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推理小説 4

 

コクと深みの名推理1
「名探偵のコーヒーのいれ方」
ランダムハウス講談社
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

   名探偵のコーヒーのいれ方 コクと深みの名推理1 (ランダムハウス講談社文庫)


原題「On what grounds」。完璧なコーヒーをいれたいなら、絶対に手を抜いてはだめ。そして事件の謎に立ち向かう時も。NYの老舗コーヒーハウスを切り盛りするクレアがその朝、店で発見したのは、芳ばしい香りでなく階段から転落した店員の姿。警察は事故と判断したが、不審に思ったクレアは捜査に乗り出した。

 また別のコージーミステリーを読んでみました。
 コーヒーとお菓子の作り方レシピがついているところは「コージー」なんですが、きりっとした印象なのはN.Yの都会が舞台だからか、本格コーヒーが登場するからか、もしくは老舗店「ビレッジブレンド」のマダムの品格のおかげか。なかなか楽しかったです。

 娘は独り立ちし、夫とは別れて、コーヒー評論を雑誌に書いていたクレアは、以前に勤めたビレッジブレンドのマダムから「店のパートナー経営者になって欲しい」と乞われてN.Yへ。ある朝、出勤して倒れた店員アナベルを見つけ、警察の聴取を受けている時に元・夫でマダムの息子であるマテオを嬉しくない再会をする。警察はアナベルの転落を事故と考えるが、そうは思えないクレアは自力で犯人を見つけようとアナベルが通っていたダンススタジオに向かう。

 手軽なテイクアウトコーヒーではあるけれど、一杯ずつ味にこだわりを持って淹れ、店の内装は古き良きアメリカの雰囲気――スター○ックスより少し古風なお店かな、と想像しています。そこを舞台に、アナベルの周辺の人やビレッジブレンドの前マネージャーとのトラブル、クレアとマダムの絆などが語られていて飽きさせません。

 また、あの9.11の日に不眠不休で救助活動をする人たちのためにコーヒーを作り続けた、というエピソードも。原書は2003年出版、あの日からわずか2年後ほどしか経っていない時にこういうエピソードを小説に書くのは勇気が要ったのではないかと思うのだけど、作者が見聞きしたことなんだろうか?

 しかし、コージーミステリーのお決まりらしいロマンスはあってもなくても良い気がして(おい)。元・夫マテオと警部補クィンとの間で揺れているクレアの気持ちはさっぱりわかりません。妻子持ちでもクィンの方が頼りになるじゃないですか。どうせなら、ただの砂糖やミルク以上の必然性が欲しかったな。
 でも、少しほろ苦めでさばさばとした雰囲気が気に入ったので、続けて読んでみたいです。
(2015.2.6)


コクと深みの名推理2
「事件の後はカプチーノ」
ランダムハウス講談社
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

   事件の後はカプチーノ (コクと深みの名推理 2) (ランダムハウス講談社文庫)


原題「Through the Grinder」。肌寒い秋は、恋と温かいコーヒーの季節―新しい出会いを求める一人娘を案じ、クレアは苦手なお見合いパーティに同席することに。ところが、恋に落ちたのは娘ではなくクレアのほう。そのお相手は知的で、コーヒー好きな紳士。けれども彼には連続殺人事件の容疑がかかっていることを知って――。

 アマゾンの内容紹介文はまるでハーレクインロマンスみたいですが、もうちょっとミステリ仕立てです、多分(とフォロー)。
 ニューヨークの片隅で起こった死亡事故、自殺、交通事故。しかし、それが「ひょっとしたら、事故ではないのかも」そうクレアが気づいたところから推理が始まります。他の巻もですが、断章のように書かれる犯人のモノローグが絶妙に登場人物の行動とからんでいて面白い。

 今回の巻では、クィンの複雑な家庭事情やクレアのかなり本気なラブストーリーも書かれています。また、ビレッジブレンドの頼もしいバリスタ、タッカーとエスターたちを眺めるクレアの目が温かくて、ほっとします。

