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推理小説 6

 

大統領の料理人 1
「厨房のちいさな名探偵」
原書房コージーブックス
ジュリー・ハイジー 著  赤尾秀子 訳

  厨房のちいさな名探偵 (コージーブックス)


原題「State of the Onion」。「世界でもっとも重要な台所」と呼ばれるホワイトハウスの厨房で働くオリーは、小柄ながら腕と舌は確かなアシスタント・シェフ。彼女の任務は大統領の朝食から晩餐会にいたるまでの献立を吟味し、期待以上の料理で彼らの胃袋をつかむこと。ところがある日、ホワイトハウスに不法侵入した男をフライパンで打ちのめしたせいで、彼女は国際手配の殺し屋から命を狙われることに! いっぽう厨房では、一週間で重要な国賓晩餐会のメニューを決めるという前代未聞の事態が発生。オリーは、夢だった総料理長の座を射止めるためにもこの大ピンチを乗り切れるのか。

 新シリーズを発掘。ホワイトハウスの厨房で腕をふるう料理人が主人公って、面白そうじゃないですか。ホワイトハウスなんてまず見る機会がない場所の舞台裏を読めて楽しい。実際、みっちりと取材もされたよう。

 ある朝、ホワイトハウスに出勤してきたオリーはホワイトハウス敷地に侵入した男とばったり行き会ってしまった。「大統領に伝えたいことがある」という男は、その後オリーの目の前で殺されてしまう。犯人の顔を見てしまったことから、彼女は命を狙われることに――。

 残念ながら、手がかりが無さすぎて謎解きはあまりできなかったですが、厨房風景を堪能できました。
 シェフたちはホワイトハウスでの各種晩餐会を取り仕切るので、ホストとゲストの好みは当然、各国食文化の知識も求められ、さらにその時々の政治的メッセージをメニューに盛り込むこともあるらしい。
 また、大統領家族の日常の食事も作るとは知らなかった。巻末には歴代の大統領のソウルフードが載っていて楽しい。ルーズベルトはホットドッグを、カーターは南部の田舎料理を、アイゼンハワーは料理が好きで自身のビーフシチューレシピが厨房に伝えられたらしい。

 へぇ、と思ったのがレシピ。ライバルシェフのレシピが曖昧で困った同僚を、オリーが助けるシーンがあります。こんな簡単なレシピなんだ。材料の分量リストがなくて手順だけ示されたら、そりゃ困りますよね。さらに、何を料理したらいいかわからなくなったシェフに、オリーは厨房メンバーが共有しているレシピの中から近いものを作ったら、と助言。そんなのありなんですね。

 欲をいえば、登場人物をもっと掘り下げて描写してくれたら、もっと面白いのになあ。それは次作に期待します。
 というか、めでたくホワイトハウスのエグゼクティブ・シェフ(総料理長)になってしまったオリーははたして探偵活動する時間がとれるのか、それも気になります(笑)
(2017.1.6)

 

大統領の料理人 2
「クリスマスのシェフは命がけ」
原書房コージーブックス
ジュリー・ハイジー 著  赤尾秀子 訳

  クリスマスのシェフは命がけ (コージーブックス)


原題「Hail to the Chef」。巨大ツリーに、全米No.1のパティシエが作るお菓子の家――クリスマスはホワイトハウスが最も華やかに輝く季節! 伝統的に大統領夫人が指揮をとり、裏舞台で働くスタッフたちにも緊張が走る。オリーは総料理長になって初めてのクリスマスに準備万端で臨むが、ハウス内で爆弾騒ぎが発生。厳戒態勢が続くなか、全米が待ちに待ったホリデーシーズンの幕が切って落とされ……!?

