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推理小説 5

  

コクと深みの名推理16
「沈没船のコーヒーダイヤモンド」
原書房コージーブックス
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

  沈没船のコーヒーダイヤモンド (コージーブックス)


原題「Dead Cold Brew」。かつて豪華客船とともに沈んだとされた伝説の宝石が、思わぬ形でふたたび姿を現した! ところが、すべての謎の鍵を握る宝石商は何者かに毒を盛られ、こん睡状態に。海底に葬られた60年前の事件、許されざる愛、そして新たな犠牲者。不幸を呼ぶという伝説のダイヤを婚約指輪に贈られたクレアもまた、いやおうなく悲劇に巻きこまれていき……?

 舞台はふたたびN.Yへ。カフェや地元の馴染みの警察官たちが登場して嬉しい巻。捜査アドバイザー゙コーヒーレディ゙クレアはすっかり警察署で有名になってます。

 60年前の豪華客船の海難事故と失われた宝飾品、そして事故の生存者が残した遺産の相続人のひとりがクレアの元夫マテオであったことから、クレアは謎ときに関わることに。N.Yのセレブたちの世界を垣間見ながらの捜査はいつになく華やかで楽しかったです。

 とはいえ、恋愛関係ではクレアは幸せの絶頂に、そしてマテオはどん底に落とされてしまったので、この二人のコンビで事件解決できるのか、少しはらはらしました。

 マイクの世界にクレアは片足以上はつっこめない(十分かもですが)。警官を狙ったテロが起きてもクレアは気を揉むしかなく、おまけにこれまでは『法的には権利のない間柄』だったことが彼女を不安にさせていたわけです。なので、マイクが腹を決めたのは喜ばしいのですが、それでも、クレアはマテオと走り回ってる方が楽しそうに見えてしまう。この先の展開が少し心配ですね。
(2019.8.1)

 

コクと深みの名推理17
「ほろ苦いラテは恋の罠」
原書房コージーブックス
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

   ほろ苦いラテは恋の罠 (コージーブックス)


原題「Shot in the Dark」。NYでは誰もかれもがお手軽に白馬の王子さまを見つけようと、マッチングアプリが大流行に。ところがアプリで知り合った男性に復讐を考えた女性が、よりによってクレアのコーヒーハウスで発砲事件を起こしたから、さあ大変! クレアの機転で被害者こそ出なかったものの、現場の動画がまたたく間に拡散されてしまったせいで、店は閉店の危機に!

 今回も複雑にからみあった謎がするすると解けていく快感を味わいました。本当、うまいなあ。
 以下、軽いネタバレもありますので注意。

 店で発砲事件が起き、そのあとマダムの呼び出しに応える、だけでも大変だと思うのに、さらに変死体を発見・対処してしまうクレアのパワフルさに圧倒されます。おいしい食事と天にも昇れそうな絶品コーヒーがあれば、ということかしら。

 さて、クレア自身はマッチングアプリなんて信用してないし、一番気になるのは事件によって大切なビレッジブレンドが壊されてしまうのでは、という心配。店長なら当然ですね。でも、そこで守りに入るのではなく、積極的に謎を解明していくのが彼女らしい。

 そんなクレアの今回の「相棒」はマイクではなく、元・夫のマテオ。女性大好きでマッチングアプリにはまり、でも愛する娘のためなら探偵まがいの仕事もなんなくこなす、手料理は絶品。でも、娘をカバ呼ばわりとは怒られますよね。
 一方のマイクは、今回どうも冴えません。このタイミングで海外出張、あとはクレアのおいしいごはんを食べるだけなので、さっぱり頼りになりません。だいたい、同僚のフランコの仕事の内容くらい想像がつくのでは、と思ってしまって。
この数巻、どうみてもマテオの株が上がっているのでこの先が不安ですねえ。

 閑話休題。マッチングアプリがらみの恋愛トラブル(それ以前とも言う)がメインかと思いきや、アプリのシステム開発者が不審死を遂げ、さらに本業だけではありえないお金が動いている気配がある。事件の真相は思いのほか深く、複雑でした。ドラッグにはまる人たちと糖質制限にはまる人たち、お手軽なマッチングアプリとそれを笑いとばすポエトリースラムの精神――N.Yらしさも味わえました。

 今回、ちょっとびっくりしたのは翻訳。「バズる」なんて割に最近の言葉遣いですが、これをあてるのはさすがだなあ。
(2020.7.5)