 タッカーは、どんなに黒い雲でも裏側は太陽に照らされて輝いていると考える人だけど、エスターは無理矢理にでも雷を探すタイプだ。


 コーヒーの薀蓄は長く「冷めるから早く飲みましょう」と思うのはいつも通り。クレアの推理は今回はまったく当たらず、本人の身も危険に晒されるのですが、面白かった。私も最後まで犯人がわからないヘボ読者でした。
(2015.4.30)


コクと深みの名推理3
「秋のカフェ・ラテ事件」
ランダムハウス講談社
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

   秋のカフェ・ラテ事件 (コクと深みの名推理 3) (ランダムハウス講談社文庫)


原題「Latte Trouble」。コーヒーの優しい茶色にホイップクリームの柔らかな白色―老舗コーヒーハウスの名物ラテに感動したデザイナーが作ったジュエリーは、コーヒーがテーマ。これがこの秋大流行に!新作披露会場になったコーヒーハウスでは華やかなモデルが闊歩する中、店主クレアもラテを振る舞うのに大忙し。そんな時、ラテを口にした男性が急死したから、さあ大変。贅沢でクリーミーな名物ラテが、ファッション界に大騒動を巻き起こす。

 一冊飛ばして読みました。……何故か面白いんですよね。「元・旦那とちょっと気になるヨレヨレ男の間でゆれる女心」とか「こんな事件が起こったら、普通は営業停止じゃないの」というような、いつも私が抵抗感を感じる点があるにも関わらず、面白いのです。

 華やかな新作ジュエリー発表とビレッジブレンドのコラボイベントの会場でまさかの毒殺事件。犯人の狙いはモデル、あるいはデザイナーか。そして、衆人監視の中でラテに毒を入れるチャンスがあった数人を追ってクレアの活躍が始まるのです。
 犯人探しが二転三転するのは素人探偵だから当然、といえばクレアに怒られそうですが。しかし、新事実をおいかけ、捨て身で容疑者のところに飛び込んでいくうちに、とんでもない犯人像が浮かびあがってきます。後半はまさに意外な展開続きで、目が離せませんでした。いや、こんなことをよく考えつくなあ。

 華々しいファッション業界、セレブのパーティ、そして一転、刑務所とニューヨークのさまざまな顔が描かれるのも魅力のひとつなのだと思います。
 終盤では、クレアと愛娘ジョイが意外なところで顔を合わせており、この後どんな展開だったのかが気になります。とりあえず2巻、そして続きの4巻も読みたいです。
(2015.3.22)


コクと深みの名推理4
「危ない夏のコーヒー・カクテル」
ランダムハウス講談社
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

   危ない夏のコーヒー・カクテル ([コクと深みの名推理4])


原題「Murder Most Frothy」。夏季限定で高級リゾートの出張バリスタをつとめることになったクレア。魅惑的な大人のコーヒー・カクテルで、豪華なパーティーを盛り上げる。うっとりするような花火も終わり、つぎに待ちうけているのは、山のような後片付け。なのに、姿をくらませてしまった頼れるスタッフをさがすうちに、とんでもないものを見つけてしまい……。

 いつものニューヨークを離れ、高級避暑地のハンプトンズを舞台に起きる殺人事件の犯人を追うお話です。ハンプトンズは海外ドラマの「救命医ハンク〜」でおなじみだったので、ドラマで眺めた風景を思い浮かべながら、という珍しい読書になりました。
 ここに住むのは超がつくセレブたち。余り余ったお金をつぎ込んで、わざわざ『使い込んだ築100年の古風な家』を建築し、我を通すことに慣れている……言ってみれば、やっかいな性格の人種。

「彼らは仕事の上ではやり手だ。だから、ここに来られる。月曜から金曜まで他人の上前をはねるようなことをしている人間が、土曜と日曜だけそういうふるまいを封じ込めるのは無理ってことだ」

 そんな町で起きる殺人の理由とは、と考えるところからクレアは行動開始するのです。
 容疑者はいたるところにいるし、動機もレストラン経営、ビジネス上の確執に近隣トラブルといろいろで、なかなか手がかりがつかめないのが面白い。