 シリーズ2作目。やっぱり、舞台設定が面白い作品です。今回はオリー自身のすぐそばで爆弾騒ぎが起きたり、尊大な特別捜査官に目をつけられて苦労したり、料理をする暇もないほど忙しかったようです。

 あろうことかホワイトハウスの中で爆弾騒ぎが続くとは、ちょっと警備がザルすぎるのではと思いましたが、あとがきを見ると実際に警備体勢の不備を批判される事態もあるらしい。厳重な警備と国民にオープンな大統領一家というイメージ――相反するものを両立させる苦労がちょっと感じられました。

 オリーがトラブルに巻き込まれる体質であることはプロの捜査官によって保証(?)されましたが、推理や探偵仕事の腕はさっぱり上がっておりませんね。このままそそっかしいキャラクターでシリーズをおしていくのか、ちょっと心配。

 物語の最大の山場は爆弾発見の瞬間ですが、これはネタばれになるので自粛。

 第二の山場は、巨大で美しいジンジャーブレッド・ハウス(お菓子の家みたいなものかと思うのですが)をいかにパーティー会場へ運び込むかという場面。エレベーターに乗らないほど大きなハウスを造ってしまった天才パティシエのマルセルを見ながら、オリーも「去年も大きすぎて苦労したのに、どうして移動することを考慮しないんだろう」と嘆いています。いや、まったく手に汗握りました(笑)

 そして、今回の魅力的な登場人物は、臨時契約シェフのアグダ。英語もフランス語もいまひとつ通じないスウェーデン人シェフですが、腕はぴか一。とぼけたところもあって可愛らしいです。
 そして、厳しく頑固で融通の利かない捜査官レナード・ギャヴィン。前巻から出ているオリーの恋人トムはさっぱり魅力がないので、むしろこのギャヴィンの方がトラブル「巻き込まれ屋」のオリーにはあっているんじゃないかと思います。

「ズボンがジンジャーブレッドの屑で汚れるわ」
「それも仕事のうちだ」


 いいコンビだと思いません?
(2017.2.10)

 

大統領の料理人 3
「春のイースターは卵が問題」
原書房コージーブックス
ジュリー・ハイジー 著  赤尾秀子 訳

  春のイースターは卵が問題 (コージーブックス)


原題「Eggsecutive Orders」。ホワイトハウスの料理を口にした高官が死亡。そのせいで厨房スタッフ全員が犯人扱いされ、厨房は完全封鎖に追い込まれてしまった。春の復活祭までに一万個以上のイースター・エッグを用意するなんて絶対に無理! 唯一の道は厨房の嫌疑を晴らすこと。でも料理長のオリーが捜査に首を突っ込めば、恋人であり大統領の護衛官トムが解雇される。万事休すの彼女が取った行動は!?

 朝っぱら、出勤時にシークレット・サービスのお出迎えを受けてしまう、という冒頭のエピソードでお話にぐいっと引き込まれ、その後の展開もとても楽しかったです。これまでよりも身近な人たち(厨房メンバーやオリーの家族、恋人)との関わりが深く書かれていて、推理以外の面でも読みごたえありました。

 そして、オリーとトムとの関係に急展開が。オリーはシェフとして厨房と仲間を守るために真実を知りたい、できることは何でもしたい。でも、トムはシークレット・サービスという立場上、よけいなトラブルは御免蒙りたい。立場の違い、そして、自分らしくありたいと願うオリーとトムの気持ちのズレが、別れへと二人を追いたてていくのが少し切ないです。

 私はこれまで正直言ってトムに好印象がなかったのですが、この巻を読んで「なかなかいい男じゃないか」と(^^)。破局を迎えることは次の巻を読んで知っていましたが、それを悲しく感じるという、まさかの事態でした。

 高官の間で渦巻く陰謀は少々消化不良な気もしましたが、『何事もおおごとになってしまう』ホワイトハウス独特の事態にははらはらさせられます。情報漏えいは……まずいですよねえ。
(2017.12.30)

 

大統領の料理人 4
「絶品チキンを封印せよ」
原書房コージーブックス
ジュリー・ハイジー 著  赤尾秀子 訳

  絶品チキンを封印せよ (コージーブックス)


原題「Buffalo West Wing」。新しい大統領が誕生! 今度のファースト・ファミリーには、幼い子どもたちもいる。迎え入れるホワイトハウスのスタッフたちは期待と緊張の中、新大統領にとって最高の環境を整えようと準備に走り回っていた。そんな中、総料理長のオリーは厨房の片隅に見慣れないチキンの箱を見つけた。出所不明の食材は食卓にあげないのがホワイトハウスの安全ルール。心を鬼にして子どもたちからチキンを取り上げたオリーは、そのせいで大統領夫人の不興を買ってしまい、あわやクビの大ピンチに。

