『シェパード号の権限のありか』が物語にどう絡まるか(あるいは、まったく見当はずれであったか)に注目してます。
(2014.5.31)


「天冥の標 [ 
ジャイアント・アーク PART2」
ハヤカワ文庫
小川一水 著

   天冥の標VIII ジャイアント・アーク PART2 (ハヤカワ文庫JA)


西暦2803年、メニー・メニー・シープから光は失われ、邪悪なる“咀嚼者”の侵入により平和は潰えた。絶望のうちに傷ついたカドムは、イサリ、ラゴスらとともに遙かな地へと旅立つ。いっぽう新民主政府大統領となったエランカは、メニー・メニー・シープ再興に向けた苛酷な道へと踏み出していく。そして瀕死の重傷を負ったアクリラは、予想もせぬカヨとの再会を果たすが。


 世界は世界でなく、そこは植民地ではなく、セレスの地下だった。空は「天井」だった――。

 何もかもがひっくりかえってしまった中、“咀嚼者”と戦い、避難民を助け、政府を建てて世界を再建しようとするエランカたちの姿に「 新世界ハーブC 」で描かれたスカウトたちの奮闘が思い出されました。あの子たちのつくった世界が300年後にこうなった――変わらないなあ、と思ったり、よくぞこんなに変わった、と考えたりもします。

 そして、メニー・メニー・シープの「天井」と「空」をめざすカドムたち一行の旅を読む間、少しずつ世界の見え方が変わってきました。あまりに壮大でシステマチックな計画で、これにはラゴスも噛んでいるらしい。この建築物語を別に読みたくなるくらいユニークですね。
 無機質な塔を登りつめると、水と泥と植物がはびこる天井階。その違いにはっとしました。これはセレスのどこかしら、と既刊の風景を思い出すのは楽しかった。
 イサリが思い出のリンゴと再会する場面にはじんわりきました。思えば、あのスカウトたちとイサリの出会いからすべて始まったのかもしれない。あの友情と信頼、敬意に結ばれた世界は再び戻ってくるんだろうか。

 どうやらこの世界を見守っていたらしい助さん格さん……みたいな二人組にも注目。メニーメニーシープの外では世界はどうなっていたんでしょう。あと2話(冊数はわかりませんが)で物語は終わるらしい。物語世界は収束……するんでしょうか。続きが楽しみです。
(2015.1.17)


「天冥の標 \ 
ヒトであるヒトとないヒトと PART1」
ハヤカワ文庫
小川一水 著

   天冥の標IX PART1──ヒトであるヒトとないヒトと (ハヤカワ文庫)


カドム、イサリらは、ラゴスの記憶を取り戻すべく、セレスの地表に横たわるというシェパード号をめざしていた。それは、メニー・メニー・シープ世界成立の 歴史をたどる旅でもあった。しかし、かつてのセレス・シティの廃墟に到達した彼らを、倫理兵器たる人型機械の群れが襲う。いっぽう、新民主政府大統領のエ ランカは、スキットルら“恋人たち”の協力も得て、“救世群”への反転攻勢に転ずるが……。

 「宿怨」と「新世界〜」で壮大なスケールにふくらんだ話が、またさらに大きくなってしまった。もう、私の頭ではついていけません! セレスでついていくけど。

 カルミアン、救世群(プラクティス)、政府要人たち、とそれぞれの事情が書かれていますが、やっぱり私はカドムたち一行の旅が一番気になりました。立場も出自も性格もばらばらなメンバーが、まだ信用はしきれないながらも互いを見ながら進んでいく様子がいいのです。その中心にいるカドムが何故こうもおおらかなのか、その生い立ちにもさらりと触れられていたのが嬉しい。
 そして、スケールアップした話の中で、救世群(プラクティス)のところに戻るというイサリがどんな役割を演じることになるのか、続きが気になります。ついでに、蟻んこ(と思い描く)の親玉・超ミスン族の総女王のうさんくささも。

 さて、1巻から気になっていた艦長権限の伏線が生きているようで嬉しい。もっともっと生きるといいのだけど!

 これまでたっぷりと驚かされた経緯からすると、やっぱりもう一回最初から読み直しておいた方がいいかもしれません。
(2016.1.17)


「天冥の標 \ 
ヒトであるヒトとないヒトと PART2」
ハヤカワ文庫
小川一水 著

   天冥の標IX PART2 ヒトであるヒトとないヒトと(ハヤカワ文庫JA)


セレス地表で世界の真実を知ったカドムら一行は、再会したアクリラとともにメニー・メニー・シープへの帰還を果たした。そこでは新政府大統領のエランカが、《救世群》との死闘を繰り広げつつ議会を解散、新たな統治の道を探ろうとしていた。いっぽうカドムらと別れ、《救世群》のハニカムで宥和の道を探るイサリにも意外な出会いが――。

 宇宙で行われている戦争の渦中に、何も知らないまま、よろよろと迷い込もうとしているセレスの人々。大事を前に、彼らと《救世群》の和解を進めるためにイサリはかつての仲間の元へ帰る。そして、カドムは新政府と協力しながら、市民と《救世群》とが共に生きられる方法を探る。

 あまりに大きな難題に取り組みはじめた、カドム、イサリ、アクリラ。そして、エランカやエフェーミアたち。
 ふと気づいて、面白いなと思ったのですが、彼らのほとんどはなんらかの改造された人間。自ら望んだか、そうでないか、事情はさまざまですが、『ヒト』の定義が広がった世界になったんですね。それでいて、物語をほんとうに動かしているのは、いかにも『ヒト』らしい心根や情愛なのです。それがこの数巻で際立ってきたように思えます。ことに、エフェーミアとシュタンドーレの絆はこれほどまで深いものだったのか、と。「宿怨」を読んだ時にはわかりませんでした。