 舞台や人々の価値観が日常からかけ離れているせいか、どこかリゾート気分でさらっと読み終わりました。
 もっとも、クレアがひと夏の恋に出会ってしまうので、一回しか名前を思い出してもらえなかったクィン警部補が気の毒でなりませんが。
(2015.4.4)


コクと深みの名推理5
「秘密の多いコーヒー豆」
ランダムハウス講談社
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

  秘密の多いコーヒー豆 (コクと深みの名推理 5) (ランダムハウス講談社文庫)


原題「Decaffeinated Corpse」。コーヒーの専門家に言わせれば、カフェインの入っていないコーヒーなんて、ただの水。そうクレアは蔑んでいたけれど、旧友が開発したこのカフェインレス・コーヒー豆の味は別格。三人のバリスタに試飲させても、文句なしのコクと酸味。もし発売が叶えば、必ずや、クレアの店に莫大な利益をもたらしてくれるはず。けれど、商売繁盛どころか幻の豆をめぐる裏取引や密輸、はたまた殺人事件にまで巻きこまれてしまい……。

 この一冊だけ未読でしたが、やっと見つけました。
 過去のクレアとマテオの離婚事情に触れられていて、二人の複雑な関係が少し理解できました。うむ、これは夫が悪い。マテオがクレアを真剣に愛していたのもわかりましたけどね。

 その頃の二人を知る旧友リックが通り魔に襲われた。リックは、カフェインレスコーヒーがブームの中、カフェインを含まない新種のコーヒー豆の開発に成功しており、その権利をめぐるトラブルと思われた。そして、マテオがそのビジネスに関わっていることから、ビレッジブレンドも事件の渦中に置かれることに――。

 その昔、ヨーロッパの人々を熱狂させた新しい飲み物コーヒーは、今もフレーバーコーヒーやカフェインレスという特徴で流行に敏感な人々の心と財布(笑)をつかんでいる、ということが事件の真相に絡んでおりました。世界のコーヒー農家の生産量や植物の特許という現代ならではの事情にも触れられていて、甘たるすぎないコージーミステリという作品のよさも出ています。

 個人的に楽しかったのは、マダムとクレアの追跡劇。コーヒーを愛しているという点で似ている二人は、世代こそ違え(だから流行の捉え方が違うのも当然)、真相を求めてなりふりかまわず突っ込んでいくところも似ているのだとわかりました。だから、マテオがクレアを選んだのか、という気もします。
(2016.12.18)


コクと深みの名推理6
「コーヒーのない四つ星レストラン」
ランダムハウス講談社
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

   コーヒーのない四つ星レストラン (コクと深みの名推理 6) (ランダムハウス講談社文庫)


原題「French Pressed」。“ソランジュ”はニューヨークでも随一の高級フレンチレストラン。料理は、どれも一流の味。そんな大評判の店で娘が料理修行するとなれば、親ならば誇らしいところ。けれど、クレアは素直に喜べない。娘ジョイは、料理長と不倫関係にあるばかりか、店で次々に起こるシェフ殺害事件の容疑者にされてしまったのだ。娘を救うため、クレアは潜入捜査をすることに。

 この巻はどこか物足りなかったなあ。クレアの恋愛事情にページが割かれてしまって、せっかく(?)起きた殺人事件の捜査がなかなか始まらない。導入部でちょっと飽きてしまいました。

 娘のジョイが修行中の高級レストランは、料理は超一流なのにコーヒーが犯罪的なほどまずい。そこで、ビレッジブレンドのコーヒーを売り込みつつ事件の手がかりを得ようという流れには期待したのですが、コーヒーもソランジュでの情報収集もどこか半端なままで後半の謎解きに突入していってしまいました。
 バリスタのエスターとそのロシア人ボーイフレンドのBBガンや、ソランジュで給仕長をつとめるナポレオン・ドルニエなどがいい味の脇役を務めているのに、メインのクレアやマテオがゆきあたりばったりな感じで。惜しい気がしました。
(2015.3.28)


コクと深みの名推理7
「エスプレッソと不機嫌な花嫁」
ランダムハウス講談社
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

   エスプレッソと不機嫌な花嫁 (コクと深みの名推理 7) (ランダムハウス講談社文庫)