 3巻が見つからず、ひとまずこちらへ。

 ……ううむ、困った!
 いろいろ不満があるのに、先が気になって本を閉じられない。

 物足りない点から先に言うと、このシリーズ、人の好いキャラクターはとことん良い人なのに、問題人物があまりに浅はかで幼稚。プロの料理人と思えないだけでなく、大人とも思えない。ついで、今回は謎解きがまったくないので推理小説といってよいか迷うところ。

 しかし、なぜだか目を離せないんですよね。

 お馴染みのキャンベル大統領一家がホワイトハウスを去り、あらたにやってきたハイデン大統領家には子どもがいてこれまでにないトラブルが。また、ホワイトハウス独特の習慣をめぐる職員とファーストファミリーとのぎくしゃくした関係が気になる。また、厨房で見つかったチキンに毒が盛られていたことから職員たちの間には猜疑心が生まれる――。

 まったくはらはらした巻でした。あわやクビになるかと心配するオリーは、前・総料理長ヘンリーに相談を持ちかけます。彼はあいかわらずほんわりと優しく頼もしい。このシリーズの重鎮です。

 そして実は、本を手にとってまず私がしたのは、登場人物説明文のチェック(笑)。だって気になるんだもの。あー。やっぱりトムとは別れたんだ(元・恋人と明記)。どう考えてもギャヴの方がオリーとはうまが合うでしょう。だから、ラストの一文にも満足。

 この作家さんはいい雰囲気にお話をまとめるのがうまいのだと思います。だから、もうちょっと人物像に現実味があると言うことないのだけどなあ。
(2017.9.9)

 

大統領の料理人 5
「誕生日ケーキには最強のふたり」
原書房コージーブックス
ジュリー・ハイジー 著  赤尾秀子 訳

  誕生日ケーキには最強のふたり (コージーブックス)


原題「Affairs of Steak」。異例づくし。まさしくそれが、総料理長オリーの今回の任務だった。というのも大統領夫人が催す数千人規模の巨大誕生日パーティのため、厨房の外へと飛び出し、会場選びから手伝うことになったのだ。同じく担当スタッフに選ばれたのは、式次室長のピーター。彼とオリーが犬猿の仲なのはホワイトハウスの誰もが知るところ。なのにまさか、ふたりそろって秘書官の遺体を発見することになろうとは!? それ以来、何者かに命を狙われるようになったふたりは、危険と隣合わせでパーティの準備を続行することに。

 これまで何かと衝突していたオリーとサージェントは大統領夫人主催のパーティーの仕切りを頼まれます。しかし、本来の業務とは違う役目に二人はとまどい、下見に訪れた会場では死体を発見。さらに周囲で謎の人物が出没するように。

 今回はホワイトハウスにあるさまざまな仕事――招待状を作成するカリグラフィー部門や、パーティー会場でゲストをもてなすソーシャルエイドという役割など風変わりな業務にふれられていて楽しかったです。つい華やかな出しものや料理に目が行きますが、その他にも手書きの美しい招待状やゲストへの心遣いがパーティーを支えているんですね。

 そして、これまでの人間関係が少し深く描かれています。
 最悪コンビでも腹をくくって付き合えば意外な一面を見つけたり、人間らしさが見えてきたりする――実際にこういうことって多いですよね。偏屈なピーターをオリーがうまく操縦・懐柔していました。それに、ピーターのちょっと困った甥に対するオリーの態度は思いやりがあって、なかなかこれはできないなあ、と感嘆。他の巻でもそうですが、オリーの人づきあいの描き方は翻訳小説では珍しいほど細やかです。

 謎解きはちょっと物足りないけど、まあいいか。

 と、ここで気づいた。ついにホワイトハウスの厨房でオリーが料理しない巻じゃない? いいのか、総料理長。
(2018.3.19)

  

大統領の料理人 6
「休暇のシェフは故郷へ帰る」
原書房コージーブックス
ジュリー・ハイジー 著  赤尾秀子 訳

  休暇のシェフは故郷へ帰る (コージーブックス)


原題「Founding Fathers」。夏の休暇で、恋人といっしょに実家へ帰省したオリー。でも母の口から、幼い頃に亡くした父の死についての意外な真相を明かされ、和やかな休日は一変。銃で殺されたうえに犯人もまだ捕まっていないなんて!戸惑いながらも、オリーは父への愛を力に、未解決の事件に踏みこむ決意をする。一方、ホワイトハウスでも予想外の事態が。夏休み中の大統領の息子ジョシュアに料理を教えることになったまではよかったものの、オリーだけで参加するはずだったフード・エキスポにジョシュアがどうしても行きたいと言ってゆずらない。やむなくオリーたちは変装し、大勢の人でごった返す会場へと向かうが?!