 

コクと深みの名推理18
「コーヒー・ケーキに消えた誓い」
原書房コージーブックス
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

  コーヒー・ケーキに消えた誓い (コージーブックス)


原題「Brewed Awakening」。ウェディング・ケーキの試食会を行った直後、クレアは偶然にも犯罪現場に遭遇してしまい、忽然と姿を消した。それから1週間後、突然ビレッジブレンドに戻ってきた彼女は、すっかりこの15年間の記憶を失くしていた。事件当夜の記憶はもちろん、大切な店や家族、そして間もなく迎えるはずだった結婚式のことまでも。なかでも、顔すら忘れられてしまった婚約者マイクの絶望は言葉にもならないほどだった。かけがえのない記憶を取り戻すため、彼女を慕うスタッフたちは力を合わせることに。

 クレアが犯罪に巻き込まれて記憶喪失になる、というこれまでにないドラマティックな設定。彼女の記憶をとりもどし、身の安全のためには事件の謎を解かなければならない、という緊張で楽しかったです。

 15年間の記憶が消えたクレアには、親しい人が妙に年をとって、あるいは見知らぬ人が親しげに自分の無事を喜んでくれるという不思議な状況。浮気性の夫マテオの顔は見るのも嫌だし、「幼い」愛娘ジョイはすっかり大人になってしまった。
 こんな混乱の中で、とまどいながらも謎を追うクレアが新鮮。いや、本来『とまどいながら』ってクレアにつける言葉じゃなかったよね。

 また、事件とともに、時に事件以上に気になるのが、クレアをはさんだ元・夫マテオと現・婚約者のマイクのにらみ合い。無理もないけど、そんなことしてる場合じゃないけど……でも、やっぱり油断はできませんね。
 私も、ここ数巻は「マテオとよりを戻す、ってありではないの」と思っていたのでなおさらです。15年前の、マテオとの仲が最悪の時期に記憶が遡ってしまったとはいえ、そもそもマテオはクレアのタイプなのだから。どう考えてもマイク・クィンの分が悪い。
 マイクの不安を知ってか知らずか、さらっと刺激してしまうマダムが可笑しかったです。

 探偵活動の面は、あいかわらずの構成のうまさに唸ります。怪しげな人とその動機はきちんと回収され、とりとめなく見える噂話が謎の真相に結びついています。

 もっともっと、長く楽しみにしたいシリーズです。
(2021.9.20)

  

コクと深みの名推理19
「ハニー・ラテと女王の危機」
原書房コージーブックス
クレオ・コイル 著  小川敏子 訳

  ハニー・ラテと女王の危機


原題「Honey Roasted」。養蜂の女王ビーの作るハチミツは、一流シェフが競って手に入れようとするほどの極上品。ところが、そのビーのミツバチたちが逃げ出し、クレアの店に迷い込んできてしまったから、さあ大変。クレアがビーのもとを訪れてみると、なんと屋上養蜂場から転落したビーの姿が。

 ニューヨークのビル群の真ん中で行なわれているハチミツづくりをめぐるミステリー。都会のオアシス的な自然回帰のアイデアと、良質なハチミツの取り合わせが面白かったです。

 そんな中で、新婚旅行を控えているはずのクレアとマイクの関係は波瀾含み。こんな本格的なケンカは初めてでは。距離をおく2人にもやきもき、さらに代理で(?)活躍するマテオにもやきもきしました。

 また、マダムの存在感が際立っていました。
 被害者の長年の友人ということで、クレアやマテオが知らない過去の人間関係を生かして調査に協力。なにより、ハリケーンに見舞われたリゾートからよれよれになって……と思いきや、生き生きと帰国してチーズとろとろのオムレツをご所望。そのバイタリティにやられました。

 謎解きは、今回はトリッキーというより人間観察によって真実へ近づく、といったところ。人は見た目によらない、先入観にとらわれないクレアの目が事件を解決しました。

 さて、どちらも再婚ということで、なかなか相手との距離感を掴み切れていなかったクレアとマイク。マダムの助言もあって、ちゃんと進展しそう。
 人生のロープにぶら下がって反対側を引き上げてもらう時もある、と悟るクレア。しかし、ごく最近、似たようなシチュエーションで引っ張り上げてもらっていたよね――と思うと、次巻以降もまだ安心はできないのかも。がんばれ、マイク!
(2023.7.14)

 

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