原題「Espresso Shot」。新進気鋭パティシエによる豪華スイーツに、幻の豆を使った究極のエスプレッソ――夢のような絶品に彩られた豪華結婚式がメトロポリタン美術館 で開かれることになった。でも、その手伝いをするクレアは気が気ではなかった。なにしろ式の主役は元夫。しかも本番直前になって、新婦が何者かに命を狙わ れている様子。スイーツと警官に取りかこまれた前代未聞の結婚式が迎える大波乱の結末とは。

 あのマテオがついにブリアンと結婚することに。元夫の長所も欠点もよくわかっているクレアは彼の結婚式に集まるセレブたちのために取って置きのコーヒーを用意します。大人の関係ですね。だらだらとくどい恋愛小説みたいにならないところがいいです。
 ちなみに、気に入っているキャラクターは六分署のアマゾネス、ロリ・ソールズ刑事とスー・エレン・バス刑事。「いい刑事と悪い刑事」をうまく使い分ける名コンビです。

 さて、花嫁ブリアンが何者かに命を狙われていることから、クレアの「手伝い」は式だけでは収まらず、新妻のボディガードのような役割まで引き受けることに。しかし、人気雑誌の編集長として自分のペースで物事を運ぶのに慣れているブリアンの周囲の人間は振り回されっぱなし。
“ブライドジラ”、ブライド+ゴジラの造語には笑ってしまいました。ややこしいことに、仕事でも手加減なく人を批評するブリアンには敵も多いので、クレアの推理はあちこちと迷って行かざるを得ません。

 もともと、美貌とキャリアを鼻にかけた嫌なキャラクターだったブリアンですが、捜査が進むうちに意外に苦労人であることがわかって、またその内面的にも意外に優しさのある人であるとわかって面白いです。

 結局、トラブルの種を播いていたのは……という展開に妙に納得しました。物語としてはうまくまとめていますが、結局この人が一番悪いんじゃないか、という思いは残りました。ネタバレ自粛!
(2015.4.10)


コクと深みの名推理8
「クリスマス・ラテのお別れ」
ランダムハウス講談社
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

   クリスマス・ラテのお別れ コクと深みの名推理8 (RHブックス・プラス)


原題「Holiday Grind」。サンタクロースはクレアが招待したラテの試飲会に遅れていた。ボランティアでサンタをしているアルフは町の人気者で、「クリスマスの味」を ラテにしようと発案したのも彼だった。心配したクレアが雪の中を捜し回ると、なんと高級アパートの裏庭で殺されているアルフを発見。しかも死の直前に、不 法侵入しようとした形跡があった。サンタが泥棒? 朗らかなサンタの意外な一面と、事件の真相とは。

 N.Yの町がクリスマス一色になり、ビレッジブレンドもクリスマス限定メニューの試飲で浮き立った雰囲気に。しかし、常連で、ホームレスのためにサンタク ロースのボランティアをしているアルフが殺されているのをクレアは発見。苦労人だけど明るくて誠実、人のために働くことを喜びとしていたアルフ の死に疑問を抱いたクレアは真相を突き止めようとする。

 日本のクリスマスは多分に商業ベースなので、ぴんとこないけれど、やっぱりキリスト教圏では特別のシーズンだと思います(サンタはキリスト教とは関係ないですけどね)。
 ボランティアで子どもにも大人にも希望を与えるサンタクロースになったり、慈善事業のスープを配る人たち。他人のために働く喜びというクリスマス・キャロルのテーマが物語の底にずっと流れているようで、温かく切ない思いを抱かせる一冊でした。

 読み終わると謎解きがほとんどないので、推理小説としては物足りないのですが。この巻だけは、それでいいような気がしました。また、マイクの元・奥さんとクレアが顔を会わせ、二人の関係は少しは進展するのでしょう。
(2015.5.26)


コクと深みの名推理9
「深煎りローストはやけどのもと」
ランダムハウス講談社
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

   深煎りローストはやけどのもと コクと深みの名推理9 (RHブックス・プラス)


原題「Roast Mortem」。老舗コーヒーハウスをマダムと訪れたところ、そこで爆発事件が起きる。消防士たちの命がけの救出活動でマダムは無事だったが、さらに別の店でも火事が。これはコーヒーハウスを狙う連続放火事件? それならうちのお店も危ない?