 いつもは事件に巻き込まれるパターンのオリーですが、今回はみずから渦中へ。亡き父の死の真相を求めて忙しく走り回りました。
 父の元同僚や上司と会って話を聞いて回るのですが、誰の口もかたい。ですが、皆がオリーを見て「父親そっくり」と口をそろえ、父アンソニーが頑固で、しかし実直な性格だったかを語ってくれる。そんな父がどんな事情で軍を不名誉除隊になり、にも関わらずアーリントン墓地に葬られたのか。真実を求める気持ちに火がついたオリーに、恋人のギャヴがいいブレーキ役でした。

 ところで、原題の「Fathers」と複数形なのは、あと誰のお父さんの話だったのでしょう??

 さて、慌ただしい毎日の一方で、オリーにはもうひとつのミッションが。
 料理に興味津々な大統領の息子ジョシュア。彼に懐かれて料理を教えているのです。本来、大統領一家のプライベートな食事を担当するヴァージルの役目なのでしょうが、やっぱりいつも優しいオリーに教わりたいですよね。少年に頼まれて、つい休日にまでホワイトハウスへ来てしまうオリーの人の良さが微笑ましいです。

 そんな師弟(?)関係が終盤のオリーの危機を救います。え、ギャヴは遅れをとってませんか? 謎解きはあっさりしていましたが、この巻もごちそうレシピがいっぱいでそこも満足しました。
(2019.10.23)


大統領の料理人 7
「晩餐会はトラブルつづき」
原書房コージーブックス
ジュリー・ハイジー 著  赤尾秀子 訳

  晩餐会はトラブルつづき (コージーブックス)


原題「Home of the Braised」。一週間後の国賓大晩餐会は、国にとって歴史的意味をもつ重要な会談。ホワイトハウスの厨房メンバーは世界のリーダーにおいしい料理でくつろいでもらうことを目指すものの、準備期間が短いうえにスタッフ間での問題も発生し―――。総料理長としても、これから結婚を控える花嫁としても、オリーは大きな試練の時を迎えることに!

 最愛のギャヴとの結婚話がついにまとまり、あとはささやかな式と婚姻届の提出だけ。しかし、ホワイトハウスでばりばり働く二人にはそんな余裕はない。そんな時にギャヴは知人に相談事をされ、偶然にも彼が結婚式を取り仕切る資格があることから、オリーとともに知人宅を訪れる。しかし、そこで二人は殺人事件に巻き込まれてしまう。
 一方、ホワイトハウスでは大掛かりな晩餐会が近づいていたが、ついに厨房の問題児ヴァージルとオリーが衝突。シェフたちはついに一触即発の状態に。

 ―――と、最初から波乱混沌の展開でした。

 オリーが巻き込まれた事件に民間軍事会社が関係していたというのが、ああアメリカの話だな、と感じました。
 しかし、国の防衛の支えが民間というのは不安ではないのかしら。ネタバレにもなるので書きにくいですが、企業として一定の利益は必要なわけで、それがアメリカの国益と相反する時もあるわけですよね。指揮官がそこをうまく調整できたとしても、個人個人の兵士たちにとっては命をかける先がどこにあるかは……さて。

 今巻でも大統領の息子ジョシュアが大活躍。シークレットサービスらの目をかいくぐって父親の危機を救います。オリーがやや規格外の(汗)シェフで予期せぬ事件を呼び込んでしまうパターンが多いシリーズですが、ちゃんと規格外の人脈もあるんですよ。ただ、大統領の子供とはいえ素人が晩餐会の調理に参加するのは難しいのでは、と思いますけど。

 そして、お楽しみの巻末のレシピ。これまで気がつかなかったけど、どうやら本当にホワイトハウスの晩餐会で供された品々のよう。レモンの蒸しプディング(2005年)が気になりました。
(2020.1.08)