 ミスチフ、ダダーと比べてのサイズ感(?)がわかりませんが、今回巻末ではやたらにばかでかい、気の長い種族・?族も登場。もう大きいことには驚きませんが、いや、驚くべきことですが! ますます、スケールアップしていて、日常感覚がどうにかなりそう。
 そんな大渦の中で、ちっぽけな『ヒト』に何ができるのか、エフェーミアが「手に持った」と感じたものが、どう成長していくのかが楽しみです。

 長い、長い物語もここまで来たんですね。次回からは最終章「青葉よ、豊かなれ」とのこと。あのちょっとダサめの青葉ちゃんを思い出します。あと何冊楽しめるのかしら、と今から少し寂しい気持ちになってます。
(2016.11.6)


「天冥の標 ] 
青葉よ、豊かなれ PART1」
ハヤカワ文庫
小川一水 著

  天冥の標X 青葉よ、豊かなれ PART1 (ハヤカワ文庫JA)


女王ミヒルを駆逐したメニー・メニー・シープは、ついに《救世群》との和平を成し遂げる。太陽系から合流した二惑星天体連合軍(2PA)とともにカルミアンの母星に到達したセレスだったが、そこには超銀河団諸族の巨大艦隊が待ち受けていた。果たして彼らの狙いとは? カドム、イサリ、アクリラらは、メニー・メニー・シープの未来を求めて苦闘するが――。

 とうとう最終部に入ったそうです。うう、悲しい。
 シリーズを振り返るようなかたちで、懐かしい面々が登場してきて嬉しかった。それにしても、チカヤさんの時代まで戻るとは思いませんでした。
 続きの巻がまもなく発売らしいので、物語の終着についてはもう少し読んでから書こうと思いますが。。。。

 あの懐かしい青葉ちゃんの言葉がチカヤの人生を支えていたことがわかってホロリとします。ですが、その言葉を《救世群》はのちの世代にまでは伝え継がなかった、あるいは現実とのギャップに苦しんで忘れさってしまったのか――。

 この複雑に絡んだ状況を描く最終章の始まりがチカヤの孫ダイアであり、思いのほか存在感を持って描かれていることが気になる。彼女が掴んだ《救世群》と非染者の理解の小さな芽が育ったのか、育たなかったのか?

 次の発売日が楽しみです。
(2019.1.4)

 

「天冥の標 ] 
青葉よ、豊かなれ PART2」「PART3」
ハヤカワ文庫
小川一水 著

  天冥の標] 青葉よ、豊かなれ PART2 (ハヤカワ文庫JA)

  天冥の標X 青葉よ、豊かなれ PART3 (ハヤカワ文庫JA)


全宇宙を覆いつつあるオムニフロラを食い止めるべく、カルミアンの総女王オンネキッツは、人工的な超新星爆発を起こそうとしていた。それに対抗する超銀河団諸族の巨大艦隊の真っ只中へと到達したセレスだったが、その内部ではMMS、“救世群”、2PAの連合軍が、状況を打開する鍵となるドロテアへの進攻を開始していた。それは、姉であるイサリの指揮の下、太陽系を滅ぼした仇敵ミヒルを討ち取ることを意味していた。メニー・メニー・シープという人類の箱舟を舞台にした、“救世群”たちとアウレーリア一統の末裔、そして機械じかけの子息たちの物語は、ここに大団円を迎える。

 終ってしまった、と呆然。でも、ああ終わりまで読めてよかった、とちょっと涙目でした。

 パンデミックにはじまるUから、長い時を越えてTへつながり、さらにさらに大きな宇宙へ広がる物語――と短く括るにはあまりにいろいろあり過ぎたけど。それでも最後には幸福と希望にたどり着いた。

 頭はまだ混乱しているし、超新星爆発なんて読み返しても多分わからないので申し訳ないのですが。私にとってのこの物語は「あれもこれもいいじゃない、ともあれ皆元気です」(なんだかジブリのキャッチコピーのようだ)。

 少ししか登場しないキャラクターふくめて、皆が汗水流して涙を拭きながらせっせと行く道を歩いている姿が好きでした。例えば、アダムス、ザリーカ、シュタンドーレ、サンドラ――。Part1のダイアはその後は登場しなかったけれど、あの子はどう生きて死んだのだろう。そんな風に気になるんですよね。

 さらに、同じ気持ちで人類以外の生物を眺めることになった最終章は圧巻。話の大きさに完全に置いて行かれました。Part2からの多種族百花繚乱の描きぶりは著者らしいですよね。もはや「異星人」とは言わないんだなあ。
 途中の巻の感想でも書きましたが、人類がすでにすっかり変わってしまった。読者と同じ身体の人間はマジョリティではなくて、多種多様な生物のごく一部にすぎないことがあっさり軽やかに描かれています。それがまた良し、という感じでした。

 その中で、一番大きな変貌を遂げたのはアクリラ。とうとうそんな存在になっちゃいましたか。
もともと身体よりも気持ちの在り方を大事にするキャラクターだと思っていたので、見込まれる(?)のも当然だったのかも。
 彼の変容を読みながら、幾度も「2001年 宇宙の旅」を思い出しました。

 かの「宇宙の旅」シリーズと肩を並べるくらい壮大なSFシリーズと言っていいよね。こんなに遠くまで連れてきてくれてありがとう。
(2019.4.4)


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