 めずらしく後書きがついていると思ったら、このお話は殉職した消防士たちの実話をヒントに創作されたそうです。また消防士基金も紹介されています。こういう硬派な面が感じられるのが、このシリーズが好きな理由のひとつかも。

 今回のクレアは自分と大好きなマダムの身が危険にさらされたことから、最初からかなり本気モードで推理しています(けっこうはずしていますが)。保険金目当てか、コーヒーハウスばかりが狙われることからアンチカフェイン主義者のテロか、あるいは家庭問題に悩む消防士による放火なのか――複雑にヒントがちりばめられていて最後まで飽きません。ちょっと強引な謎解きな気もしますが、面白かったです。

 ストーリーとは関係ないのですが、クレアは火事現場から救助され、恋人マイクの親戚に消防士が多いなどの縁から消防署でエスプレッソマシンの使い方講習会を行います。若い消防士たちにきわどいジョークでからかわれながら負けずに切り返す様子が微笑ましい。姐御肌を見せるところが一番クレアらしいと思うなあ。

 そして、元・夫のマテオとカーチェイスを繰り広げて(別にマテオを追ったわけではない)車2台をおシャカにするという華々しい活躍も。これを見るかぎり、マテオとはいいカップルで、むしろ真面目一徹のマイクとの関係の方が「危険な関係」なんではないかと思えてきました(笑)。
(2015.5.6)


コクと深みの名推理10
「モカマジックの誘惑」
ランダムハウス講談社
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

   モカマジックの誘惑 コクと深みの名推理10 (RHブックス・プラス)


原題「Murder by Mocha」。半世紀に渡りニューヨークに絶品コーヒーを提供してきたビレッジブレンドが、一流ショコラティエとネット業者と組んで新製品を出すことに。 なんと媚薬入りコーヒードリンクだ。けれど、発表の直前、販売担当者アリシアが殺人事件に巻き込まれ…と思いきや、死体が消えた?!

 基本的に1冊ずつ完結するシリーズですが、この一冊はどうも前巻を読んでからの方がよさそうです。前に登場しているらしいマダムの友人やジョイの新しい恋人がストーリーに関係しており、話を追えない訳ではないですが読んでいないとちょっとわかりづらいかも。

 冒頭から衝撃的な殺人事件現場、そこから死体が消えるという謎、そして新商品発表のパーティで起きた殺人事件とたて続けの展開に一気に引き込まれて読み進みました。人気のショコラティエとビレッジブレンドの新ビジネス、そして販売に関わるマダムの友人アリシアが抱えている仕事上のトラブルが複雑にからんでいて面白かったです。

 もっとも、媚薬まがいのコーヒードリンクという設定がコーヒー好きにはぴんとこないと思うのですが、どうでしょう。私はビレッジブレンドの上等のコーヒーというアイテムがこの本を読む楽しみなので、今回のクレアの新ビジネスには魅力を感じられませんでした。アフロディテという謎の女性が運営する人気コミュニティサイトは物語に華やかさを添えているのは確かだし、事件の真相にも深く関わっているのだけど。犯人は逆恨みじゃなくて、まっとうな(?)恨みで事件を起こす方が自然ではないのかしら。

 むしろ、クィンと部下のサリーやフランコが関わる警察内部の汚職事件の方が気にかかったりして。このシリーズの裏側にあたる六分署シリーズを書いてくれないかなあ。
(2015.4.18)


コクと深みの名推理11
「謎を運ぶコーヒー・マフィン」
ランダムハウス講談社
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

  謎を運ぶコーヒー・マフィン (コージーブックス)


原題「A Brew to a Kill」。ニューヨークの老舗コーヒーハウス“ビレッジブレンド”を切り盛りするクレアは、新たにフード・トラック・ビジネスに乗り出した。焼きたてマフィンとスペシャルコーヒーを運ぶ屋台はたちまち大盛況。ところがそんなとき、メニューのコンサルタントであるリリーが、店の近くでひき逃げにあってしまった。意識を失う前に「こうなるとわかっていた」と言い残して。なぜそんな言葉を?