 

大統領の料理人 8
「ほろ苦デザートの大騒動」
原書房コージーブックス
ジュリー・ハイジー 著  赤尾秀子 訳

  ほろ苦デザートの大騒動 (コージーブックス)


原題「All the President's Menus」。ホワイトハウスの厨房を視察するため外国からシェフたちがやってくる! 知らないレシピや文化を学びたいけれど、急に決まった晩餐会の準備もあるし、人手不足だし……。忙しいエグゼクティブ・シェフのオリーを助けようと、デザート担当のシェフが視察団のガイド役を引き受けてくれることに。彼が作り出すのは甘く美しい飴細工に絶品のホットチョコレート。誰もが感嘆のため息をもらしながらデザートの味見をしていると、突然彼が倒れてしまい!?

 今回は馴染みのシェフスタッフたちが二人も欠けて、大わらわの状態でのオリーの活躍でした。
 緊縮財政のホワイトハウスでは要人を招いての晩餐会も減って、シェフたちは暇を持て余しています。その折に、サールディスカという国から政府の料理人が研修のためにホワイトハウスへ派遣されてくる。彼らを歓迎するオリーだが、同じくサールディスカの次期大統領候補の女性も来米。封建的で政府による統制の厳しい国からの客人にホワイトハウスは緊張することになります。

 男尊女卑の風潮が強いサールディスカ人とオリーとのぎくしゃくした関係と歩み寄りが前半の読みどころでした。これは落ち着いて研修にあたるオリーと天才パティシエ・マルセルの実力によるもの。
 ですが、そのマルセルが厨房で2度も意識を失ったことが、オリーの胸にサールディスカ人に対する疑念を生みます。そのカンは、これまで同様決してはずれてはいなかった……。

 ――と、舞台仕立ては面白いのですが、どうもストーリーに没頭できない巻でした。
 マルセルの不調以外にこれといった事件もなく、しかもオリーの推理と行動力にいつもの切れがありません。証拠物件を誰でも手に入れられる場所に置いておくのもどうかと思うし、厨房に録音機を持ち込んでの探偵ぶりも頼りない。どうしたんでしょう。

 前の巻でようやく結婚にこぎつけたギャヴは仕事と自分の将来について悩んでいる様子。彼の決断によってはオリーの、というか、このシリーズの今後が大きく変わるので(笑)気にしております。
(2020.7.24)

 

菜の花食堂のささやかな事件簿 1
「菜の花食堂のささやかな事件簿」
だいわ文庫
碧野圭 著 

  菜の花食堂のささやかな事件簿 (だいわ文庫)


「自分が食べるためにこそ、おいしいものを作らなきゃ」菜の花食堂の料理教室は今日も大盛況。オーナーの靖子先生が優希たちに教えてくれるのは、美味しい料理のレシピだけじゃなく、ささやかな謎の答えと傷ついた体と心の癒し方。イケメンの彼が料理上手の恋人に突然別れを告げたのはなぜ? 美味しいはずのケーキが捨てられた理由は?

 珍しい和風コージーミステリー。パンプキンパイやベーコンエッグのかわりに茄子の煮浸しと昆布出汁が利いてます。
 主人公の優希は町の小さな家庭料理教室で助手を勤めている。生徒は近所の主婦や年配サラリーマンで教室は和気あいあいとしているが、実はそれぞれに悩み事を抱えており、優しい靖子先生が料理を教えながら小さなアドバイスを与えてくれる、という物語。

 ほんわりとした雰囲気、それでいて優希や生徒たちの悩みが実際にありそうなものなので、なんというか、読んでいて裏切られない気がします。(前に読んだ食堂を舞台にしたほんわり系の小説に嫌な思い出があり、似たようなシチュエーションの作品を警戒していたので)
 ホームズ役の靖子先生が人生経験と鋭い観察眼で生徒たちの悩みを解決し、ワトソン役の優希は自分の力不足におろおろしながら先生についていく――まだいろんな意味で経験不足の彼女が、先生に支えられながら自分の生活を見つめなおし、夢を見つけようとする、成長物語の一面もあります。

 謎とき(というか人生相談)のほかに、料理も大きな楽しみになっています。チョコレートやケーキなども取り上げられていますが、やはり肝心なのは昆布出汁でしょう! そして、茄子の下ごしらえ場面の味わいは圧巻と言ってもいい(力説)