 常に新しいビジネスに前向きなクレアと妙に否定的なマテオ、という珍しい状況からの始まりでしたが、読み進むうちに「なるほど」いろいろと問題が。
 また、ひき逃げ事故はビレッジブレンドの新ビジネスにからむ犯罪なのか? そもそも、犯人のターゲットは誰だったのか、と話が次々と新局面を見せるので、ハラハラして手を止められませんでした。うん、マテオが持ち込むトラブルもスケールが大きくなってきたなあ、と面白かったです(おいおい)。

 また、ニューヨークのアーティストを支えるマダムたちの言葉がいつものごとく厳しくもあたたかくて。ああ、こうやって若い才能が花開いて街を支えているんだな、と感じられました。

「身につけているお気に入りの宝石のことを、もう少し学ばなくてはね。<ティファニー>のディスプレーケースで売られていたりするけれど、その宝石の一つひとつは長い長い時間と圧力でできあがり、暗い鉱山から掘り出されるということをね」


 これ、気づいたのですが、同じティファニーの喩えをクレアは娘のジョイに聞かせていましたね(13巻)。
 クレアは人生と恋愛、マダムは芸術について語っていたわけです。二つは違うものというべきか、いやいや、限りなく近いのよ、とマダムなら言うのでしょうか。

 ところで、アンドリュー・ワイエスの「クリスティーナの世界」という絵は知っていましたが、その背景は初耳でした。ダンテがなぜこの絵のオマージュを描いたのか、はっきりとは書かれておらず、少しばかり気になりました。
(2017.7.28)


コクと深みの名推理12
「聖夜の罪はカラメル・ラテ」
原書房コージーブックス
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

   聖夜の罪はカラメル・ラテ (コージーブックス)


原題「Holiday Buzz」。クリスマス目前。毎週のように開催されるセレブたちのクッキー交換パーティで、クリスマス限定クッキーを配る女性ベーカーが殺害された。第一 発見者はクレア。パーティで新作ラテをサービスしていた彼女は、被害者を救える手立てがあったのではと自分を責めずにはいられなかった。さらにニューヨー クを吹雪が襲い、恋人マイクが乗った飛行機が海で墜落したという報せが舞いこんできて……!?

 シリーズ終了かと思っていましたが、別の出版社から続きが出ていたようです。
 良い人だけれど謎が多いムーリンが殺された。彼女の過去が事件の原因かと思ったら、そうそう一筋縄ではいかず、目を離せない展開でした。

 好きだった登場人物は、かつてのヘヴィメタルの人気シンガー、今は世間から忘れられて老人ホームでレクリエーション担当職員となっているデイブ。時々、地に足の着いた味のあるゲストキャラクターが登場するのがこのシリーズの良さだと思います。
 『パンはすべての口を開ける』――クレアの祖母の至言のとおり、デイブと一緒にピザを食べながら話し合ったクレアはムーリンの意外な一面を知ることになったのです。渋く落ち着いたデイブと、無鉄砲なクレアのコンビはなかなかいい雰囲気でした。実は、マテオと組むよりいいのでは(え?)

 おいしいものといえば、巻末恒例のレシピが今回はなんと50ページもあって楽しい。このおまけコーナーだけ集めて出版しないかな。
(2016.4.22)


コクと深みの名推理13
「億万長者の究極ブレンド」
原書房コージーブックス
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

   億万長者の究極ブレンド (コージーブックス)


原題「Billionaire Blend」。誰も聞いたことのないコーヒーを注文しては、バリスタたちを困らせる客がビレッジブレンドに現われた。風変わりな若者の正体はIT業界の革命児にして億万長者のエリック・ソーナー。彼のリムジンを狙った爆発事件がビレッジブレンドの目の前で起き、クレアは身を呈してエリックを救出した。そのお礼にと、エリックはクレアをNY随一の高級レストランに招待する。そこで彼は、金に糸目をつけない究極の「ビリオネア・ブレンド」の開発をクレアに依頼。けれど、目的のためには手段を選ばないIT億万長者たちのゴージャスで恐ろしい世界を垣間見たクレアは、ソーナーがただの事件被害者なのかどうか疑問を抱きはじめた。