 最後の話はエピソードの途中で終わっているので、これは続きが出ると考えていいのかな。密林を見ると2冊目が出版されているようなので、巻数をつけておきます。これは、初めて読む人にはわかりづらいぞ!
(2017.2.18)

 

菜の花食堂のささやかな事件簿 2
「きゅうりには絶好の日」
だいわ文庫
碧野圭 著 

  菜の花食堂のささやかな事件簿 きゅうりには絶好の日 (だいわ文庫)


「このあたりでは評判らしいですよ。ちょっとしたヒントから真実を見抜く、日本のミス・マープルだって」グルメサイトには載っていない、だけどとっても美味しいと評判の菜の花食堂の料理教室で靖子先生が教えてくれるのは、ささやかな謎と悩みの答え、そしてやっぱり美味しいレシピ。いつも駐車場に停まっている赤い自転車の持ち主は誰? 野外マルシェでご飯抜きのドライカレーが大人気になったのはなぜ?

 2巻のお料理テーマはきゅうり、ズッキーニ、独活、カレー……美味しそうですよ。

 今回はSNSや異業種交流会、野外マルシェなど現代ものらしいエピソードが出てきました。これらにつきものの盗作や転売といったヒヤリとする現実も描かれているのですが、それでいて前作同様のほんわりとした雰囲気を保っているのが素敵です(^^)

 好きだったのは、菜の花食堂特製のカレーライスを野外マルシェで販売するお話。初めてイベントに出店するということで、靖子先生も優希も少々舞い上がっています。
 売れ行きは好調なのですが、なぜか「カレーだけください」というお客さんが次々にやって来る。それはかまわないのだけれど、理由は? ……という展開。

 この「カレーは訴える」も「偽りのウド」もそうですが、靖子先生が犯人(?)を決して追いつめない方法で謎を解いていくのがいいですね。ウドの話に至っては、犯人は登場すらしません。
 謎解きの行為自体が人を傷つけることをよくわかっているから、あえて遠まわしに、人づてに言いたいことを伝えていく――なかなかできることではないなあ、と感じました。

 ところで、登場するお料理のレシピがあるともっと嬉しいのですが!
(2018.2.17)

 

菜の花食堂のささやかな事件簿 3
「金柑はひそやかに香る」
だいわ文庫
碧野圭 著 

  菜の花食堂のささやかな事件簿 金柑はひそやかに香る (だいわ文庫)


好き嫌いがないはずの恋人が手作りのお弁当を嫌がるのはなぜ? 野菜の無人販売所の売上金が、月末に限って増えている理由は?手を掛けたランチが評判の菜の花食堂を営む靖子先生はいつも、とびきりの料理と謎の答えと明日へと進むためのヒントを手渡してくれる。

 前2巻と比べて、登場人物にスポットがあたった感のある3巻でした。
 主人公の優希はいつもひっそりして迷いの中にいましたが、突然すっ、すっ、と前に進みでて、花を開かせた感じ。これまでの穏やかな時間が彼女にとっては必要だったんだな、とわかりました。
 菜の花食堂は江戸野菜をテーマにしたイベントを行ったり、地元のマルシェ(青空市)へ出品したり。そこにスタッフとして携わる中で、優希が自分がしたいことを掴んでいく姿がのびやかでいいのです。

 ただ、これまでの諸々は靖子先生の料理があってこそ成り立つものなので、優希が自分の夢とするにはまだ時間がかかりそう。次の巻以降は彼女自身の成長を楽しみにしてます。あ、あとレシピのような描写も楽しみの1つなので、もっと増えるといいな。
(2019.10.17)

 

菜の花食堂のささやかな事件簿 4
「裏切りのジャム」
だいわ文庫
碧野圭 著 

 裏切りのジャム


妻が夫のダイエットに急に厳しくなったのはなぜ? 仲の良い息子夫婦との同居をためらう姑の秘密とは?菜の花食堂のオーナー・靖子先生は小さな事件を解決してくれるだけじゃなく、そっと悩みを救い上げて静かに背中を押してくれる。