 これまでよりも、ぐっとスケールアップした巻でした。
 IT起業家エリック・ソーナーの命を助けた縁で、クレアは彼からわくわくするユニークな依頼を受けることに。これまでの事件は、クレアの好奇心ややむを得ない事情で探偵役になることが多かったけれど、今回は依頼人によって巻き込まれてます。
 しかも、依頼人はビル・ゲイツかジョブスばりの億万長者なので、やりたいことは何でもかなえてくれます。自家用ジェットでパリへ、爆発でこわれた店も修理して――いいな〜! ある意味爽快、しかし、世の中良いことばかりとは限らないのです。
 最新ITビジネスをめぐる熾烈な戦いの世界をのぞきこんだクレアは、知らないうちにその渦に巻き込まれていきます。手段を選ばず、まさに弱肉強食のマネーゲーム。その生々しさと、どこか世間知らずというかとっぽい感じのエリックの組み合わせが面白いです。

 さて、究極のオリジナルブレンドコーヒーの開発を頼まれたクレアとマテオは、エリックの自家用ジェットでコーヒー豆の産地――ウガンダ、タイ、ハイチ、ジャマイカを文字通り飛び回ります。最近の巻では甘ったるいお菓子みたいなアレンジコーヒーが登場していたので、正統派コーヒーのお話が嬉しい。しかし、あの、ビザは要らないのでしょうか?
 また、コーヒー産地は決して経済的に豊かとはいえません。素晴らしい豆がありながら輸出する体制が整ってなかったり、中間業者が利益を独占してコーヒー農家は貧しいままだったり。そういったコーヒーをめぐる社会問題もやんわりと描かれてます。

 自家用ジェットといえば、久しぶりにジョイとクレアのほのぼのとした休日風景を読むことができて楽しかったです。
 以前の巻では母クレアの庇護から抜け出すことばかり考えていたジョイですが、パリですっかり自立。自分の恋の悩みを打ち明けたり、母親の恋愛を温かく応援する余裕も身につけたみたいでほっとしました。
 でも、クレアの方がまだ一枚上手で、深〜いアドバイスを娘にしていました。

「本物の金はティファニーのショーウィンドウでいきなり誕生するわけではないのよ。地中から掘り出されるの。本物の金だからといって、必ずしも光り輝いてるとは限らない。少しだけ磨く必要があるかもしれない。そのためには少々の忍耐や努力がいるけれど、そういう手間を惜しんで、人生の最大の宝となる可能性のあるものを捨ててしまおうなんて思わないで」


 さて、以下ネタばれ注意。






 エリックからプレゼントされた非売品の最新スマホ「ソーンフォン」、見た目もクールで人工知能搭載、便利な機能も満載らしいのですが、容疑者がソーンの会社の人間である段階で、そこの機器をうかうか使ってはマズいのではないかなあ、とITスキルのない私でも思うのです。確かに、ソーンフォンが重要な役割を果たしてはいるのですが。




 ネタばれはここまで。

 さて、今回はマイクの活躍はまったくありません。最近の巻では、どう見ても前夫のマテオの方がかっこいいのですが、クレア、大丈夫か?ちょっとはらはらしながら、続きの巻を探します。
(2016.6.30)

 

コクと深みの名推理14
「眠れる森の美女にコーヒーを」
原書房コージーブックス
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

  眠れる森の美女にコーヒーを (コージーブックス)


原題「Once Upon A Grind」。昔懐かしいおとぎ話をテーマに、秋のフェスティバルがNYのセントラル・パークで開催された。ところが、ピンク・プリンセス役の女性が「眠り姫」さながら、昏睡状態で森の中から発見されて大騒動に。まもなく逮捕されたのは、マテオ。元夫の逮捕に気が気でないクレアは、必死に真犯人につながる手がかりを探す。

 眠り姫、赤ずきんちゃん、シンデレラ、ジャックと豆の木……さまざまなお伽噺を思わせるエピソードがちりばめられていて楽しい巻でした。
 マテオがエチオピアから持ち帰った珍種のコーヒーが風変わりな役割を果たしますが、こんなにも長く効果が続くなら、コーヒーというよりもはやドラッグですよね(汗)
 ともあれ、お祭りイベントにからむ事件&推理がこのシリーズらしくて面白かった。

 クレアはどうやら恋人のマイクの転勤と、大切なビレッジブレンドの仕事の間で揺れている模様。どうも最近の巻では、仕事一筋のマイクよりもコーヒーショップでの仕事を理解している元・夫のマテオの方が存在感があります。今巻ではマイクはほぼ声しか登場しないし(涙)

 以下、ちょっとネタバレになりますが。



 後半ではCIAやロシアのスパイ騒動などからんで、他の巻とは少し趣が違いました。
 けっこう好きな展開ではあるのですが、今回、直前に米原万里さんの「オリガ・モリソヴナの反語法」を読んでいたので比較するとどうも軽く見えてしまって……読書にも食べ合わせ(?)があるんだな、と可笑しくなりました。
(2017.9.19)

 

コクと深みの名推理15
「大統領令嬢のコーヒーブレイク」
原書房コージーブックス
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

  大統領令嬢のコーヒーブレイク (コージーブックス)


原題「Dead to the Last Drop」。長い歴史を誇るニューヨークの老舗コーヒーハウス「ビレッジブレンド」が、いよいよワシントンに2号店をオープン! 人気店になること間違いなし、のはずが、トラブル続きで経営はぎりぎり。マネージャーを務めるクレアは頭を抱えていた。そんなとき、コーヒーハウスに併設したジャズクラブへ、黒づくめの衣装で舞台にあがる女性ピアニストの姿が。その正体は大統領令嬢のアビー! 才能あふれる演奏にクレアはすっかり魅了されてしまう。ところが、身分を隠した令嬢の存在はたちまちマスコミの知るところとなり、店は混乱の渦に。

 ついにビレッジブレンド2号店がワシントンDCにオープン。あれ、一冊飛ばしたかな、と思ったけれど、そんなことはない。スピーディな展開ですね。しかし、新店オープンとは、クレアとマイクの恋愛関係に意外な解決方法をもたらしてくれました。

 というわけで、おなじみのメンバーの登場はごくわずか。しかも新装開店そうそうから厨房にトラブルが。しかも冒頭からクレアとマイクは指名手配犯として逃亡――。混乱の極めつけとして、ジャズスペースに出入りするピアニストが大統領令嬢(ファーストドーター。初めて聞いた)という、面白さてんこもりの設定でした。

 舞台がニューヨークからワシントンに変わったことが一番大きな変化かもしれません。
 パワフルで忙しい街ニューヨークから、どこかしっとりと落ち着いたワシントンDCへ。店はジャズスペースも備えており、単にコーヒーを楽しむだけでなくアーティストを育ててきたビレッジブレンドらしい成長なんでしょうね。

 特に印象的だったのは、新しい人間関係を築くクレアの実力。
 1巻からすでにビレッジブレンドNY店を任されていたのでピンときていなかったけど、知らない土地で初めて会う人としっかり信頼関係を築くのはさすが(シェフとは決裂したけれど)。
 おまけに、辞めさせられたシェフが腹いせに置いていった難題に挑んで、無事に店の成功へとつなげます。彼女と素晴らしいスタッフがピンチをチャンスにする強さは見ごたえありました。これぞまさにスウィング、なのです。

 さて、ここ最近の巻でひっそりと物議を醸していたマイクの危険な上司カテリーナもついに本性をあらわします。野望のためには人を陥れることも、いやその手段も選ばない、おそろしい上司ですね。

 大統領をめぐるスキャンダル、政争がらみのごたごたのあとにはちゃんとロマンチックなエピソードも用意されていて、いや、満足。味わい豊かなコーヒーを最後の一滴までおいしくいただきました。
(2018.6.6)

 

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