 久しぶりに菜の花食堂に再会。副題はどきりとさせられますが、相変わらず靖子先生の心配りに支えられた穏やかな読み心地でした。

 特に好きだったのは「玉ねぎは二つの顔を持つ」――料理教室の生徒さんと姑さんの微妙な関係のお話です。
 義母に家事を教わりたいから同居を、と願うさつきさんと、料理上手な姑の小松原さん。仲が良くないわけではないのに、いっこうに同居の話が進まない理由を靖子先生が鮮やかに解いてみせます。

 ネタバレになるので伏せますが、小松原さんの料理の仕方がすごくリアル。こういう人いる、いる。それゆえに嫁のさつきさんとの距離感をうまく保とうとしているんですね。嫁と姑が互いに気遣いあっていることがごく自然に伝わってきました。そして、そこに気づける靖子先生もすごい。

 ところで、優希がご近所の川島さん宅に料理づくりに通っている、という設定、ひさしぶりですよ。優希自身の成長も読みたいので、川島さんとのエピソードを楽しみにしてます。
(2023.12.17)

 

「噂」 新潮文庫
荻原浩 著 

  噂 (新潮文庫)


「レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルをつけてると狙われないんだって」。香水の新ブランドを売り出すため、渋谷でモニターの女子高生がスカウトされた。口コミを利用し、噂を広めるのが狙いだった。販売戦略どおり、噂は都市伝説化し、香水は大ヒットするが、やがて噂は現実となり、足首のない少女の遺体が発見された。

 この著者では初めて読んだかな、本格ミステリー。やっぱり、この人の本は面白い!
 女子高生の噂話そのままの猟奇殺人事件を冴えない巡査部長とエリート女性警部補が協力して解決する――推理はネタばれなので書けませんが、とにかく鮮やかな腕前。

 父娘2人暮らしで、娘に苦労させていると負い目を感じる小暮。娘のために規則正しい交番勤務に異動願いを出そうかと考えながらも踏み切れずにいる。
 そんな時に起こった事件で、本庁から派遣された名島と捜査にあたることになった。しかし、これが相当年下の女性、しかも階級は小暮より上の警部補。彼女とどう話したらいいか、話題もペースも合わなくて途方に暮れているのがおかしい。
 しかし、この名島の見かけによらない鋭い観察眼と小暮の粘り強さによって捜査は思わぬ展開へ。

 視覚的要素が解決のカギとなっているのですが、もし映画化されて画面で見ても気づくことができるかどうか。うーむ、参った。

 渋谷あたりを歩く女子高生の雰囲気がうまく出てるし、終盤まで犯人を絞りこめないのが読んでいて楽しめました。最後の最後も衝撃でしたし。うう、行きたくないですねえ、渋谷(笑)
(2017.8.11)

 

ミステリ書店シリーズ 2
「幽霊探偵の五セント硬貨」
ランダムハウス講談社
アリス・キンバリー 著  新井ひろみ 訳

  幽霊探偵の五セント硬貨 ミステリ書店 2 (ランダムハウス講談社文庫)


原題「The Ghost and the Dead Deb」。社交界の華と呼ばれた女性が殺された。そして今度は、事件の真相に迫った作家までが謎の失踪!? 自分の店に招いた作家とあらば見過ごせない。真相究明に乗り出した書店主ペネロピーは、捜査の参考にと、店の倉庫に眠っていた幽霊探偵の事件簿を取り出してみることに。すると、中から一枚の五セント硬貨が転げ落ち…。この一枚がやがて、幽霊探偵とミステリ書店主の名コンビの命運を分ける。

 新シリーズ開拓。1949年に死亡した私立探偵の幽霊ジャック・シェパードと、片田舎キンディコットで本屋を営むペネロピーのコンビが身近で起きた事件を解決するミステリー。

 登場人物紹介の一番上に、ジャックについて「私立探偵。現在は幽霊」とあり面白そうで手にとってみました。男性主人公のコージーは意外と面白そうですからね。
 読んでみたら主人公は女性のペネロピーでしたが、コンビ探偵の活躍も楽しかったです。

 今回もシリーズの2巻のため、幽霊のジャックが現代によみがえった理由、それがペネロピーの本屋である理由など、詳しい設定はつかめていません。
 でも、テンポよい展開でペネロピーも行動的、推理の種まきもされているので面白い。さくさく読み進みました。

 最初は書店の建物から外にはジャックは出られない、という設定でしたが、後半事態が変わっていきます。ちょっと可笑しかったのは、ジャックが(ペネロピ―だけの)前に現れると、部屋の温度が下がってひんやりする様子。ペネロピ―は「光熱費の節約になっていい」などと身もふたもないことを言ってます(笑)

 ところで、見返しの著者紹介を見てびっくり。「コクと深みの名推理」シリーズのクレオ・コイルと同じ作者なんですね(同じというか、夫婦共著の別ペンネーム)
 あちらのシリーズよりロマンス色が濃くてちょっと雰囲気が違います。私の好みはコーヒー・シリーズですが、こちらも探して読んでみようと思います。
(2017.5.20)

 

ミステリ書店シリーズ 3
「幽霊探偵とポーの呪い」
ランダムハウス講談社
アリス・キンバリー 著  新井ひろみ 訳

  幽霊探偵とポーの呪い (ミステリ書店 3) (ランダムハウス講談社文庫)


原題「The Ghost and the Dead Man's Library」。「先祖代々、蒐集してきた蔵書を今すぐ手放したい」――幽霊屋敷に住む、風変わりな老紳士から依頼を受けた書店主ペネロピー。膨大な数のコレクションの中にはなんと幻のエドガー・アラン・ポー全集まで! よろこんで引き取ったまでは良かったけれど、この本に関わった蒐集家たちが次々に死亡。まさかポーの呪い!? そんなとき耳にしたのは奇妙な噂――全集には秘宝の隠し場所を示す暗号が隠されている、というもので……。

 前巻からバイ・ザ・ブック以外にも出没(?)できるようになったジャックとペネロピーとのコンビの活躍。幽霊探偵が幽霊屋敷という個性的な設定ならではの不思議な推理を期待しましたが、わりに現実的な展開でした(笑)

 ポーの全集に隠された謎を純粋に追い求める人もいれば、現実的な利益しか見えない人もいる。本好きとしては複雑な気持ちですが、こういうものなのね。そこをきちんと仕事と割り切るペネロピーがかっこいい。
 他にも、サディ伯母の切ない思い出語りや、ジャックが生前に扱った事件の意外な真相がストーリーに深みを加えていました。

 ところで、郵便配達員が物知りトリビアクイズ番組「ジョパディ!」を目指しているって設定、他のシリーズとかぶって困ります。どうしてコージーミステリーって狭いジャンルで偶然が重なってしまうのか。いや、実際によくある事なんだろうか?
(2017.5.26)

 

はちみつ探偵 1
「ミツバチたちのとんだ災難」
原書房コージーブックス
ハンナ・リード 著  立石光子 訳

  ミツバチたちのとんだ災難 (コージーブックス)


原題「Buzz Off」。町で唯一の食品雑貨店を切り盛りするストーリー・フィッシャー。何でも美味しいものが手に入るけれど、一番のお勧めは極上のはちみつ。はちみつの奥深い世界にすっかり魅せられた彼女は養蜂を勉強中で、ゆくゆくは師匠と本格的に養蜂事業を始めるつもり。そんな矢先、師匠が全身を蜂に刺されて急死した。状況から警察はミツバチが犯人と断定。でもミツバチの知識があるストーリーは真犯人は別にいるとにらみ……!?

 新シリーズの開拓。舞台はアメリカの田舎町で、ご近所さんの顔も皆知っている中での事件発生が緊張感あります。また、研究熱心なヒロインのはちみつ談義も楽しいです。
 登場人物はそれぞれ個性的だし、ヒロインのストーリーが行動的なので最後まで飽きさせません。

 ただ、主人公のストーリーが意外に「嫌な女」の片鱗をのぞかせていて(笑)、コージーミステリーには珍しいといえば珍しい。高校時代にはそこそこモテたらしいのですが、当時のボーイフレンドを振ったことすら忘れているし。思い込みで盗難に手を染めようとするし(結局、未遂でしたが)。ストーリーの妹ホリーの方が適度に抑制が効いていて、彼女が登場する場面は安心して読めました(笑)

 このシリーズ、馴染めるか否か、まだ決めかねている感じなので、2巻も探してみようと思います。
(2017.12.10)

 

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